第6部 第23話 軍神、降臨――背中を預ける「義」
旧ハクザン領、北の砦。
爆炎が石造りの壁を砕き、最後の防衛線はもはや瓦礫の山と化していた。
「……はぁ、はぁ……っ! まだだ……。まだ、折れるわけには……いかんのだ……ッ!!」
第4番隊長マックスウェルは、ひび割れた大剣を杖代わりにして、辛うじて膝を突かずに踏みとどまっていた。全身の鎧は剥がれ、流れる血が足元の土を黒く染めている。
目の前には、勝ち誇ったように巨大な魔力を練り上げる魔将が、無慈悲な一撃を放とうとしていた。
「しぶとい男だ。だが、その忠義もここで潰える。……死ね、人間」
魔将の放った漆黒の魔弾が、音を置き去りにしてマックスウェルの眉間へと迫る。
死を覚悟し、マックスウェルが静かに目を閉じた、その時。
――パキィィィンッ!
空気を切り裂く、澄んだ金属音が戦場に響き渡った。
マックスウェルの目の前、届くはずの死が、黒銀の火花となって霧散していく。
「……遅くなったな、マックスウェル。よく耐えた」
聞き覚えのある、静かで、それでいて芯の通った声。
マックスウェルが目を開けると、そこには、かつての主君であり、死んだはずの「軍神」が立っていた。
ハルト(ルーニー)。
その右腕の痣からは銀色の魔力が立ち昇り、背中には軍神としての圧倒的な威圧感が宿っている。
「……ハ、ハルト……様……? 夢、では……ないのか……?」
「夢ではない。……お前が繋いだこの砦の『火』、消させはしない」
ハルトは一歩踏み出し、抜刀すら見せぬ速さで、次々と肉薄していた下級魔族を塵へと変えていく。
その神速の動き、そして「黒銀の小太刀」が放つ異質な魔力に、魔将が驚愕して後退した。
「……貴様、何者だ! 死んだはずのハクザン公子が、なぜこれほどの力を……ッ!」
「名乗る必要はない。……貴様が蹂躙したこの土地は、今日この時をもって、再び我ら『ハクザン』が取り戻す」
ハルトの背後から、ゲオルグ、エヴァ、そして正教会の精鋭たちが、怒涛の勢いで砦へと雪崩れ込んできた。
絶望に沈んでいた兵たちの瞳に、再び「勝機」の光が宿る。
「……総員、反撃開始だ。……裏切り者のシオンに、本当の軍略というものを教えてやる」
ハルトの鋭い号令が、戦場を支配した。




