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第6部 第20話 軍神の初陣――黒銀の閃光

聖域の重厚な石門が開くと同時に、立ち込めるのは鉄錆と魔力の混じった不快な臭気だった。

そこには、魔将バルザスの死によって統制を失い、シオンが放った「狂気」の魔力に当てられて暴走した魔族の精鋭たちが、門を食い破らんと殺到していた。

「……ハルト様! お戻りになられたのですか!」

前線で指揮を執っていたエヴァが、煤けた顔で振り返る。

その背後では、正教会の騎士たちが疲弊し、防衛線が今にも決壊しようとしていた。

「……ああ、エヴァ。……下がっていろ。ここからは俺がやる」

ハルト(ルーニー)の声は、驚くほど静かだった。

だが、その一言が発せられた瞬間、狂乱状態にあった魔族たちが、本能的な恐怖に突き動かされたように動きを止めた。

「……グア、ア……? ……なんだ、このガキは……?」

魔族の先頭に立つのは、魔人核の恩恵を過剰に受け、肥大化した肉体を持つ『擬似魔人』の兵たちだ。彼らが一斉に、手にした巨大な棍棒や剣をハルトへと振り下ろす。

「(……見える。……すべてが、止まっているようだ)」

ハルトの左目、狂王の「紅」が微かに輝く。

魔人核を支配したことで、ハルトの知覚速度は「常人」の域を遥かに超越していた。

ハルトは腰に帯びた『黒銀の小太刀』の柄に、そっと手を添える。

「……不知火しらぬい

――キィィィンッ!

空気が鳴いた。

抜刀の動作すら、誰の目にも映らなかった。

ただ、ハルトが魔族の群れの中を通り抜けた瞬間、先頭にいた十数体の擬似魔人たちの体が、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

「なっ……!? 何が起きた……ッ!?」

生き残った魔族が戦慄する。

切り口からは血すら噴き出さない。魔人核の力によって再構築された「黒銀」の刃は、肉体だけでなく、魔力そのものを断ち切り、霧散させていた。

「……誉れなき暴力には、死を。……誇りなき略奪には、断罪を」

ハルトの背後に、巨大な軍神の影が重なる。

一歩進むごとに、魔族の軍勢が波が引くように後退していく。

それはもはや戦いではなく、不浄を焼き払う「儀式」に近い光景だった。

「……エヴァ、テイラー、ゲオルグ。……遅くなってすまなかった。……ここからは、俺が明日への道を切り拓く」

ハルトの掲げた黒銀の小太刀が、霊峰に降り注ぐ月光を反射し、反撃の狼煙として輝いた。

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