第1部 第12話 黒金の防壁――ハクザン沖の決戦
朝霧が深く立ち込めるハクザン郊外。
一週間に及ぶ遅滞戦術で、心身ともに限界まで苛立っていたバルカス将軍率いる帝国騎士団は、ようやく視界が開けた街道の先に、それを見た。
「……何だ、あれは?」
霧がゆっくりと晴れていく中、ハクザンの都を背にして、異様な光景が広がっていた。
そこには、三列に渡って整然と組み上げられた、見たこともないほど強固な「馬防柵」が、街道を完全に封鎖するようにそびえ立っていた。
柵の木材には、ラインハルトが私塾の教え子たちに命じて刻ませた「防護の紋章」が淡く光っている。それは単なる物理的な壁ではなく、魔法の衝撃を拡散させる「魔法防壁の檻」でもあった。
「ふん、子供騙しの工作よ! あんなもの、重装騎士の突進で粉砕してしまえ!」
バルカスは、ラインハルトの術中に完全にはまっていた。焦りと怒りで、彼は柵の背後に潜む「静寂」の不気味さに気づくことができない。
「全軍突撃! 柵ごと踏み潰し、ハクザンを血の海に沈めよ!」
三千の軍勢が、地鳴りを立てて突進を開始する。
対するラインハルトは、柵の最後方に設置された指揮台に立ち、冷徹に敵の距離を測っていた。その隣には、主の合図を待つシオンが、魔法兵たちを完璧な統制下に置いている。
「……五百。……三百。……百五十」
帝国軍の先鋒が、魔法の壁に魔法を叩き込み、それを打ち破ろうとする。だが、ラインハルトの策による「多重防壁」は、小規模な魔法ではびくともしない。
「……今だ。……『三段の儀』を開始せよ!」
ラインハルトの右手が力強く振り下ろされた。
柵の隙間から、魔法兵たちの腕が一斉に突き出される。
「第一列、放てッ!!」
轟音と共に、数十発の『ファイアボール』が、一つの巨大な「火の散弾」となって、密集した帝国騎士団の最前列を直撃した。




