第6部 第4話 偽りの玉座――沈黙の潜入
王都「ルミナス」。かつて白亜の輝きを誇ったその街は、今や禍々しい漆黒の魔力に汚染されていた。
「……これが、王都だと? 反吐が出るぜ」
顔を隠したハルト(ルーニー)は、横に並ぶエヴァ、テイラーと共に門を潜り、変わり果てた街並みを睨みつけた。
街の至る所に、魔王軍の紋章と王国の紋章が並んで掲げられている。支配の構造は明白だった。王家の血を引かぬ野心家シオンが、魔族軍と手を組み、実権を握ったのだ。
それだけではない。ハルトの胸を鋭い錐で刺すような事実が、街の噂話から聞こえてくる。
「(……シオン様と、エレオノーラ王女の婚礼の儀が……間近だそうだ)」
(……ふざけやがって。俺の母親を、政略の道具にして玉座に座ったか、シオン……!!)
布の下で、ハルトの顔の痣がどす黒く脈打つ。魔人核が主君の怒りに呼応し、制御不能な魔力を放ちそうになるのを、エヴァが背後からそっとその腕を掴んで制した。
「……ハルト様、今は抑えてください。……ここで暴れれば、アイリス様を救い出す前に王都が焦土と化しますわ」
「……分かってる。イライラさせやがって……」
三人は情報の集まる酒場、そして監獄要塞へと続く地下水道の入り口を探り、潜伏を開始した。
半年の調査は無駄ではなかった。シオンの圧政に不満を持つ抵抗勢力、そして魔族軍との間に生じている「亀裂」が、潜入したことでより鮮明に見えてきたのだ。
そして、最も重要な情報。
監獄要塞『アイアン・ガルド』の深部。そこには、魔導研究所の実験体として、連日「魔力の過負荷」を浴びせられ続けている女がいるという。
「……アイリス。あいつの『耐久力(ドM体質)』なら、まだ生きてるはずだ。……実験が続いているということは、まだ壊れちゃいねぇ」
テイラーが影の中から、一枚の内部図面を差し出した。
「……ハルト様。研究所の警備は、シオンの直属部隊と魔族の混成。……ですが、エレオノーラ王女との婚礼の影響で、明晩、警備に『隙』が生じますわ」
「……決まりだ。アイリスを引っこ抜き、ついでにシオンのツラを拝んでやる」
母親を奪われ、家臣を弄ばれ、国を汚された男。
「ハルト」という偽名の裏で、かつての狂王の牙が、シオンの喉元に向けて研ぎ澄まされていく。




