第1部 第1話 黒金の塔の忌み子
慶長五年九月十五日。関ヶ原の戦場に、一人の男が散った。
大谷刑部少輔吉継。
「三成、我が義はここまでよ……」
病に冒されたその身を、自ら断ち切った瞬間、吉継の意識は深い闇へと沈んだ。
(もし次があるならば……次は病に冒されぬ体で、最後まで義を貫きたいものだ)
それが、現世での最期の願いだった。
……次に目を覚ましたとき、そこには眩い光と、聞き慣れぬ言語が飛び交う世界があった。
「生まれた! 男児にございます、辺境伯様!」
吉継は、異世界の貴族・ラインハルト辺境伯家の嫡男、ラインハルトとして転生した。
しかし、産声とともに静まり返る部屋。産婆の震える声が響く。
「こ、これは……なんという……」
赤子の左顔面には、どす黒い、大きな**痣**が広がっていた。
それは前世の業病の跡か、あるいはこの世界の不吉な予兆か。
駆け寄った父・ラインハルト辺境伯は、我が子を抱き上げるどころか、嫌悪に満ちた目で吐き捨てた。
「汚れだ。我が家の血を汚す忌み子よ! 縁起でもない、今すぐ私の目の前から消せ!」
実の父に拒絶された赤子は、その日のうちに屋敷の最北端にそびえ立つ、光の届かぬ**「黒金の塔」**へと運び込まれた。
数年後。
塔の最上階、冷たい石壁に囲まれた部屋で、幼いラインハルトは鏡を見つめていた。
そこには、左顔面を黒い痣に覆われた少年の姿がある。
だが、その瞳には幼子とは思えぬ、鋭く、落ち着いた知性が宿っていた。
(父に疎まれ、塔に幽閉されたか。……クク、面白い。関ヶ原で散ったこの命、今度はこの暗闇から始めるとしよう)
ラインハルトは、窓の格子から見えるわずかな星空を見上げ、静かに微笑んだ。
顔に痣があろうと、世界から隠されようと、その魂に刻まれた「義」の炎までは消せはしない。
「見ておれ。この塔の中から、私は世界を動かして見せる」
義星、再臨。
黒金の塔の孤独の中で、少年ラインハルト――大谷吉継の、静かなる逆襲が幕を開けた。




