こだまする叫び声
斜面をなでるように低く、地面すれすれにドローンが下降してきた。
ぺナは、喉が切れるような声で叫んだ。
「ツェリーン! 逃げてぇー!」
ドローンはペマの声を無視し、背後の斜面へ移動していく。
ジョーはその声に反応してペマの方を見る。
すぐにソナムの手綱を放し、ペマのそばへと走り出した。
ペマは慌てて立ち上がり、必死にドローンに向かって走り出した。
だが、その勢いに失った右足がついてこない。
しかも、足元は砂地のように柔らかい場所だった。
足を取られ、右肩から地面へ崩れ落ちた。
「うっ!」
ペマは顔をすぐに上げ、ドローンを見る。
顔の右側には白い砂と小石がくっつき、髪の毛は砂で真っ白になっていた。
「つ、ツェリン・・・は、早くっ・・・にげっ・・・」
ペマは起きようとするが、動揺する心が、体を上手く動かせない。
「動け! ・・・このっ!」
そこへジョーがやって来て、右肩付近の服を噛んで上体を持ち上げる。
ペマは左手と左足を使って、トントンと軽くジャンプするように腰を上げていく。
その隙間にジョーが背を入れる。
ペマは左足を曲げてジョーに体重を預け、左手でジョーの背を押して立ち上がった。
そして、顔を上げドローンを確認する。
ドローンが斜面の途中で静止した。
斜面の周りは砂ぼこりで真っ白になっている。
ペマは、その動きに恐怖して、真っ青になる。
「だ、だめえ!!」
ペマが叫んだ声は、近くの山脈でこだました。
次の瞬間、ドローンはどこかへと飛び去った。
ペマは、その場に立ち尽くし、ドローンの行方を追いかけた。
そして、ツェリンの死を覚悟した。
ゆっくりと顔をドローンが静止していた場所へ戻していく。
「あた・・・あたいのせいだ・・・あたいが・・・あう・・・
一人で旅ができてれば・・・ぐっ」
酸素の少ない高地で、ペマの感情が呼吸を苦しくし、体が痙攣する。
ペマの頬を涙がつたう。
そして、肩を落とし、斜面の方へゆっくりと歩いていく。
ジョーは心配そうに、顔を見上げ、右側にペマに合わせながら歩いていた。
その時、ジョーの耳がピクピクと何度も動く。
そして、ペマを置いて走り出した。
「ジョー?!」
ジョーが勝手にどこかに行くことなんて、ほとんどない。
そのジョーの動きに驚いた。
斜面の影にジョーが消えていく。
ヴワンッ!ヴワンッ!
ジョーの声が、周囲の斜面で何度もこだました。
「え? なに・・・?」
ジョーの呼ぶ声に、ペマの足が速くなる。
そして、斜面を登ろうとした時。
「・・・・・・・てって!」
声が聞こえてきた。
「え?」
その声にペマは驚く。
「こら、ジョー、やめ、やめてって!」
「ツェ・・・リン・・・?」
ペマは驚きと、うれしさと涙でぐちゃぐちゃな顔になった。
右足を大きく振り出して、必死に斜面を登る。
「ツェリン!」
ツェリンは、尻餅をついた状態でジョーにベロベロと舐められていた。
それを嫌そうに、ジョーの顔を手で押し返す。
ズボンは慌ててあげたのか、ウエストは完全に閉じていなかった。
「だから、ちょっとストップ!」
そこにフッと影が落ちる。
次の瞬間、ツェリンの上にペマが飛び込んできた。
「ぶっ!?」
「ツェリン! 無事でよかった~~!」
そう言って、ペマは大声で泣き出した。
ツェリンは驚いた顔がゆっくりと優しい顔になって、ペマの頭をポンポンと軽く叩いて抱いた。
そこにジョーの舌が飛び込んでくる。
ツェリンの頬は舌で何度も歪み、髪の毛がどんどん濡れて重くなって垂れ下がる。
「あー、もう・・・好きにしろ・・・」
呆れたように笑いがこみ上げた。
ツェリンの髪は艶々によだれで満たされていった。




