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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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敵を知るとき

――10月14日 アストロノミカル天文台


朝の陽ざしがカーテンの隙間から差し込んでくる。

眠り続けたペマは、そのまぶしさに目を覚ました。


ジョーも待っていたかのように首を持ち上げた。


ペマは腹筋だけで上半身を起こし、周りを見回した。


「えっと、ここは・・・昨日・・・アストロなんとか天文台の宿舎だっけ?」


ジョーが尻尾で床を鳴らす。

ピターン!ピターン!と緩やかな音が、ペマの状態を知らせているようだった。


毛布をめくり、体を90度回してベッドから足を落とす。


「よっ!」


片足立ちで、ピョンピョンと窓際に近づいてカーテンを開けた。

まぶしい光がペマに襲いかかり、左手を目の前にかざして外を見る。


山の上にある天文台とは違い、宿舎は山の麓に隠れるように立っていた。

目の前には巨大な反射望遠鏡が鉄のフレームを天に向かって掲げている。

その周りには六角形に配置された望遠鏡小屋が並び、小屋の上には7つの望遠鏡の筒が整然と並んでいた。

山の斜面には太陽光パネルがずらりと並び、この施設が電気を自給自足していることがわかる。


小さくカチャリと音がして、ドアが開いた。

ジョーが振り返るが、ペマは気づいていない。


「おお~、すげえ!」


「近くで見るともっと迫力あるわよ。」


その声にペマが振り返る。


「ごめんね。 起きてると思わなかったから、ノックしなかったわ。」


「あ、ダイジョブです。 見られて困るもんないんで~。」


ペマはそう言って笑った。

ツェリンは昨日のことには触れなかった。

いつ発作が起きるかわからなかったからだ。


「お腹減ってない? 昨日全然食べてないでしょ?」


「そうだ。 昨日の朝を食べてから、何も食べてないや。」


「食堂に行きましょ。 民族料理とかじゃないけど、美味しいご飯はあるわよ。」


「おお~、期待して良いっすか?」


「いいんじゃない?」


ペマの明るさに、ツェリンも笑った。


―――


食堂は、男性の宿舎と女性の宿舎をつなぐように中間に作られていた。

階段を降りると、両サイドから食堂に入れる構造になっている。


食堂では、男女がしゃべりながら一緒に食べていたり、

一人で本を読みながら食事を取る者など、様々だった。


天文台は夜が主戦場。

この朝の時間帯はほとんどの人が寝ているため、5人しか食事を取っていなかった。


ペマもツェリンも同じ片足。

階段を一足一段で降りてくる。

ジョーはペマの直後をついて歩く。


「ツェリンさんも義足だったなんて、びっくりしたよ。」


「ふふふ、ジョーは歩き方見て、すぐに気づいたよ。」


食堂に入ると、ペマをテーブルにつかせ、ツェリンは料理を取りに行く。

配膳台を押しながら戻り、まずジョーの食事を置いた。


ジョーはそれを見て、よだれを垂らしながらジッと見つめている。

ペマが「よし!」と言うと、大口を開けてガツガツと飲み込むように食べ始めた。


「ちゃんと噛めよ!」


ジョーの耳が少し後ろに下がったが、食べる速度は変わらない。


「ふふふ・・・」


ツェリンは笑いながら、自分たちの食事をテーブルに置き、椅子を引いて座った。


長方形のトレーが仕切られており、そこに今日の朝食メニューが乗せられていた。


「おお~、知らない食いもんばっかだー。」


ペマはトレーの食事を舐めるように眺めて言った。


「ふふふ、さあ、食べよう。」


ツェリンはスプーンに乗った裸麦を口に運び、そのスプーンをペマに向けて尋ねる。


「ペマ、あなたどこから来たの?」


「ツォモリリ湿地の避難民キャンプ場から。」


ペマは目線を上げず、ご飯を食べながら答える。

ツェリンはその意外な場所に驚く。


「こんなとこで何してるのよ?」


「メモリーを運んでるんだ。」


フォークに変えて、スライスされた肉に指すと、口に押し込んだ。


「メモリー? なんかのデータってこと?」


「そそ、動画のデータが入ったメモリー」


マグカップのスープを一度かき混ぜ、フォークを置いてカップを持ち上げて熱そうにすすった。


「動画? そんなデータをどこに運ぶの?」


ペマは食べるのを止めて、眉間にしわを寄せて考える。

ツェリンはスプーンで押さえながら、フォークに肉を差し込み口へと運ぶ。


「・・・んと、最終的には月・・・かな・・・?」


カラ~ン!


ツェリンはフォークを落とした。

ペマはその音にツェリンの顔を見た。

食べ終わっていたジョーは、寝ころんでいたが、起き上がってテーブルの上に顔を出した。


ツェリンは口に含んだばかりの肉を一生懸命噛んで、急いで飲み込む


「それ、なんのデータなの!?」


食堂に大きな声が響き、食堂にいた5人がこちらを一瞬見て、再び目線を自分のテーブルへ戻す。


「あたいが撮影したドローンの動画。」


ツェリンは左手に持ったスプーンに自然と力が入り、緊張が走った。


「そ・・・それ・・・どんな動画なの? 遠くにいるドローンとか?」


「どれぐらいだっけ?」


ペマは手を伸ばして思い出す。


「・・・5〜6メートルぐらい?・・・かな。」


ガタン!!


ツェリンが椅子から立ち上がり、食堂に音が響いた。

食堂の5人は、今回は目線だけをこちらに送り、動きが止まる。

その視線に気づき、ツェリンは両耳を引っ張って席に着いた。


ツェリンはペマの方に体を寄せ、小声で話す。


「その動画見せて。」


「再生できるの?」


ペマはトレーに顔を近づけ、スプーンで裸麦を口に掻き込みながら上目遣いで見る。

体を起こして咀嚼する。

ジョーがその動きを食べたそうに見つめていた。


「ここをどこだと思っているの?」


「再生できるならいいんじゃない?」


「よし、ご飯早く食べちゃおう。」


ツェリンは、ペマのようにトレーの料理を掻き込んでいった。


―――


食べ終えて、ペマの部屋に大事な物入れのショルダーバッグを取りに行こうと

食堂を出ようとしたとき、ちょうどスタンジンが階段を下りてくる。


ツェリンがスタンジンの手をつかみ、引っ張った。


「あんたも来なさい!」


「え? 一体なんだよ?」


ツェリンは何も答えず、スタンジンを引っ張っていった。


―――


ガアン!!


天文台の金属製の扉が大きな音を立てた。

ジョーは建物の外で“待て”を指示され、ドアが見える位置に陣取ると、

大あくびをして寝ころんだ。


階段を登っていくペマたち。


「観測室」と書かれた扉を開ける。


「なあ、一体なんなんだよ? こんな朝っぱらに、何しに観測室に?」


食堂から連れ出されたスタンジンはついて来てはいるが、目的がわかっていない。


「ペマが撮影したっていう動画を観るのよ。」


「動画ぁ? 何の動画だよ?」


「ペマの話だと、ドローン。」


スタンジンの顔が引きつり、一瞬固まった。


「・・・・・・マジか。」


それを聞いて、嫌々ついて来ていた足が急に早くなる。

振り返って言った。


「おい、早く!」


「あんたみたいに歩けないのよ!! バカなの!?」


ペマは二人のやり取りを後ろで笑っていた。


―――


画面が真っ黒なモニター。

スタンジンが椅子に座り、モニターが載った机のマウスを乱暴に左右へ振る。


モニターのスリープが解除され、PCのデスクトップが表示された。


「ペマ、出して。」


ツェリンは手のひらをペマに差し出す。

ペマはショルダーバッグのチャックを開け、中からメモリーの入ったケースを取り出した。

箱を開けてメモリーを取り出すと、それを手渡す。

PCのUSBコネクターに差し込むと、PCが認識してドライブが増えた。


スタンジンがドライブをクリックすると、フォルダーが2つ出てくる。

ひとつはJOE、もうひとつはPEMAと書かれていた。


「これはジョーの首に付けてたカメラのデータ。」


ペマはモニターを指さして説明する。


「ジョーも一緒だったの?」


「そうだよ。」


フォルダー順にJOEが上だったので、スタンジンはJOEをダブルクリックした。

カチカチッとクリック音が観測室に響く。


“MOVIE-JOE.mp4”と記されたファイルがあった。

それをスタンジンがダブルクリックして再生する。


画面に動画がフルサイズで映し出される。

ジョーの首輪に取り付けられたカメラは動きに合わせて上下動し、画面が激しく揺れた。

三人も画面の揺れに合わせて揺れて見ていたが、スタンジンが目を強くつぶって目頭を押さえた。


「先にペマの動画を観よう!」


そう言って再生を止める。


「賛成!」


ツェリンがスタンジンの肩を叩く。そのやり取りにペマが笑った。


「再生待って!」


スタンジンが再生しようとした時、ツェリンが止める。


「なんだよ?」


「ファイルが壊れるとマズいからコピーしてよ。」


「ああ、そういや、そうだな・・・」


スタンジンは新しいフォルダーを作り、そこへUSBのフォルダーをコピーする。

画面にコピーの転送速度を示すグラフが上下に揺れながら、左から右へと進んでいく。


三人はそれを眺めて待った。

スタンジンは腕を組み、指でトントンとリズムを刻む。


「デカいだけあって長いな・・・」


巨大なファイルだったので、コピーに5分以上かかった。


USBを抜き取り、ペマに返す。

ペマはケースに戻し、ショルダーバッグに入れた。


スタンジンは動画を再生する。

最初はペマが歩くシーンが延々と続く。


「霧すごいな・・・」

「なにも見えないわね。ツォモリリってこんな霧濃いんだ。」


「・・・・・・・。」


真っ白な霧が続く映像に、言葉が途切れる。

一緒に見ていたペマが“あっ!”という顔をした。


「そうだ、ドローンが出てくるのは3時間後ぐらいだよ。」


「・・・早く言ってくれよ。」


スタンジンはタイムラインを3時間あたりへスライドさせる。

ちょうどドローンが近づいてくるところだった。

ペマが補足する。


「この時、風向きが変わってドローンの音が聞こえ始めたんだ。

ツォモリリの湖の盆地を登り続けて、霧の上限に近くなって霧も薄くなってくるよ。」


映像にバリバリという音が流れる。


「この音は?」


「夜の寒さで地面の水分が凍ってるんだよ。それを踏みしめる音。

これ、足元が沈むんで歩きにくいんだ。」


(この音なんだろうね・・・?)


映像にペマの声が入る。


「ん? なんか聞こえるか?」


スタンジンが音量を上げると、ブーン・・・と鈍い音が聞こえた。


「確かに、なんか音があるな・・・ドローンなのか?」


ペマは頷く。


「この時ちょっとパニクっちゃって、歩き方が雑になるんだけど・・・」


「この歩き方はよくないね。」


画像の揺れを見てツェリンが指摘する。


「わかってる。 でも、この時ジョーが・・・」


動きが急に止まり、画面の右側にジョーが現れ、カメラの方を見る。


ペマが胸元をつかんで深呼吸する声が聞こえる。


「私、ジョー大好きだわ~。」

「・・・オレもだ。」


二人の言葉に、ペマはうれしくなって耳が真っ赤になり、足を小気味よく振った。


画面では霧が次第に薄くなっていく。

ペマの声が入る。


(・・・そうか。そうだよね。そろそろなんだ・・・)


「ここからだね。来るよ。」


霧が渦を巻き、右へ左へと移動する。


ジョーの唸りがモニターに流れる。


「あっ!」


ツェリンが映像の黒い影に声を上げた。


流れる霧の渦が正面に止まる。

ジョーがペマの前に身構え、唸り続ける。


正面の霧の中に影が浮かび上がり、だんだん大きくなる。

霧が画面の上から吸い込まれるように下へ流れていく。


ジョーの唸りが高まり、頭を低く構える。


ヴワン!!


観測室にジョーの声がこだました。

スタンジンとツェリンがその声にビクッとなると同時に、

画面に巨大なドローンが現れた。


「!!」


その巨大さに、二人は声も出せなかった。

額に冷や汗が流れ、動悸が高まり、体がガクガクと震える。


動画のペマが尻餅をつく。

ジョーが一瞬こちらを見て、再びドローンへ向き直り唸る。


「あたい、この時ビビって尻餅ついちゃったんだよね~」


「・・・そ、そういう問題じゃないよ・・・」


ツェリンは口を押さえて震えている。


「え?」

ペマは首をかしげた。


ドローンはペマを観測するように周囲をゆっくり回り、

正面で静止してユラユラと揺れる程度で動かなくなる。


(こいつ・・・一体、何してんだ?)


ペマがドローンへ近づく音がする。


次の瞬間、ドローンは画面上へとあっという間に消えた。


「こいつ、このままどっかへ行っちゃうんだ。

何をしたかったのか全然分からないんだよね。」


ペマは何事もなかったように語る。

二人は黙ったまま、動悸がおさまらない。


「ねえ? どうしたの?」


スタンジンは左手で胸を押さえ、大きく息を吐きながら動画を止めた。

そして、一言つぶやく。


「これが敵か・・・」


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