ハンマーとニードル
観測室では先ほど発生した地震波のデータを解析していた。
エイドリアンはあわただしく、あちこちのデータを引っ張り出している。
「隕石は観測してないよな?」
「観測してないですねー。
近づいてきていた隕石は、赤道付近に落ちる予定だったはずです。」
「だよなあ・・・さっきの波は何だったんだ?」
そう言って、エイドリアンは頭を掻いた。
そこにマーカスが観測室に入ってくる。
「あー・・・すみません。
さっきの波、ウチのレールガンの試射です・・・」
「え!?」
エイドリアンと他のクルーがマーカスの方を向いた。
目の周りにクマを作ったマーカスが、申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「れ、レール・・・ガンですか・・・?」
「はい。」
「レールガンって、あんな震度波出せないでしょ?」
「いやあ~、ちょっと巨大なレールガンでして・・・」
「どれぐらいですか?」
「8インチほど・・・」
「ウソでしょ!?」
「いえ、対死神用なので、既存のレールガンとは違います。」
エイドリアンが立ち上がる。
「見せて貰っても!?」
「あ、良いですよ。
今はまだ検証中なので、最終的な目標の速度にはなってませんが・・・」
「それでいいです。
一応、さっきの波が本当にレールガンが原因なのかが知りたいだけです。」
開発室へ持っていく書類をまとめる。
「いえ、今後はさらに大きくなると思いますよ。」
「は?」
書類をまとめていた手が止まり、マーカスを見る。
「今はまだ初速が低いので、今後威力は上がります。
なので、今後はもっと震度が強くなるので、ご迷惑をおかけするかと思います。」
「ちなみにどれぐらい?」
「そうですねえー・・・」
マーカスは親指と人差し指で顎をこすり、目線を泳がしながら少し考え、続けた。
「衝撃で言うと・・・先ほどの倍程度でしょうか・・・」
「はあ~?
一体何を作ってるんですか!?」
あまりの壮大な話に、エイドリアンは持っていた書類をテーブルに置き、前のめりになる。
「レールガンですが。」
「いや、いや、いや・・・おかしいでしょ!!」
手をブンブン振って、あり得ないって顔をする。
「ここで論議するより、見てもらった方が良いですね。
行きましょう。」
マーカスはスタスタと観測室を出て行った。
慌てて置いた書類を手に持つエイドリアン。
マーカスの後を追おうとしたが、いったん止まって振り返りクルーに指示する。
「データ取っておいてくれ。」
頭を縦に何度も振ってこたえた。
それを見て、エイドリアンはマーカスの後を追った。
―――
開発室では、技術班のクルーが一発目の試射で得られた数値を確認している。
「着弾地点の破壊力は約1.7MJ。」
「着弾点の岩石は溶解を確認。」
「仰角45度で発射時のシミュレートは、推定1.5キロ~1.8キロ。」
開発室へマーカスが戻って来る。 その後にエイドリアンがついてくる。
「戻りました。」
解析していたクルー達が振り返る。 一緒に来たエイドリアンに気づいた。
その目線に気づいたマーカスが説明する。
「あ~、観測班のエイドリアンだ。 地震波の原因を見学に来た。」
「ども、エイドリアンです。」
「砲身に問題が無ければ二射目に入ります。」
「ありません。」「大丈夫です。」
マーカスの問いに技術班のクルーが返答した。
「では、次はレーザーモジュールでの発電2秒で。」
「了解です。レーザーモジュール2秒を想定。発電値設定します。」
再び開発室にキーンという高周波の音が響き渡る。
エイドリアンは、その響く音を見上げるように見回した。
「放て!」
砲身から雷のような光が短く放たれた。
瞬時に目標のクレーターの壁に到達し、砲弾の圧力で岩石がプラズマ化し、カッ!とまぶしい光を放ち、周辺の影が消え失せ、白く焼き付く。
次の瞬間、クレーターの壁は扇状に四散し、宇宙空間へと伸びていく。
地面の方へ向かった破片は、弾丸のような雨が降り注ぐ。
その衝撃にレゴリスが浮き上がり、衝撃波のように先へ先へと伸びていく。
そして、その衝撃が月面を伝い基地に到達する。
ドンッ!!
鋭い衝撃波がやってきた。 床が大きく揺れ、体が浮くような感覚を覚えた。
エイドリアンは、よろけて近くの机に手を置いた。 その瞬間、顔が青ざめる。
「初速は?」
「200m/sです。 着弾点のエネルギー量は約3MJ。」
「レールも問題ありません。」
「ふむ、悪くないですね・・・次は・・・」
エイドリアンが詰め寄り、マーカスの机を叩いた。
「基地を壊す気ですか!?」
マーカスは一瞬驚いた。
「・・・そんな気はありませんが?」
「いえ、これ以上は基地がヤバいです!」
「そうでしょうか・・・?」
顎に指を立てて上に持ち上げ、天井を見る。
天井の機器を確認するように左右へ目を動かす。
「・・・まだ行けるでしょう。」
「なっ――」
エイドリアンが声を出そうとした瞬間、フィリップたちがやってきた。
「マーカス!
一体、何をやっている!?」
マーカスは目をぱちくりさせてフィリップを見る。
技術班のクルーも驚いて開発室の入り口の方を見つめた。
「マーカス! さっきの地震のような物はなんだ?
観測班から聞いたが、お前たちがやったのか?」
「・・・ええ、レールガンの試射を行ってますが・・・」
後ろにいたレオンの眉間にしわが寄る。
「さっきの地震がレールガン?」
エイドリアンが再びマーカスの机を叩く。
「ほら、これが普通の人の反応です。 絶対これ以上はダメです。」
「これ以上?
あれ以上があるのか?」
フィリップの額に冷たい汗が流れる。
「はい。 今は単体レーザーモジュールでのシミュレートですが、
次は並列での速射が出来るかどうかをやろうかと。」
「絶対だめだ!」
フィリップが両手をクロスさせて力強く言った。
その命令にマーカスは残念そうに椅子にうなだれた。
背もたれに頭を乗せ、上目遣いでフィリップに尋ねた。
「本当に絶対だめですか・・・?」
「ダメだ。」
マーカスはその答えに大きくため息を吐いた。
「映像あるんだろ? 確認させろ。」
レオンがマーカスに聞くと、マーカスは他のクルーに録画映像を出すように手で指示する。
技術班のクルーの一人が頷き、操作を開始した。
一番大きなモニターに映像が流れる。
着弾の破壊映像を見てフィリップとレオンは愕然とする。
いつしか、開発室の出入り口には人だかりが出来ていた。
後ろでも破壊力に驚く声が聞こえた。
フィリップは唾をのみ込む。
「これ以上の破壊力いらんだろ?」とフィリップが尋ねる。
「どうでしょう・・・死神が50メートル級とかになったら、わかりませんよ。」
「50メートル級が来るのか?」レオンが続けて尋ねる。
「今はまだないですが、ケーブルタイプは絶対来ますよ。
ヘタすりゃ100メートル級もあり得るでしょう。」
「そ、そんな・・・バカな・・・」
「そうでしょうか?
私ならケーブルタイプに制限ないと考えますが。」
「じゃあ、来るとして、これで防衛できるのか?」
「足を止める程度なら。」
「・・・・・・。」
フィリップは声を失った。 後ろによろけ、机に手をついた。
「このレールガンはハンマーなんですよ。」
「ハンマー?」レオンが聞く。
「そう、硬くて重たいハンマーを死神に振り下ろすイメージです。
初速を上げるか、ハンマーの質量を上げるかで破壊力は増します。」
フィリップとレオンはイメージがつかめない。
「これが弾丸です。」
横から、なだらかな円錐の形をした弾丸を持ったハワードが、よろけながら寄ってくる。
その大きさに、周りで見ていた人だかりからひきつった声が漏れた。
「さっきみたいに落とさないでくださいね。」とマーカス。
「これ、何ミリだ?」レオンが尋ねた。
「200㎜です。 約8インチです。 重さは約150キロ。」
「こんなもん、地上で飛ぶのか?」
「飛びますよ。 空気抵抗を受けて減速はしますが、
150キロの重さのおかげで、その影響は少ないはずです。
仰角45度で発射して、飛距離は約2.5~2.8km程度でしょうか?
計算できていますか?」
マーカスは自分の暗算を、他のクルーに確認する。
「はい、できてます。
最大飛距離は約2.5~2.8km、最大到達高度は700~800mです。」
その話を聞いたフィリップは厳しい表情になり、腕を組んだ。
「約3キロ弱の安全圏か・・・」
「そうです。
たった直径5キロ弱しか安全圏ができません。
母艦が空中にいたら、こんなレールガンは意味がない。」
「つまり?」
「現状での問題である、母艦の主導権を奪います。
その為には母艦迎撃用のレールガンが必要です。」
「ぼ、母艦迎撃用・・・だと・・・? そんな事が可能なのか・・・?」
フィリップの言葉にマーカスが頷く。
ハワードが持っていた弾丸を床に置く。
150キロの質量に、“立っている者の足”へ、ズシン…と振動が伝わる。
エイドリアンはその振動に冷や汗を流す。
「班長は、死神の対地面耐性は、3000メートルが限界ではないかと予測されています。」
「対地面耐性とは?」
「母艦から降下した死神が受ける、着地時の衝撃のことです。」
ハワードの説明にマーカスが続ける。
「新型で形状を変えたことでわかりました。
初期の死神では、落下の衝撃に耐えられなかったんでしょう。
なので、関節を内部に引き込めるような形状にしたと思われます。」
「つまり?」
「テイデの標高と母艦の位置を考えると、3000メートル以上では降下しない。」
「なるほど・・・」
フィリップは腕を組んだまま、自分の顎を手でこすって説明を聞いている。
「迎撃用のレールガンはどんな感じになるんだ?」
「弾丸は艦艇で使われているレールガンと同じですよ。
ただ、母艦用なんで性能は落とせます。
死神用がハンマーなら、母艦用はニードルです。
60㎜程度で良いでしょう。 それを1000m/sで連射できれば・・・」
「連射なんてできる訳ないでしょ!」ハワードが突っ込む。
「・・・できないのか?」
フィリップが首をかしげて尋ねた。
「レーザーモジュールでの発電能力ですよ。
ハンマーで・・・2秒で貯めたエネルギーを使って200m/sなんですから、
仮に質量が1/10だとしても、速度を5倍に上げる為には、約4倍の8秒は必要です。」
「大体あってるな・・・」とマーカスがボソリとつぶやく。
「マーカス。 何か案があるってことか?」
フィリップがハワードからマーカスへと顔を向ける。
「まあ、あるにはあるんですが・・・」
マーカスは椅子を左右に回しながら答えた。
その言葉を聞いて、レオンの顔が“またか・・・”となった。
「無茶な話か?」
「いえ、そういうわけでは。
単純に予測の話なんで・・・絶対ではないんですよ。」
「話してみろ。」とフィリップ。
「テイデで撮影された母艦の映像の話なんですが、小型望遠鏡で見つけたって話だったでしょ?」
「そうだな・・・」
「高高度の物体を望遠鏡で追いかけて撮影できるってことは、
母艦の速度はそれほど速くないんですよ。
むしろホバーリングしてる感じです。」
「ほう。 それで?」
「死神の落下ポイントを狙っていると思っています。
移動速度が速いと、高高度からの落下では狙った場所へ死神が落とせない。
ということは、充電時間がかせげる。」
「ふむ・・・それで?」
マーカスは開発室の中央のテーブルに、その辺に転がっていたリモコンを置く。
「これが、レールガンだとします。」
再びその辺に転がっていたキーボードやタブレット、バインダーを
リモコンより自分側に並べる。
マーカーでテーブルに線を引く。
「これらがレーザーモジュール3基です。
並列運用も考えたんですが、並列は同期が難しいので、
個々のモジュールに専用コンデンサーを用意します。」
先ほど書いた線の上に「コンデンサー」をそれぞれ書いていく。
「これなら、8秒でも3発なら連射できます。」
開発室の全員が立ち上がって見ていた。
マーカスは周りを見上げながら見回す。
「どうかしましたか?」
バシッ!
レオンがマーカスの背中を叩いた。 レオンの顔は高揚していた。
マーカスは痛そうに肩越しに背中をなでる。
バシッ!
「あいた!」
フィリップが反対から背中を叩いた。
「あとは任せた。」
バシッ!!
「いてっ!」
今までで一番強くエイドリアンが叩いた。
「基地は壊すなよ。」
そう言って、開発室を出て行った。
「いったい何なんですか・・・」




