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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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兄妹の決意

――10月1日 月面基地


26日に発行された月面基地の無謀な指令書に対する報告が返ってきていた。

そのもたらされたデータに、フィリップは胸が締め付けられる思いだった。


「・・・我々の無茶な要望を実践してくれるとは・・・」


この報告は、人類が前へ進むために、地球側が月に協力してくれた結果だった。


報告は4件。


フィリップは一枚ずつ確認していく。

そして、ある報告書を見た瞬間、顔色を変えた。


「レ、レオン・・・み、皆を集めてくれ! マーカスも・・・」


レオンはその緊迫した声に、即座に「至急」を付け加えた。


―――


ブリーフィングルームには班長全員が集まっていた。

そこへ、フィリップとレオンが慌ただしく入ってくる。


その様子だけで、今回のブリーフィングがただ事ではないと全員が悟った。


フィリップは深呼吸し、報告書を掲げた。


「さ、先ほど地球から、

例の・・・“動物を連れた個人行動”の検証結果が4件上がってきた。」


「4件・・・? 少ないな・・・」

「いやいや、やってくれるだけでもありがたいだろう。」


マーカスがフィリップに問う。


「その4件の中に何かあったんですね?」


室内の空気が一段と重くなる。


「ああ・・・そうだ。

・・・皆の意見を聞きたい。」


フィリップは報告書を机に置き、ページをめくった。


「ま、まず・・・4件の結果は、すべてが生還だった。」


皆がホッとする。


「被害がなかったことは良いことだな・・・」

リードがそう言った。


「そうね。」アリサが頷く。


ミラーとマーカスは黙っている。

ケンは通信データを知っているせいなのか、目線をフィリップに向けたまま黙っていた。


「まず、3件は問題なし。

約36時間の単独行動を行い、全員が無事にキャンプへ戻った。

ドローンの監視はあったようだが、遠くで飛行音を聞いた程度らしい。」


ミラーが低くつぶやく。


「やはり監視はしてるんだな・・・」


フィリップは頷き、最後の一枚を手に取った。


「・・・問題は、この1件だ。」


全員が息を呑む。


「この報告内容が本当かどうか分からんが・・・

 対象は無事。 ドローンと数メートルの距離で遭遇。

 ドローンは20メートル級・・・とのことだ・・・」


ミラーが真っ先に声を上げた。


「は? 遭遇?」


マーカスも続く。


「それはありえないでしょ?」


レオンが補足する。


「だが、報告ではそうなっている。」


レオンはモニターに報告書の内容を映し出した。


―――――――――――――――――――――――

部隊:ツォ・モリリ湿地保護区、インド・チベット国境警備隊(ITBP)

責任者:アミット・ラナ

対象:ペマ・ビスト


同伴はチベタン・マスティフ。

行動時間は約12時間。


内容:行動開始からドローンが追尾と思われる。

(ドローンの飛行音と同伴の犬の反応を確認)


5時間後からドローンの行動に変化あり、

約1時間後ドローンが対象に数メートルの距離まで接近。


対象は20メートル級。

その後、予測できない動作を実施。


最終的にその場から離脱したと思われる。


備考:動画により全員が確認。

―――――――――――――――――――――――

マーカスが呆然とつぶやく。


「ドローンに数メートルまで接近? ウソですよね?」


アリサが顔をしかめる。


「その状態で・・・? 無事に・・・って、ありえないでしょ・・・」


ケンが静かに口を開く。


「現状は報告文章のみです。 無事だった理由は分かりません。」


ミラーがケンを見る。


「・・・どういうことだ?」


ケンは淡々と説明した。


「現場でしか確認できていない事項です。

我々には何も調べることはできません。」


室内が静まり返る。


「つまり、現場には証拠はあるが、ここには検証できるものがないと?」


ミラーが尋ねた。


「そうです。」


「ただ、事実がある。 それだけってことですね?」


マーカスの言葉に、フィリップは静かに頷いた。


「そうだ・・・だが、この事実は重い。


 ――なぜ、ドローンは姿を現したのか?

 姿を見せるまで近づいて殺さなかったのか?


 分からないから、皆の意見を聞きたい。」


部屋がシンと静まった。


フィリップが尋ねる。


「マーカス、何かわからないか?」


「無理ですね。

この報告書では生きて帰った事実だけですよ。」


「・・・動画は貰えないのか?」


リードが尋ねると、ケンが答えた。


「現場と、我々をつないでいる天文台との通信環境です。

短波通信ではノイズが多すぎて、データ送信はほぼ不可能です。

仮に送れたとしても、ボーレートが低すぎて・・・何百時間かかるか・・・」


「動画を見てみないと、意見なんて私は出せないわ・・・」


「オレもだ。」


ミラーも同意する。


フィリップがレオンに尋ねる。


「レオン・・・その現場・・・“ツォ・モリリ湿地保護区”に一番近い天文台はどこだ?」


「アリ天文台ですね。」


「誰か取りに行けないか?」


「無理でしょう。 天文台に馬なんて飼ってません。

歩いていくには遠すぎです。

直線距離でも165~170kmにもなります。」


「それはさすがに無理だな・・・」


フィリップは渋い顔をして、ほほをなでる。


「逆ならあり得るかもですよ。」レオンが続けた。


「ん?」


「この資料を見ると、ツォ・モリリ湿地保護区のキャンプ地に集まっている人達は、

チベットの遊牧民みたいです。移動手段はあると思います。」


「マーカス、どう思う?」


フィリップが尋ねる。


「私にそっちの情報はありませんよ。」


目を伏せ、両手を広げて答える。


「だれかわかるやついるか?」


「・・・・・・・・。」


だれも答えない。――しばらく沈黙が続いた。


「我々の中で実践したことない物に、答えなんて出せませんよ。」


リードが答えた。


「ふむ、天文台から聞いてもらうしかないか・・・

ケン、アリ天文台に繋がったら“物理搬送の可能性”があるかどうか聞くよう指示してくれ。」


「わかりました。」


―――10月3日 ツォ・モリリ湿地保護区


快晴のツォ・モリリ湿地。

10月にもなると、日中の気温は5~10度。湿地の草原も次第に明るい緑が色あせていた。

キャンプ地では、遊牧民のために標高の低い南側の斜面へ移動する準備が始まっていた。


通信担当の隊員が、引っ越しの準備をしていたアミットの机に近寄ってくる。


「隊長。 アリ天文台から入電がありました。」


アミットは片付け作業を止め、隊員の方を振り返る。


「なんだ?」


「月基地が動画を欲しいらしく、

アリ天文台まで“持ち込み”は可能か?と尋ねているそうです。」


アミットは顔をしかめた。


「予測はしていたが、この時期ってのがな・・・

さて、どうしたものか・・・」


そこにラフルがやってくる。

しかめているアミットを見て尋ねる。


「何かあったんですか?」


無線担当の隊員が振り返り、アミットがラフルを見て答えた。


「ああ・・・この忙しい時期に・・・

“ドローンの動画を天文台へ持ち込めないか?”と尋ねてきている。」


「ああ、なるほど・・・」


「行くとしたら、どれぐらいかかると思う?」


「時間ですか?」


アミットはコクリと頷く。


ラフルは自分の机に戻り、縮尺1:1000000の地図を持ってきて広げる。

そして、地図を指さしながら説明する。


「ツォ・モリリ湿地からアリ天文台へは、直線距離で約165~170㎞です。

しかし、山岳・高地ルートを考慮すると、実質は300~350㎞程度かと思います。


そこに、標高が4500m級です。酸素の薄さなどを考えると・・・

乗馬用の馬と食糧等の荷馬での移動になるでしょう。


1日に移動できる距離はせいぜい50~60㎞程度。

強行走破は無理でしょうから、7~8日程度で考えるのが妥当でしょうね。」


「妥当だな・・・」


ラフルの説明は、アミット自身の考えとほぼ同じだった。


「この距離を動物から離れずに移動か・・・できると思うか?」


「他のキャンプ地で実施した例の条件ですよね・・・あれは約1.5日ですから・・・

果たして、二週間もの間可能なのか・・・私にはわかりません・・・」


「そうだな・・・」


「じゃあ、あたいの出番だね。」


アミットはその声に眉をしかめて目を伏せる。

横にいた隊員は声の方を振り返ったが、ラフルは振り向かないまま大きな声を出した。


「ダメだ!!」


テントの入口に、松葉杖一本で器用に立っているペマがいた。

隣のジョーが心配そうに横で見つめている。


ペマはテントの中へと入っていく。

歩みは遅いが、バランスを取りながらラフルのそばへ寄って行った。


「ドローンが目の前まで来て、

無事だったあたいが一番安全に運べるだろ?」


「・・・それはそうだが・・・」


ラフルは地図に目線を落とし、このキャンプ地と天文台へのルートを目で追う。


「――これ以上ペマに負担はかけれない・・・」


ラフルが弱弱しく答える。


アミットがずっと伏せていた目を開けて、ペマを見た。


ペマは力強い目でアミットを見ている。

そして、口を開いた。


「アミットのおっちゃん!」


たった一言だった。


アミットはその一言だけで、答えれることは一つだけだった。

こぶしを握り締め、口を開く。


「・・・・・・やってくれるか?」


「当たり前だろ!」


それを聞いて、ラフルは目を伏せうつむいた。


「あとちょっとで傷もふさがると思うんだ。

義足もはめれるようになるよ」


ラフルはもう止めなかった。

まっすぐにペマを見て話す。


「お前、馬には義足になってから乗ってないよな?」


「あ、うん。 ・・・そうだね。」


「じゃあ、まず乗馬訓練だ。

うまく乗れないと、この距離は走破できない。


それと、お前の場合だと、1日に移動できる距離も短くなる。

30km前後で考えると12日~14日だぞ!

それでもやれるか!」


ラフルのまっすぐな目が、ペマの背中を押す。


「やれる! いや、やる!

ははっ、やっといつものアニキに戻ったな!」


そう言って、ペマは笑った。


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