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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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42/62

月の指令書

――モロッコ・ハシラビード近郊


10日ほど前、新型の死神に襲われた第六キャンプ隊は、元のキャンプ地を捨て、別の小さなキャンプ場へやって来ていた。


15,000人いた避難民は、前回の死神によって、3,500人まで減少していた。

月基地の指示により、密集は禁止され、テントの大小によりテントとテントの間には50~100メートル以上の隙間を作って配置していた。


レーザー車両はドローン対策用として、キャンプ地の外側に東西南北の4か所に配置されていた。

中心に、ラシッド隊の大きなテントが日陰を作るために広げられていた。


―――


カルロスが避難民のテントの外から歩いてくる。

定時報告の為、本部へ移動中だ。


たまに、避難民に声をかける。


「ケガはよくなったか?」

「配給品取りに行けない? じゃあ、オレが持ってくるよ。」


そんな時、遠くの空に黒い点が浮かんでいる気がして、カルロスは思わず振り返った。


「気のせいか・・・」


―――


本部のテントの下では、いくつかの無線機が並び、通信兵が短波通信で天文台から受け取った指令や指示を、連絡表の順番に従って次の連絡先へ伝えていた。


ラシッドは、渋い顔をしながら指令所を見て、頭を掻いている。

そこへ、カルロスがやってきて、報告する


「ラシッド隊長! 周囲警戒問題ありません。」


「・・・・・・。」

ラシッドは、カルロスの声に反応しなかった。


「ラシッド隊長?」


カルロスは椅子に座るラシッドの目線に合わせるように腰を横にまげて尋ねた。

そこで、やっとラシッドは気づいた。


「お、カルロス。 なんだ?」


「周囲警戒問題はありませんでした・・・どうかしたんですか?」


「うむ、そうか・・・読んでみるか?」


ラシッドはカルロスに指令書を渡す。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

月基地シャックルトン発:動物保護区キャンプ地向け 指令書

宛先:地球側・各動物保護区キャンプ地 指揮官殿

発信:月基地シャックルトン 管制部

日付:9月26日

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【指令内容】

現在、NOBUNAGAの攻撃行動に関する重要な仮説が浮上している。

観測班および分析班の集計によれば、

動物の密度が高い地域では、死神ドローンによる攻撃が著しく少ない

という統計的傾向が確認された。

これが偶然か、あるいはNOBUNAGAの行動ルーチンによるものかを判断するため、

以下の検証行動を依頼する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【行動指示】

1. 動物を伴った状態で、ドローンの活動域へ接近すること

以下のいずれかの方法で行動すること。

•馬、ラクダ、ロバなどの大型動物に“乗馬状態”で接近

•羊、山羊、犬などの群れを伴って接近

•可能であれば複数名で行動し、動物との距離を常に10m以内に保つこと

※動物の種類は問わないが、生体反応が明確に検知される動物が望ましい。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

2. ドローンとの距離は、最低でも 300m 以内まで接近すること

ただし、

絶対にドローンの真下や進行方向に立ち入らないこと。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

3. ドローンの反応を観察し、以下を記録すること

•接近時のドローンの挙動

•高度の変化

•旋回・停止などの行動

•動物への照準の有無

•人間への照準の有無

•退避行動の有無

可能であれば、

映像または音声記録を残すこと。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【目的】

NOBUNAGAが

「人間以外を攻撃しない」

という行動ルールを持つかどうかを確認するため。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【注意事項】

•本行動は危険を伴うため、実施は各キャンプ地の判断に委ねる。

•参加者の安全を最優先とすること。

•動物を無用に危険へ晒さないこと。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【報告】

観察結果は、確認でき次第、

最速の手段で月基地へ報告すること。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

【最後に】

この指令は、人類がNOBUNAGAに対抗するための

最初の突破口となり得る重要な検証である。

我々は、地球に残るすべての仲間の勇気と判断を信じている。


月基地シャックルトン

コマンダー フィリップ・アンダーソン

―――――――――――――――――――――――――――――――――


カルロスは指令書を持つ手をブルブルと震わせ、指令所の紙はクシャクシャになっていく。


「な、なんですか! これは!!

“死に”に行ってこい!って言ってるようなものじゃないですか!!」


指令書を机にたたきつけ、机を拳で叩く。


無線を聞いている通信兵たちや、テントの外で警戒している兵士が

振り返ってカルロスを見る。


「落ち着け・・・」


「落ち着いてられませんよ! こんな指令!!

あいつら、自分が行くわけじゃないから、こんな指令が出せるんですよ。」


カルロスは右の拳を左手に打ち付ける。


「カルロス!!」

ラシッドが怒鳴った。


カルロスは驚いて固まる。

「私は・・・

この指令を出さなければならないことが、酷く悲しい・・・」


「どういう意味ですか?」


「こんな命令は出したくないんだよ。 本音は・・・」


「だったら、出さなければいいじゃないですか!!」


そう言って、カルロスはテントから出ていく。

ラシッドは手を上げるが、出ていくカルロスを止めるのをやめた。


「・・・・・・。」


―――


カルロスは、怒りのまま砂漠の砂を蹴り上げては、踏みつけて進んでいく。


「くそ! くそ! くそ! くそ!・・・」


カルロスは砂の上に跪き、指を広げて両手をつく、

そして、砂をかき集めるように握りしめた。


砂の上に水滴が落ちて、シミができる。

だが、焼けた砂は無情にそれを消していく。


「なんで、オレはここにいるんだよ!!

・・・オレが保護区にいれば・・・オレが行けたのに・・・


この間も、あんなに人が死んだ・・・守れなかった・・・」


「ちきしょう・・・」


カルロスの言葉は、落とした涙と同じように、砂漠の空に弱々しく消えていった。


――――――


ツォ・モリリ湿地保護区


インド北部ラダック地方、標高四千五百メートルの高地に位置するツォ・モリリ湿地保護区は、チャンタン高原に広がる厳しい自然環境にある保護区だ。


周辺にはチベット系遊牧民であるチャンパが暮らし、ヤクや羊を放牧しながら移動生活を続けている。


ツォ・モリリ湿地保護区が位置していたラダック地方は、かつてインドと中国の主張が重なり合う国境紛争地帯に近く、実効支配線(LAC)を挟んで両軍が長く対峙していた。


しかし、NOBUNAGAの攻撃によって中国側の軍事力が急速に衰退したことで、国境沿いの緊張は一気に消えた。かつて道路建設や基地整備が進められていた高地も、軍の活動が止まり、衝突の危険は完全に失われた。紛争の火種が消えたことで、ツォ・モリリ周辺には静かな自然環境が戻りつつあった。


ツォ・モリリ周辺の避難民キャンプでは、ヤクや羊たちは放し飼いされ、

群れを作って草を食べている。

その周りには若者が群れを監視し、相棒の犬たちが周囲に散り見守っている。


ここでも、モンゴルの草原と同じように、複数の遊牧民のグループが集まりNOBUNAGAからの脅威から逃れていた。


軍用の厚手テントとヤク毛のテントが、ハシラビードと同じように一定の距離を保って配置されていたが、チャンパのテントは家族単位で生活できるように作られているため、テント同士の間隔は30メートルほどしか離れていなかった。

また、家族や親族グループごとに羊を入れるための石組みの囲いが、その隙間に作られている場所もあった。


ツォ・モリリ周辺には、チャンパだけでなく、コルゾク村の住民やハヌレ方面から逃れてきた家族、さらには道路建設に従事していた季節労働者までが合流していた。

避難民の数は400人を超え、テントの列は湖畔の斜面に沿って長く伸びていた。


―――


そんなキャンプ地に、月基地からの指令が届いていた。


受信していたのはインド・チベット国境警察隊(ITBP)。

最適化の日以降、周辺から集まった避難民を保護していた。


その隊のテント内では、警備隊の副官、ラフル・ビストが憤慨していた。

テント内のストーブの近くで暖まっていた他の隊のメンバーが振り返って見ている。


「何様なんですか、この命令は!

我々を消耗品としか思ってないじゃないですか!!」


それを黙って聞いているのは、隊長のアミット・ラナ。


「聞いておられるのか!? 隊長!!」


「聞いてるよ・・・」


アミットは月からの指令書には確かに驚いたが、

それ以上に、自分たちのキャンプだけが、ほとんど被害を受けていない理由の方が気になっていた。


このキャンプ地周辺では、NOBUNAGAのドローンが毎日のように現れていた。

現れるのに、被害が出ない。


無線から入ってくる他のキャンプの状況は、聞くだけでも背筋が冷えるほどの被害ばかりだった。

それなのに、自分たちが守るこのキャンプは、確かに被害はあるものの、無線で報告されるような壊滅的な状況には一度もなっていない。


以前は、『集落の規模が小さければ襲われる可能性が低い』という情報を信じていた。

その説明で被害の少なさを納得していた。


だが――その前提が、静かに崩れ始めていた。


「・・・ラフル。」


怒り続けていたラフルは、名前を呼ばれ我に返った。

背筋を伸ばして返事をする。


「は、はい! 隊長!」


「ここのNOBUNAGAによる被害は今何名だ?」


「え? 6名です!」


「・・・やはり少ないな。」


「は・・・?」

ラフルはアミットの言葉の意味が分からず、肩から斜めに傾げる。


アミットは後ろの棚から、保護区周辺の地図を取り出し机の上に広げる。

そして腕を組み、上から地図を眺める。

ラフルは地図とアミットの顔を交互に見ている。


「・・・殺された場所は分かるか?」


「え、ちょっと待ってください・・・」


ラフルは、資料を取りに自分の机に移動し、ゴソゴソと資料の箱を開いて書類を探す。

資料を見つけて戻ってきて、地図に赤ペンで“六つのバツ印”を刻んでいく。


「こんな感じですね。」


「殺され方は?」


資料をめくりながら、全員の死因を確認する。


「皆同じですね・・・身体が切れるほどの焼き痕がありました。」


「その殺され方じゃない! どういう状況で殺された?」


「し、失礼しました・・・」

ラフルは慌てて、資料を見直す。


ワン!ワンッ!ワワン!!クゥーン!


急にテントの外で犬たちが嬉しそうに吠え始めた。

その吠える声にラフルはイライラしてくる。


「おい、犬を鳴き止めさせろ!!」


ストーブの所でくつろいでいた隊員に指示する。

隊員はヤレヤレと重い腰を上げて、テント入口をみる。


入口が揺れ、弱い光が入ると犬の声は止んだ。

隊員が入口を確認すると軽く笑い、再び椅子に座ってカップに口をつけた。


ラフルの説明は続く――


「ほ、ほとんどわかりません・・・ほとんどが死体で発見・・・


あ、一人だけ・・・わかりますね。

え~・・・遊牧中に一人・・・用を足しに“仲間に見張り”を任せて、離れていった時のようです・・・これだけは、目撃者がいます。」


「・・・・・・。」


「どうなされたんですか? この6人に何か!?」


アミットは口元の無精ひげを右手でジョリジョリと掻く


「これは確かに・・・確認の必要があるな・・・」


「え? 何の確認でしょう?」


「・・・月の指令だよ。」


ラフルはアミットの急変に異議を唱える。


「えっ!? 月の言うとおりにするってことですか!?

隊長、それは絶対にダメです!!」


「・・・確かに・・・

誰にやらせるかが問題か・・・」


アミットはまったく意に介していない。

ラフルは聞かないアミットに“いらっ”とし、机に資料をつかんだまま両手で机を叩く。


バン!

「隊長!!」


「あたいが行こうか?」


その時、テントの入口の方から声がした。

二人はテントの入口を見る。


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