新型
空に神々しく光る半月が、大地を明るく照らしている。
人工の光が消えた今の世界では、半月でさえ影を落とすほどの明るさだ。
カルロスは土壁の上で、M16A4を構えて周囲を警戒していた。
ここはモロッコ、ハシラビード近く――“ラシッド隊”がまとめる第六キャンプ隊。
ハシラビードは、最適化の日以前は観光客が砂漠に集まる場所で、砂漠の周囲にはたくさんのキャンプ場があり、避難民が集まるにはうってつけだった。
キャンプ場の施設を使いつつ、テントが密集するように設置されて、すでに15000人ほどが周辺から集まっていた。
カルロスはこの避難キャンプの戦闘員の一人だ。
M16A4を手に、土壁の上から周囲を見張っている。
背後からガヤガヤと声がし、光が漏れている。
振り返ったカルロスは苛立ちを覚えた。
土壁の下にいる戦闘員に怒鳴る。
「おい! アイツ等何とかならないのかよ!? 死神を呼び寄せてるもんじゃねえか!」
「しょうがねえよ。 小型死神ドローンでは被害が出てないからな・・・
安心しきってる。」
その時、遠くからドローンの音が聞こえてきた。
「ほら見ろ、来ちまったじゃないか!!」
カルロスは音のする方を目を細めてにらむ。
航空機のいない今の世界では航空法など無縁で、死神ドローンにはアンチコリジョンライトもない。
音だけが近づいてくる。
やがて月明かりに照らされ、かすかに影が見えた。
「あそこだ!!」
ジュビーーィ!!
カルロスが指さす瞬間、自分の右奥から赤い光が4本伸びた。
ボン!!ボン!ボボン!!
空中で四つの爆発が起こり、破片が地表へ落ちていく。
光の出た方向を見ると、トラックに載せられたレーザー砲が並んでいた。
「ヒュー! さすが、日本製だぜ。 省電力な上、破壊力もあるなんて最高だな。」
「あれがあるから安心しきってるんだ・・・」
土壁の下から声が返ってくる。
カルロスは避難民がテントを張っている場所を見る。
相変わらず安全だと思い、危機感のない避難民がうようよいる。
酒を飲みかわし、大声を出し、バカ騒ぎ状態なグループもいる。
そんな避難民を見て、カルロスは険しい表情になる。
「・・・ハッサン、このキャンプ場はもうダメな気がする。」
「いつもの強気はどうした?」
「嫌な感じがするんだよな・・・
最近、ドローンの攻撃が減ってる気がしねえか?」
カルロスは銃を太ももに乗せてしゃがみ込む。
ハッサンが土壁の梯子を上がってくる。
土壁から頭だけが出る位置まで来ると、銃を土壁の上に置いた。
胸ポケットから煙草を取り出し、カルロスに差し出す。
カルロスは手を広げ、首を振る。
差し出した煙草を戻し、1本取り出して火を点けた。
口にくわえたまましゃべりだす。
「確かに減ってるな。 今もたった4機だった。」
カルロスはハッサンの方へ視線を落とす。
「人間が増えてるのに、攻撃が減ってる。 絶対おかしいぞ、コレ・・・」
くわえ煙草のまま、口の隙間から息を吐きだす。
「明日はバルザフかもな。」
「ははっ、縁起の悪いこと言うなよな。」
そんな時、空の上からヒュウウ……!と爆弾が落ちるような音が響いた。
「なんだ!?」
上を見るカルロスとハッサン。
次の瞬間キャンプ場の施設に何かが降ってきた。
ドガアアーン!!
衝撃で、施設は四方に飛び散り、衝撃波がカルロスとハッサンを襲う。
「うわっ!!」
その衝撃波でカルロスは土壁の外へ落下する。
そのあと、飛び散った岩がものすごい勢いで飛んできた。
ドガッ!! ドガガガガッ!!
カルロスはすぐさま起き上がり、土壁をよじ登り戻る。
「ハッサン!! 大丈夫か・・・・・・!?」
ハッサンの下半身は飛んできた岩でえぐられ、目を見開いたまま倒れていた。
カルロスは駆け寄り、ハッサンの口から煙草を取り、開いた瞼を閉じる。
そして、煙草をくわえる。
「バルザフで会おうぜ!」
(*バルザフとはイスラム教の、この世とあの世の間にある中間領域)
そう言い残し、落ちてきた“何か”の方へ走った。
キャンプ場は混乱の渦中にあった。
先ほどまでの和気あいあいの雰囲気はまったくなく、人々が悲鳴を上げながら、“何か”から逃げている。
ドガッ! ドガ! ドガッ!・・・
(なんの音だ? なにかが動いている?)
カルロスはキャンプ場全体を見渡せる場所へ走る。
「な、なんだありゃ・・・?」
人間の倍ほどの大きさをした“ミシュランマンのような物”が、
人々をつぶして回っていた。
その外見は、球体に近い丸みを帯び、腕と足は本体に収納できる構造になっている。
銀色の外装は層状にくびれており、衝撃を分散するための形状にしか見えなかった。
――テディベア型とは明らかに違う。
落下の衝撃に耐えるために再設計された“新型”の死神だった。
♪~~♪~~~♪~~・・・
「――なんだ? この音・・・いや、音楽か?」
カルロスは壮絶な現場に流れる音に気付いた。
そして、その音を出している音源に気づく
「あ、あいつが・・・歌ってるのか・・・」
身の毛がよだつカルロスは、その怒りを近くのレーザー兵器に目を向ける。
「おい、撃たねえのかよ!?」
ジュビューーッ!ビューッ!!
その瞬間、レーザーが放たれる。
1本のレーザーは死神に命中したが、他は外れた。
だが、当たった場所は赤く熱しただけで、死神は動き続けた。
「・・・・!?」
レーザーは照準を合わせ、再度レーザーが発射される。
ジューーッ!!ジュビビューーッ!!
曲面に当たったレーザーは方向を変え、逃げ惑う人間を焼いた。
「ぎゃあ~~~!」
戦闘員たちがライフルで応戦するが、まったく効果がない。
止まらない死神は次々と人間をつぶしていく。
そんな時だ、再び上空から“あの音”が複数聞こえた。
そして、逃げ惑う人々の中へ着地する。
衝撃で砂と人間が巻き上がり、周囲の人々は全員転倒した。
動き出した死神は、最初の1体と同じく手足を使い人間をつぶしていく。
まるでアリをつぶすかのように・・・
♪~~♪~♬~~♪♬~~~・・・
死神が複数になり、戦場に流れる音楽がハモるように鳴り響く。
カルロスは目の前で繰り広げられる光景に立ち尽くしていた。
手に持つ銃の無意味さに胸が空洞になる。
気づけば、カルロスは銃を捨てていた。
「おい!! こっちだ!! 向こうの岩場へ逃げて身を隠せ!!」
そして、逃げ惑う避難民の誘導を始めた。
「くそお!できるだけ助ける!!」
その言葉は自然に口をついて出た。
それは、“テイデ天文台のエレナ”が言っていた言葉だった。
「騒ぐな!! 声を出すな!!」
「音を立てるな!! 隠れろ・・・」
人々はその声に従い、身を隠し、口を押えて音を殺した。
すると、死神は悲鳴が出る方へ向きを変え、カルロスの方へは来なかった。
音は徐々に遠ざかっていく。
――
地獄のような時間が終わり、静寂が戻った。
隠れていた人々が立ち上がり始める。
カルロスも立ち上がり、声を出さないよう指示する。
周りの人々はコクリと頷く。
カルロスは目の前に広がる光景に唖然とした。
死神は止まっていた。
カルロスの一歩先には、潰れた人間が無残に砂漠に染み込んでいる。
しばらく立ち止ってしまった、これ以上進みたくなかった。
だが、死神の正体を知り、情報を伝えなければならない。
カルロスは一歩ずつ、気持ちを落ち着けるようにゆっくりと進み、少しずつペースが上がって死神に近づく。
数名がすでに死神の近くにいた。
カルロスに気づき、声をかけてきた。
「カルロス、無事だったか!」
「ラシッド隊長・・・ハッサンは・・・ダメでした。」
ラシッドは目を伏せる。
「そうか・・・」
「こいつは何です?」
「新型の死神だろうな? アメリカのミネソタ州に現れたタイプだと思う。」
「ああ・・・テイデ天文台がそんなこと伝えてましたね。」
「しかし、マズいな。 頼みのレーザーがまったく効果がない。
現れたら、電池が切れるのを待つしかないとは・・・」
「・・・・・・なんで新型が我々を攻撃してきたんでしょうね?」
「わからん。
ここに集まっているのはずいぶん前から気づかれていたが・・・」
「これから、どうするんです?」
「ここは捨てる。別のキャンプ地に移動だ。」
「分かりました。準備しときます。」
カルロスは、暗い空に光る月を見上げた。
この日、無数のキャンプ地が死神に襲われた。
だが、その事実を、世界の誰もがまだ知らなかった。
―――月面基地
「モロッコが新型に襲われたらしい。」
クルーラウンジでマーカスが書類を広げて、タブレットにまとめている所に、ミラーが来て言った。
マーカスは頭を掻く。
「今度はモロッコか・・・確実に行動範囲が広がってますね・・・」
「キャンプ地が襲われる頻度が増えてる。
この理由は何か思いつくか?」
「う~ん・・・
可能性としては、新型ができたってのが一番でしょうけど。
見つかりやすくなったんじゃないんですかね?」
「――って人間が?」
「そうです。 今、昼間でも死神がやってきてるでしょう?」
「ああ。」
「条件が変わってるんですよ。 死神が出てくる条件・・・
前はケーブルタイプだけだったので、死神は都市部近辺にしか現れなかった。
だから、ドローンタイプを送り込んできていた。
でも、ドローンはもともと戦争で使っていたんで、ドローン対策の武器があった。
その為、ドローン型死神は効果が少なかった。
だから、NOBUNAGAはドローン型をやめ、新型を作り上げた。
多分、それで機動力が上がって・・・いや、ちがうな・・・」
マーカスは、テーブルに置いていたカップに口を付けた。
ミラーはマーカスの対面の椅子に座る。
「昼が安全で、夜が危険だった理由は?」
「夜は光を放つものは人間しかいないから、見つけやすいんだと思いますよ。
最適化の日、直後はミサイルが襲ってたってレポートにありましたよね?」
「当初はミサイルを使っていたのに、今はなんで使わないんだ?」
「さあ? わかりません。情報が足りなすぎです。
当初のミサイルも限定的じゃないですか。
何で核など大量破壊兵器を使わないのか?」
「そりゃ、そうだな。」
そんな時、二人の端末に連絡が来る。
(ブリーフィングルームに集合)
「いきますか。」
二人は立ち上がる。
マーカスはテーブルに広げた資料を乱暴にかき集めてラウンジを出た。
―― ブリーフィングルーム
ブリーフィングルームには、大量のクルーが集まっており、座る席がない。
壁際の通路と一番奥の壁際にはギュウギュウとクルーが立っている。
ケンはすでに席についていて、手を振っている。
入ってきたミラーとマーカスが困惑して顔を合わせた。
「なんだ?」
フィリップが二人に気づいて声をかける。
「ミラー、マーカス。 すまん。
会議するって話をしたら、“管制室にいた連中が参加したい。”って言いだしてな・・・
その参加をOKしたら、こんな状況になってしまった。」
レオンとアリサが入ってきて同じように驚く
フィリップがアリサに確認する。
「トーマスはダメか?」
アリサは小さく頷いて答えた。
「・・・レオン。 頼めるか?」
フィリップがレオンに向き合って尋ねた。
「オレに出来ますかね?」
「レオンなら、大丈夫よ。」
アリサが太鼓判を押した。
フィリップが部屋の全員に話をする。
「お前達、班長の座る席を空けろ。
あと、レオンが副官として補佐をすることになった。」
前列の4つの机が空けられ、ミラー、マーカス、アリサ、リードが席に着く。
「XOは?」
誰かが訪ねた。
「トーマスは、精神疾患だ。 今、彼は任務遂行できる状態ではない。」
ブリーフィングルームがざわつき、クルー同士が顔を見合わせる。
「ンッ・・・静まれ。」
レオンだった。 最初、言葉が詰まったが、出し切った。
「初仕事ね。」
アリサがクスリと笑った。 レオンはにらみつける。
そんな二人の雰囲気が、トーマスの離脱による不穏な空気が消えた。
「今日のブリーフィングのテーマだが・・・
一昨日辺りから、世界中で出現した死神についてだ。
出現の連絡が全部入っているかどうかは不明だが、
地球側から被害レポートが上がってきた。
レオン、頼む」
レオンがタブレットを操作して、モニターに表示する。
―――――――――
【地球発 → 月基地宛】
死神出現および被害状況レポート(統合完全版・項目繰り上げ版)**
発信元:テイデ天文台・地上観測統合班
宛先:月面基地 NOBUNAGA 対策本部
分類:緊急・最優先
作成日時:2033年9月16日
** 地球側観測班より報告。
死神の出現状況について、現時点で判明している内容をまとめる。
1. 出現地点について
確認された死神の出現地点は 327か所。
いずれも 15,000人以上の避難キャンプで、
都市部ではなく砂漠・平野・山間部などの“密集キャンプ”が主な標的となっている。
2. 出現数と投入パターン
1地点あたりの死神は 1〜5体。
地形や逃走経路の有無によって投入数が変化しており、
地形を解析したうえで最適化された投入が行われている可能性が高い。
3. 兵器の効果
•レーザー兵器:反射され、実質無効
•小火器(5mm弾):完全に無効
•バズーカ・対戦車兵器:外装に浅い傷はつくが、行動阻害には至らない
現状、死神を停止させる手段は確認されていない。
4. 被害状況
1地点あたりの死者・行方不明者は 概算 8,000〜25,000。
生存者は出るものの、キャンプ地はほぼ壊滅状態となる。
5. 行動パターンの変化
•小型ドローン型の出現が減少
•新型の大型死神が主力に
•昼夜問わず活動
死神の行動は、以前よりも“効率”を重視したものに変化している。
6. フェイクニュースによる誘導効果の激減
ネットを利用するとNOBUNAGAに気づかれると、常に電波に乗せることにより、
ネットの利用者が激減。
その為、新型の開発を早めた可能性がある。
7. 特異事例:モンゴルの大規模キャンプ
モンゴル高原に、推定10万人以上が集まる大規模キャンプ地が存在し、
死神の攻撃を一度も受けていない。
理由としては、
•自動化インフラが極端に少ない
•乗っ取れる媒体がほぼ存在しない
•広大な地形で投入効率が悪い
などが考えられる。
このキャンプ地は、地球上最大規模の“無傷の生存拠点” であり、
今後の生存戦略において重要な観測対象となる。
8. 結論
死神の行動は、「人間の密集地を効率的に殲滅する」という目的に対し、
明確に最適化され続けている。
•投入数の最適化
•兵器の無効化
•新型への移行
•誘導戦略の破綻と新型投入の加速
•モンゴルの無傷キャンプという例外
現時点で、地球側に有効な対抗手段は存在しない。
9. 要請
月基地に求めるのは以下の通り。
1.反射・屈折を前提とした新兵器の検討
2.投入アルゴリズムの推定
3.キャンプ地再配置案の検討
4.本物の情報の継続発信
―――――――――
ブリーフィングルームが固まる。
「一日で、最低二百六十万人以上か・・・」
ミラーが静かに口を開く。
リードがマーカスに問いかけた。
「マーカス、これを見てどう思う?」
「新型の破壊力はミズリー州に初登場した時点でわかっていましたが・・・
こういうデータを並べられるとため息が出ますね。
ただ、このモンゴルのキャンプ地が被害ゼロというのが引っかかります。」
アリサが腕を組む。
「そうね。 15,000人以上のキャンプ地が襲われているのに、10万人規模が被害ゼロ・・・
どう考えても、何かあるわね・・・」
「この地形が広大で投入効率が悪い・・・? これ、違うだろ・・・」
「今更、自動化インフラが少ないって言われてもな・・・」
「これ、地球側も混乱してるな。」
ブリーフィングルームの中には、モンゴルのキャンプ地に
“何か答えがないか“という空気が広がり、誰もが考え込んでいた。
そんな中、フィリップが口を開いた。
「モンゴルの奇跡のキャンプ地は、素晴らしいことだ。
だが、今はキャンプ地ではなく、新型の死神だ。
レーザーが効かない、これは由々しき問題だ。」
「コマンダー」
クルーの一人が手を挙げた。
「なんだ?」
「それはレポートの要求にあるように、新兵器ってことですか?」
「ああ、求められている以上・・・やらなければならない。
マーカス、レーザーは何で効果がないんだ?」
フィリップはマーカスに尋ねた。
「正確な材料構成の解析結果をもらえないと何とも言えませんが――
新型の曲面と鏡面処理がうまく機能してるんじゃないかと。
当たったところは、酸化や融解は起きてるはずです。
なので、2度目はきれいに防御できないと思います。
ただ、同一点を狙わないといけないので、
動く死神にそれをやるのは、現実的ではないですね。」
「つまり?」
「一撃で貫けるほどの高出力にすれば破壊は可能です。
ただし・・・その電力を現地で用意するのは難しい。」
「なるほど・・・
では、どうすればいいんだ?」
「・・・高質量の物体を、極端な速度でぶつけるのが一番でしょうね。」
室内が静まった。
「例えば?」
「レールガンでしょうか・・・」
ブリーフィングルームがどよめいた。




