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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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テイデ天文台

灯りが不安定に揺れる、コンクリートの壁の一室。

壁一面には、観測データを書き込んだメモ用紙が無数に貼られている。


黒い筐体の無線機には、オレンジ色に光る針メーターがついている。

その横には、バンド帯域を示す数字がずらりと並び、

大きなダイヤルと、コールサインを送るためのボタンが整然と並んでいる。


その機器につながるマイクに一人の女性が口を寄せている。

女性の声の強弱に合わせて針メーターが左から右へと鋭く跳ねた。


「こちらはテイデ天文台、エレナ・ロペスです。」


かすれた声だった。何日も寝ていないのが分かる。


「毎日お伝えしていますので、多くの方がご存じだと思いますが・・・

月基地が生き残っていました。


毎日ではありませんが、20分ほどの交信ができ、

地球の皆さまが生き残れるように、全世界をつなげ、正しい情報を伝えてくれています。


今、ネットを使われている方。

月からの情報では、NOBUNAGAがSNSへフェイクニュースを書き込んでいるそうです。


“食料がある”“水がある”“安全”――

そうした書き込みがあっても、決して信じないでください。


ネットでの連絡は危険です。――接続すること自体が危険です。

位置情報が漏れれば、NOBUNAGAに見つかる可能性があると、月基地は警告しています。


私はテイデ天文台、エレナ・ロペスです。

1時間毎に、知りえた情報を伝えています。


この放送をお聞きの方・・・周りに人がいたら、この内容を伝えてください。

そして・・・あきらめないでください・・・」


エレナはマイクのボタンをOFFにした。


後ろで見守っていた、眼鏡をかけた小太りの男が、コーヒーを差し出した。

エレナは振り返る。


「――ディカプリオ所長。」


「少し休みなさい。 誰か変わりを連れてこよう。」


エレナは、ディカプリオが差し出しているコーヒーカップを両手で受け取る。

コーヒーからは湯気が立ち、エレナはすするようにコーヒーを飲んだ。


「しかし、いつ連絡が入るか・・・」


「今、君に倒れられる方が大変だよ。

何人かで回さないと、連絡取れない時間が発生してしまうだろう?」


ジジジ・・・ジジッ・・・キュイ~~ン・・・


そんな時、無線機が電波を拾う音を発した。

エレナはその音に反応するように、ダイヤルを合わせようとする。


「エレナ!」


ディカプリオは少し大きな声を出した。

エレナはピクッと動きを止め、ディカプリオを見る。


ディカプリオはエレナの肩に手を置き、首を振る。

「私がやろう。 君は少し寝なさい。」


「・・・。」


エレナは椅子から立ち上がり、一歩下がってディカプリオに椅子を譲った。

ディカプリオは椅子に座ると、無線のダイヤルを調整し始めた。


エレナはもう一歩後ろへ下がった。

ゆっくりと目を閉じ――小さくお辞儀して、くるりと部屋のドアの方に向きを変える。


小さくエコーのかかったディカプリオと無線の相手の声が、部屋中に広がっている。

その音を追うように、部屋の天井を見るエレナ。


そして、壁に貼られた大量のメモを見わたす。


(――こんなにたくさんの情報はあるのに、人類全員が知りえない・・・)


エレナはほんの少しだけ眉を寄せた。

ゆっくりとドアを開け、出ていく時にもう一度ディカプリオの方を振り返った。

声が響く部屋を一度だけ見渡し、エレナはドアをパタンと閉めた。


――


小さな窓から、夕日が差し込んでいた。

廊下に角度のない一筋の光が、白い壁を照らしている。


その窓を覗くエレナ。

目を細め、外の景色を眺めた。


テイデ天文台の他の施設が、真っ赤に染まっている。

窓の下の方にエスペランサ自動車道が見えた。

道路近辺のなだらかな大地は避難キャンプ地として、日々人々が集まってきている。

赤茶けた台地には無数のテントが広がり、風に揺れていた。


(ここはこんなに静かで、空は澄んでいつもと変わらない・・・)


――


エレナは自室のベッドで目を覚ます。


ガバッ!と起き上がる。

枕元の時計を見ると、14時を指していた。

仮眠のつもりが、深く眠ってしまっていた。


「ツッ・・・」


夕方、自室に戻ってそのまま倒れ込んだ記憶がある。

慌てて準備をし、無線のある部屋へと走った。


通信室のドアをバタン!と開けた。

膝に両手をかけ、動悸の激しい息を整える。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


「あら? ずいぶんとお寝坊さんしちゃったのね。」

「ははは・・・アンナ、それは言い過ぎだよ。」


その声に、エレナは顔を上げ、目をパチパチと瞬いた。

そこには三人のスタッフが待っていた。


「所長から頼まれたわ。 エレナを手伝ってくれって。

私は観測3班のアンナよ。」


「オレはマイクです。 SONGの学生で、戦略学科の三年です。

教授が“勉強になるから行ってこい”って言うので来ました。」


「私は電子工学科のアキヒコだ。 NOBUNAGAの構造・思考を解析している。

ぜひ、世界中の科学者達と意見を交わしたくて、手伝いに来た。」


「各部署に応援を頼んだら、ものすごい人数が来てしまってな。

この小部屋に何人も入れんし、出来ればジャンル違いの方が良いだろうってことで、この3人を選んだ。」


部屋の隣の書庫からディカプリオが出てきた。

エレナのそばへ寄り、三人のことを説明する。


「これから、16時間を二人で交代しながら運営しよう。

一人最大8時間。 それ以上は認めないよ。

それと、書庫の方にベッドを仮設したから、疲れたらそこで仮眠とっても良いよ。」


エレナは自分が知らないうちに、通信室が重要な部署になっていた。


「――ありがとうございます。 所長。」


「最適化の日から、相手が少ない通信室は最小限でいいということで、

君一人だけで運営させていたが・・・月基地と交信ができ、生きている天文台やキャンプ地がつながった今・・・もう一人では無理だからね。

勝手に部署を大きくさせてもらった。 すまなかったね――!」


ディカプリオはエレナのカサカサの髪を見て――アンナの耳元で何かやり取りしている。

アンナはコクリと頷き、エレナの肩を抱くと、ドアの方へと無理やり誘い出す。


「えっ? ちょ、ちょっと。」


無理やり動かされて、エレナは戸惑った。


「エレナ、あなた食事取ってないでしょ? 今から遅い朝食よ。」


二人はドアの外へと出ていく。


「アンナ・・・わ、私、お腹減ってないわ。」


エレナは廊下でアンナの腕をほどく。


「食事だけじゃないわ。 あなた、シャワーも浴びてないでしょ?」


その問いに、ビックリするエレナ。


「え? 匂う?」


「ふふっ、ここの空気は乾燥してるから、匂わないわよ。 明日は分からないけど。」


二人はクスリと笑いあい、エレナも自室へ戻ることにした。


―― エレナの自室


シャワーの音が鳴り響いている。

シャワールームの脇に椅子を置き、それにアンナは座っている。


「ねえ、エレナ! タバコ吸っていい?」


「いいわよ。 換気扇は回してね。」


シャワールームから返答が返ってくると、ポケットから煙草と携帯灰皿を取り出し、火をつける。

一息吸い、ふ~っと部屋の上方へと吐き出した。


「もう、最後のひと箱・・・強制的に禁煙させられちゃうわね。」


「え? なんか言った?」


「なんでもないわ、ただの独り言。」


「・・・・・・」


沈黙がしばらく続き、エレナがシャワー室から話しかける。


「ねえ・・・アンナ・・・」


エレナの声が小さく、あまり聞こえなかったので、アンナはシャワー室のドアへ耳を寄せる。


「何?」


エレナはシャワーを浴びながら、シャワー室の壁に額をコツンと当てる。


「――外では・・・シャワー浴びれない人が沢山いるのに・・・いいのかしら?」


タバコを一口吸ってから答える。


「ばかね。――その人たちを支えてる“あなた”が気にする必要ないわ。」


「・・・私が・・・支えてる・・・?」


エレナは眉を寄せ、何度も瞬いた。


「そうよ~。

この天文台が“安全だ”って、放送で伝えて“外の避難キャンプ地”ができたのよ。

あなたがやらなかったら、キャンプ地なんてできなかったわ。」


アンナの言葉に、胸の奥が一気に熱くなり、視界が滲んだ。


「・・・あ・・・ありがとう・・・」


震える声で、絞り出したら、泣き声が止まらなくなった。

アンナは、目を伏せ、煙を上へ吐き出した。


しばらくすると落ち着いたのか、エレナがシャワー室から出てきた。


「落ち着いた?」


エレナはコクリと頷く。


「じゃあ、ココに座って。」


アンナはエレナを鏡の前に座らせ、ドライヤーで髪を乾かす。


「ちょ、アンナ、自分でできるわ。」


「いいの、いいの。 私がやりたいのよ。」


「ありがとう。」


エレナはそう言って、アンナに身をまかせた。


「はい、終わり。 じゃあ、次はこれ。」


アンナはシャワー室の所で座っていた椅子をエレナの横に持ってくると、座ってファンデーションを取り出すと、エレナの顔に塗り始めた。


「え? いいわ。 そんなの。」


「だめよ。 最低限でもファンデーションは使いなさい。

いい? これは私たちの戦闘服なのよ。」


「戦闘服・・・」


「そう、朝起きて、“今日は頑張るぞ!”って気合いを入れる為の物。

だから、戦闘服。 わかった?」


「・・・う、うん。」


「まあ、コレもいつまで入手できるのか分からないけどね・・・」


「ふふふ・・・そうね。 ――じゃあ、それまでは使うわ。」


――― 通信室


通信室に二人が戻って来る。

化粧をしたあと、軽い食事をして、血色がよくなったエレナを見て、皆が笑顔になった。


「ね。 戦闘服パワーよ。」


アンナがエレナに耳打ちをする。


「そうね。 アンナの言うとおりだわ。」


笑いあう二人。

それをみたディカプリオが話しかける。


「ずいぶん、仲が良くなったようだね。」


「はい。 気合も貰いました。」と、エレナが答える。


長い髪を、ゴムで後ろに束ねるエレナ。


「始めましょう!」


そう言って、無線機の前に座り、マイクのボタンを押す。

後ろで、4人がエレナを見守っている。


「こちらはテイデ天文台! エレナ・ロペスです!」


エレナの声は力強く、無線機の針が今まで以上に力強く跳ねた。


―――


夕日に乾いた大地が輝いている。


小高い丘の上に土壁で囲まれたキャンプ場。

その土壁の上に、小型の巻き取り式の太陽光パネルが広げてあった。

そのパネルから伸びるコードには乾電池の充電器がずらりと並んでいる。


その電池を取りだす男。 そして、その乾電池を短波無線機にセットしていき、電源を入れた。

ダイヤルを回してあわせていくと、無線機が反応する。


「!!」


ダイヤルを回す速度がゆっくりとなり、音声を拾った。


「ジジジ・・・こちらはテイデ天文台! エレナ・ロペスです!」


その声に反応する男。


「お、今日は元気じゃん! いいことでもあったのかな?」


土壁の上に座り、無線機の声に聞き入っていると、土壁の下から声がする。


「カルロス。 また、ラジオ聞いてるのか?」


「ああ。」


「同じような内容なんだろ?」


カルロスは土壁に立ち上がる。

地平線に太陽が沈もうとしている。


「この人の声を聴くと、コレから始まる夜の恐怖が減るんだぜ。」


下にいた男が笑う。


「そんなもんなのか?」


「ああ、オレ達“人間”はまだあきらめない!って気合いが入る!!」


そして、太陽はゆっくりと大地に吸い込まれていった。 夜が来るのだ。

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