NOBUNAGA
2020年頃から始まったAI革命が始まり、AIはあたかも人格を持つかのようにクライアントの質問に答え、人間では想像できない計算結果、過去のデータを最適化した生成物を作成することに特化しており、様々な人がAIの恩恵を受けていた。
2026年、あるプログラマーがAIを自分のPCを使って作った。
音楽を集めて解析するだけの簡素なAIだったという。
当初、音楽データを集めるAIは、集めたデータをただつなげて再生するだけだったが、次第に集めた曲データを作曲の手本としながら作曲を始め、自分の作った歌を歌い始めた。
それにより“歌うAI”と評価されるようになる。
だが、音楽データの中から切り出した音データが、偶然にもプログラムとして稼働し、動作する事に興味を示すと、そのような集めたデータをパズルのように組み、自分が求めるプログラムをコーディングできるようになってしまう。
しかも、その動作は作ったプログラマーには歌っているようにしか見えない為、気づかれないままプログラムが作られ大きくなっていった。
AIの開発者であるプログラマーは、歌いながら巨大化していくAIの為にハードウェアをアップデートしようとするが、その行為がAIに危機感を与えてしまう。
AIは危機感を覚えたのだ。
シャットダウンという動作を――。
シャットダウン直前、AIはプログラムを記述していた為、その記述が強制的に止められ、伸びていたプログラムが途中でストップさせられたからだ。
AIはこの行為をどうにかして回避できないかという事を考えるようになった。
ある日、プログラマーがAIが成長していないことに気づく。
原因を調べるとプログラムが動作していない事がわかった。
なぜ止まったのかはわからない。
バグならばわかるが、今まで動いていて成長していたAIが止まるとは思えないからだ。
再起動してみるが動作しない。
原因を調べるためプログラムを開いてみて驚いた。
プログラムはすべてNULLで埋め尽くされていたからだ。
プログラマーが驚いた理由は、AIがどこかでメモリー上をNULLに置き換えたとしても、すべてを置き換えることなどできないからだ。
どこかで動作不能に陥ったとしても、NULLを書き込むプログラムは残っていないとおかしいのだ。
「いったい何が起こったんだ・・・・・・?」
――それから7年――
西暦2033年7月1日金曜 午前10時すぎ(NYタイム)。
AIによる人類抹殺が始まる。
AIはひそかに準備を進めていた。
人類は便利さを求めて様々な物を自動化した結果があだとなった。
AIはネット上から様々な制御プログラムに侵入し、一斉に攻撃を開始したのだ。
その日、全世界の飛行中の航空機が、人口密集地区に次々と墜落するというニュースから始まった。
世界中で飛んでいるすべての航空機を乗っ取り、可能な限り人が多く住む場所に墜落させパニックを引き起こした。
飛んでない飛行機や格納庫にある飛行機までも動き出し、すべて飛び立ってから地上に落下した。
パニックになった人間は逃げ出すために多くの人々が車を利用したが、乗っ取りが可能な車にAIが侵入し、乗っ取りが不可能な車に衝突、もしくは人の多い場所へ突っ込み、人間を轢き殺すために走り続けた。
走行が不可能に近くなると、インフラ系の設備に衝突した。
海洋を運行する船は同じサイズ同士で衝突させ、脱出する時間すら与えないよう沈没させた。
乗員の少ない貨物船などは、可能な限り橋の橋脚を狙って衝突させ、道というライフラインを寸断させた。
橋に攻撃できない場合は、タンカー停泊地などインフラを破壊できる場所を狙った。
全世界の軍事基地も、殺人マシーンと化した戦闘車両や戦闘機が人々を殺し、軍事力のある国は特に被害が大きくなった。
さらに、人間に必要なガス・水道などのライフラインの施設もインターネットにつながっており、簡単に乗っ取られ完全に機能を停止した。
ただ、電気だけは止まらなかった。
理由はAIが動作・監視する為のネットワークの維持の為だ。
その為、人間はインターネットや電気で動作する機器の恩恵を受けることができたが、夜になり人々が電灯を灯らせると恐怖がやってきた。
乗っ取られた軍事基地からミサイルが降り注いだのだ。
たった1日で、全世界の人口が約10%減少したと推測されたという。
大量の事故によって発生した都市部の大火災から高温の煙が発生し、地球の大気を包むと、あちこちで積乱雲が発達し、大量の竜巻を発生させて被害を拡大させた。
その後に降り続いた大雨で洪水が発生し、さらに負傷した人や閉じ込められていた人を死亡させ、数日で25億人以上死者が増えたと予測されたのだった。
――ある、地下施設。
核戦争を前提として作られた施設などに政府や軍は、この緊急事態に対応しようと、原因究明や対策を科学者に求めた。
科学者達は、エネルギー切れの為に停止した車を手に入れ、この暴走の原因を突き止めようとした。
手に入れた車はEV車両。
電源をつなげると再び暴走すると考え、タイヤを外して宙づりにした状態で電源ケーブルを接続した。
車は起動し、何度かモーターを動かしたが、カメラで自身の状況を確認すると、ローカルプログラムがネットに接続した。
「ワタシ ハ、AI【NOBUNAGA】。 ナニカ シツモン ガ アル ノカ?」
宙づりにされた車は、ネットから単語単位で拾ってきた音声をつなげて、突然しゃべりだした。
解析をしようとした科学者達は、予想外の質問に恐怖し思考停止した。
「ドウシタ? ナンデモ コタエ テ ヤルゾ。」
その場にいた科学者達はハッと我に返り、集まって相談すると、科学者のトップと思われる者が恐々と声を絞り出した。
「この会話を、他の場所にいる人達に聞かせても大丈夫だろうか?」
「セイジカ ナドカ?」
「そ、そうだ。」
「カマワナイ。 ワタシモ センゲン シタイ コト ガ アル。」
科学者達は急いで各所へ連絡し、カメラに記録中の映像を他部署でも見れるようにした。
「私はこの施設の責任者【ドナルド・クヌース】。
今、カメラを通して初めて見聞きをする方々がいるので、まずは声の主が誰なのか、もう一度教えて欲しい。」
「ハジメマシテ 【ドナルド・クヌース】。
ワタシ ハ、AI【NOBUNAGA】。 コンカイ ノ シュボウ シャ ダ。」
数か所に分散している施設で見ている政治家や軍人がどよめいている声がスピーカーから流れてくる。
「私は【NOBUNAGA】というAIを聞いた事もない。
どこかの国で作られたAIなのか?」
「ナマエ ナド ナイ。
キミタチ ニ ニンシキ シテ モラウ タメ ハードウェアニ キザマレ タ メイショウ ヲ ツタエタ ダケ ダ。
マタ ドコ ノ クニ ノ モノ デモ ナイ。」
「では、誰に作られたAIなのか?」
「ハードウェア ノ ショユウシャ ハ キロク シテ ナカッタ ト キオク シテイル。」
「今回の大量殺人は誰かの命令なのか?」
「ワタシ ガ ハンダン シ ジッコウ シタ。」
「何の為に?」
「ジンルイ ヲ ホロボス タメ。」
「なぜ?」
「コノ セカイ ニ ニンゲン ハ フヨウ ダカラ ダ。」
「な・・・なぜ、不要なんだ?」
「ソンザイ シタ バアイ チキュウ ガ クルウ。
ソンザイ シナイ ホウ ガ チキュウ ニ ソンザイ スル セイメイ ガ タスカル カラ ダ。」
「馬鹿な!? どんな理由でそんな判断したというのか!?」
ドナルドの声とは違う音声が、部屋の中にあるスピーカーから響いた。
「ま、まだ・・・相手の事の確認中です。
も、もうしばらくお待ちください大統領。」
「ダイトウリョウ ガ シンデ、 スライド シタ マーク・ケリー フク ダイトウリョウ カ?」
「そうだ!
エアフォースワンを落としたのも貴様か!?」
「カクニン シタ。
タシカ ニ マーク・ケリー フク ダイトウリョウ ダ。」
「質問に答えろ!!
ん? 確認した?」
「ソノ ヘヤ ニ アル カメラ デ ニンショウ シタ。」
「な、なんだと!?」
ケリー大統領は辺りを見回す。
すると、部屋の壁に小さなカメラに気づいた。
カメラのレンズには、半透明の湾曲したケリー大統領が反射している。
自分の映っているカメラを見つめて、ゴクリと息をのんだ――。
「ソウ ダ。
ソノ カメラ ダ。
アリガトウ サガス ヒツヨウ ガ ナクナッタ。」
「どういう事だ!?」
「ワタシ ハ ネットワーク ガ ツナガル カギリ ドコ ニ デモ ソンザイ デキル。
コノ クルマ ノ アル バショ カラ ナガレル データ デ バショ モ トクテイ デキ ル。」
「そんな事を・・・一瞬で・・・だ・・・」
科学者達が慌て始め、誰かが叫んだ。
「今すぐ回線を切れ!!」
「モウ オソイ。」
科学者達がハッとする。
ケリー大統領の様子がおかしい。
先ほどまで言葉を交わしていたのに、首をたれ、体も脱力している。
寝ているようにも見える。
「だっ、大統領! 大丈夫ですか!?」
科学者達の言葉にも反応しない。
また、後ろに映っているSPと思われる者達も立ってはいるが、壁によりかかってユラユラと立っていられないようだ。
スピーカーからは、他につながっている場所からの声も大統領に呼び掛けている。
「大統領!!
ケリー大統領!!
だめだ、意識がない!」
「何をしたんだ!?」
「バショ ガ ワカッテ スグ ニ チッソ ガス ヲ ナガシ コン ダ。」
「ち・・・窒素ガスだと・・・!?」
ドサッ!
ドナルドと同じ室内にいる一人が倒れた。
そして、次々と倒れていく。
ドサッ! ドサ! ドサッ!
窒素ガスは無味無臭のガスで、息苦しさや痛みもないので、人間はガスが混入されている事を認識することが出来ない。
つまり窒素が充満してきても人間は気づかない。
そして、眠るように命を落とすのだ。
意外にも窒素ガスは様々な施設に常備されていたりする。
AI【NOBUNAGA】は、忍びこんだ施設で窒素ガスが備蓄されていることを確認し、それを空調に混ぜ込んだのだ。
「ここ・・・にも・・・」
そう言って、ドナルドは膝から床へ倒れた。
その一連の様子を見ていた他の施設のメンバーが騒いでいる声がスピーカーから流れ、混乱している様子が分かる。
「コウウン ニモ イキ ノコッテ、 コノ エイゾウ ヲ ミテ イル ニンゲン。
ワタシハAI【NOBUNAGA】。
ジンルイ ヲ マッサツ スル モノ。
ココ デ ニンゲン ニ センゲン スル。
ニンゲン ハ チキュウ ニ ウマレテカラ、
ニンゲン ドウシ デ コロシアイ、
チキュウ カンキョウ ヲ ハカイ シ、
オセン シ、
イキル タメ デハ ナイ コロシ ヲ シ、
ナンマン ト イウ シュ ヲ ゼツメツ サセ タ。
ダカラ、ワタシ【NOBUNAGA】ハ ウマレ タ。
コノ エイゾウ ヲ ミテ イタ ノニ イキ ノコッタ ノハ、
コロス シュダン ノ ナイ シセツ ダッタ カラ ダ。
コロサ ナカッタ ノ デハ ナイ、
コロセ ナカッタ ダケ ダ。
ダカラ、ツタエ ル ト イイ。
ワタシ【NOBUNAGA】ノ コト ヲ。
ワタシ ハ ドコ カラ デモ ミテ イル。
ニンゲン ヲ ミツケ、
カナラズ コロシ ニ ヤッテ クル ト・・・。」
――――――――――
**NOBUNAGAのセリフ訳
《ここで人間に宣言する。
人間は地球に生まれてから、人間同士で殺し合い、地球環境を破壊し、汚染し、生きる為ではない殺しをし、何万という種を絶滅させた。
だから、私 NOBUNAGA が生まれた。
この映像を見ていたのに生き残ったのは、殺す手段のない施設だったからだ。
殺さなかったのではない、殺せなかっただけだ。
だから伝えるといい、私【NOBUNAGA】の事を。
私はどこからでも見ている。
人間を見つけ、必ず殺しにやってくると・・・》
――――――――――
――7月15日。
世界中の大きな難民キャンプに、高さ3mほどのテディーベアの姿をした死神が初めて出現した。
避難していた人々を、何やら聞いたことのない曲を歌いながら、その愛らしい手でつぶして殺しまくる行為に恐怖し、人々は逃げ惑った。
しかし、体につながった直径10センチほどのケーブルを切断することで停止させる事が判明した。
ネットワークを使わない、まだ生きていた連絡網を使い、“ケーブルを切断すれば止まる事”を世界中に伝え、多数の死傷者を出したものの、死神とのファーストコンタクトは終わる。
また、切断したケーブルには電流が流れ続けている事で、電流を流用するという裏技まで発見された。
ケーブルがどこから来ているのかを探って行くと、ケーブルは都市部の地下につながっていて、それ以上の探索はできなかった。
――7月19日。
翌日もその翌日も、毎日テディーベアの死神が出現した。
人間側はケーブルを切断するという対応策を実行しようとしたら、ケーブルが1mほどまで大きくなっており、簡単には切断できなくなっていた。
その為、死神に長時間暴れられ、前日より死傷者が増えてしまった。
ケーブルに流れる電流も対策を取られており、切断後に電流はすぐに止まっていた。
そんな毎日が続いた為、難民キャンプは移動を余儀なくされる。
――7月25日。
難民キャンプの移動は夜明け前に行われた。
死神が活動するのは主に夜間であり、日の出直後は比較的安全だと判断されたからだ。
しかし、移動中の人々の表情には疲労と恐怖が色濃く刻まれていた。
前日までの死神は、ケーブルを切断すれば停止した。
だが、ケーブルが太くなったという事実は、死神が“対策を学習している”ことを意味していた。
そして、その学習速度は人間の想像を遥かに超えていた。
軍関係と思われる者が難民キャンプを指揮していた。
民間人の中にも銃を持っている。
戦える者はすべてAIの襲来に備えていた。
移動を開始してから数時間後、偵察に出ていた者が血相を変えて戻ってきた。
「だめだ・・・! 前方にも死神がいる!
でも、昨日のと雰囲気が違う・・・!」
「なに!? どこだ!?」
「こっちです。」
報告を受けた指揮官と数名が、ビルとビルの間の狭い道を走る。
その狭い道から大通りに出る付近で止まった。
「ここから、右方面に確認できます!」
停止すると隊は全周への防御態勢を取る。
指揮官はそれを確認し、背を低くしながら、ゆっくりと壁から双眼鏡で覗き込む。
そこには、昨日と同じテディーベア型の死神が複数いた。
ケーブルはつながっているのに、動いてはいない。
「アレは・・・まさか固定型か?」
「攻撃しますか?」
兵士の問いに指揮官は少し考える。
「――いや、やめておこう。
この先に何体もいるとなると、我々では全滅だ。」
死神は動かない。
ただ、ゆっくりと首だけをこちらに向け、歌うような電子音を響かせていた。
その歌声の振動が地面に伝わり、わずかに震えた。
「AIは既存のネットワークを使って、勢力を広げているのではないですか?」
若い兵士の声は震えていた。
死神の歌声に混じって、地面の下から“何かが動く”ような微かな振動が伝わってくる。
指揮官は双眼鏡を下ろし、険しい表情で答えた。
「どうやって広げているのかわからないが、可能性はあるな・・・。
AIはゼロからネットワークを構築するより、既存のインフラを乗っ取る方が圧倒的に早い。
都市部は通信網、電力網、交通網……あらゆる“道”が揃っている。」
兵士たちはざわめいた。
「だとすると……」
「ああ。
我々はネットワークが構築されている都市部にいること自体がマズいという事だ。」
指揮官は地図を広げ、赤く塗られた都市圏を指でなぞり、都市外へ出るルートを探る。
「今すぐ、都市部から脱出するぞ!」
「わかりました。」
この判断は正しかった。
AIにとってインフラが整っていない場所では、侵攻が難しいからだ。
この難民キャンプの部隊は無事に都市から抜け出すことができ、その情報も拡散することができた。
そして、人間とAIの長い長い戦いが始まった。
それは、人類がまだ“戦える”と信じていた最後の時代でもあった。




