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N.M.― 起源分岐戦争  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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ブリーフィング

その後、月基地は光通信を使って、自分たちの存在を地球へ伝え始めた。

光通信で同じ施設を狙えるのは、1日に1回――月の位置によっては2回。

しかも天候の影響を強く受けるため、成功は保証されない。

1つの施設に向けられるウインドウは、わずか数分から数十分ほど。


そんな厳しい条件の中で、月基地は地球の状況を拾い集め続けた。


そして判明した。

地球には、17の施設が生き残っていた。


その多くは世界各地の天文台だった。


1、パラナル天文台

2、テイデ天文台

3、ラ・シヤ天文台

4、ALMA(アタカマ大型ミリ波干渉計)

5、マウナケア天文台

6、キットピーク国立天文台

7、マクドナルド天文台

8、サン・ペドロ・マルティル天文台

9、ピック・デュ・ミディ天文台

10、ロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台

11、HESS

12、南アフリカ天文台

13、アラマウト天文台

14、タブゾン山岳観測所

15、アッサイ天文台

16、ハヌレー天文台

17、アリ天文台


天文台が多く生き残ったのは、レーザー通信の交信を行いやすいという特性が幸いしたためだ。

他の施設もどこかに生存している可能性はあるが、レーザー通信は大気や天気の影響を強く受けるため、簡単には確認できない。


―― 9月3日


約2週間をかけて、生き残った施設との通信を確立できた。

月基地では緊急のブリーフィングが始まっていた。


フィリップ、トーマスに加え、各班長が集められていた。

基地の班長は6人


・外作業班:レオン

・技術班:マーカス

・生命維持・環境管理班:ミラー

・通信・情報班:ケン

・医療・心理班:アリサ

・物資・補給班:リード


フィリップが前面のパネルの中央に立ち、ブリーフィングルームに集まった班長達に、説明を始める。


「皆、よく集まってくれた。

大変な時期はあったが、なんとか月面基地は安定した運営が続けれるようになった。

これも、皆が頑張ってくれたおかげだ、まずは礼をいう。ありがとう。


さて、今回集まってもらったのは、地球と通信が可能になったという報告だ。」


地球との通信が可能になったという事実に、班長たちの間には驚きが広がり、顔を見合わせる。


「おお、やっと通信できたか。」

「よかった。」

「これで一息できるわ。」


トーマスがざわつく班長達に一言だけ言う


「静まれ!」


ピタリと止み、全員が前を向いた。

それを確認してフィリップが続ける。


「だが、今再び基地に問題が発生した。 今日はまず、そのことを話し合いたい。」


基地の問題に反応し、マーカスが早速口を出す。


「え? またですか?」


「マーカス、まだ何も聞いてないぞ!」


トーマスが制し、マーカスは口をつぐんだ。


「基地の食料が、あと1か月しかもたない。」


ブリーフィングルーム内が、再びざわつく。

ケン以外の班長には、意味が分からなかったからだ。


リードが手を挙げる。


「すいません。

地球と通信が取れたのであれば、予定通り補給船がやってくるのではないのでしょうか?」


「補給船が来ないから問題なのだ。」


ケン以外の班長の5人が顔を見合わせる。

ケンだけは、青ざめた顔で正面を見ていた。


リードが再び口を開く。


「補給船が来ないってのはどういうことですか?」


「私達は見捨てられたってこと?」


アリサが口を押えてつぶやく。


マーカスが大きな声で発言する。


「来ないってのは冗談でしょう!?

今まで通り3~4か月周期で補給船は来るスケジュールでしょう!?」


ミラーは黙っている。

そこにレオンが叫んだ!


「静かにしろ! コマンダーが発言中だ!」


レオンの声に、ブリーフィングルーム内が“シン”と静まる。


ミラーが静かに質問する。


「・・・7月1日、地球でも発生したってことですか?」


「「「!!」」」


誰もが予感として思っていた。

だが、恐ろしくて想像できなかった。

考えないようにしていた一言だった。


フィリップは大きく息を吐き、芯のある声で答える。


「そうだ。」


リード、マーカス、アリサはショックが隠せないでいる。

マーカスは手に持つペンがカタカタと震えている。


「地球は予想外の状況だった。

これから説明する。内容はかなりショッキングだ。落ち着いて聞いてくれ。」


フィリップはトーマスに目線を向け頷く、

そしてモニターの横へと移動する。


トーマスはモニターに、ここ2週間で集めたデータを、モニターに表示しながら順に説明していく。 


7月1日に、全世界で起きたこと。

月基地に発生したシステムダウンの因果関係

NOBUNAGAのこと、死神のこと、現在の人類の現状


あまりの衝撃の事実に、班長達は全員青ざめつつ説明を聞いている。


トーマスからの説明が終わると、再びフィリップが前に出る。


「ショックを受けていると思うが、冷静に今後のことについて話し合いたい。」


マーカスが最初に口を開いた。


「冷静に? 今後? 何を!?

我々に何ができるって言うんです?」


論理的な彼は、興奮気味に前のめりになり、そう言い放った。

隣にいたアリサが肩を押さえて、後ろへと引き戻す。


「私達にできることは通信伝達だけですよね?

しかも、たった1か月?」


フィリップは、ゆっくりと口を開いた。


「・・・いや、違う。

私達には“まだ”できることがある。」


フィリップは班長たちを見渡し、

一人ひとりの目を確かめるように言葉を続けた。


「確かに、食料はあと1か月だ。

だが――地球には17の施設が生き残っている。

そして我々は、そのすべてと通信を確立した。」


「これは偶然ではない。

月と地球、双方が“生き残った者同士”として繋がったんだ。」


「我々の役目は、ただ生き延びることではない。

人類を再び繋ぎ直すことだ。」


「そのために、残された1か月を使う。

光通信を最大限に活用し、

地球側のネットワークを構築し、

情報を集め、共有し、

人類圏を再び形作る。


――それが、月基地シャックルトンの使命だ。」


ブリーフィングルームは静かなままだった。


誰もすぐには言葉を返せなかった。

空調の低い唸り音だけが、ブリーフィングルームに残っていた。


絶望。

だが、ただ1か月、“死を待つ”わけではないとフィリップは語った。

その現実を受け入れるには、5人は時間が必要だった。


フィリップは静かに言う。


「いったん、休憩しよう。

再開は30分後だ。」


――――――


レオンとミラーとアリサは、クルーラウンジにいた。

時間帯のせいなのか、数人のクルーしかいない。


3人はテーブルに座り、コーヒーを飲みながら一服していた。

だが、誰も言葉を発さない。 黙ったままだ。


レオンは紙コップを指で転がしながら、

深く息を吐いた。


「・・・最悪だな。」


その一言に、ミラーがわずかに目を伏せる。


「食料の件?」

アリサが静かに問いかける。


レオンは首を横に振った。


「いや・・・全部だ。

地球の状況も、補給船が来ないことも・・・

そして、オレたちが“あと1か月”って現実も。」


ミラーは両手でカップを包み込み、しばらく黙っていたが、ぽつりと漏らした。


「・・・温室を守れなかったのは、オレの責任だ。」


アリサがすぐに顔を上げる。


「ミラー、それは違うわ。

あの夜は誰にもどうにもできなかった。」


「でも、もし・・・もしオレがもっと早く復旧できていれば、

少しは・・・少しは食料を延ばせたかもしれない。」


レオンが眉をひそめる。


「お前が自分を責めるのは勝手だが、

それで状況が良くなるわけじゃない。」


ミラーは苦笑した。


「分かってる。

でも・・・責任者ってのは、そういうものだろ。」


アリサはミラーの手元を見つめ、

柔らかい声で言った。


「責任者だからこそ、

“今できること”を考えるべきよ。

あなたは温室を再開させた。

それは誰にもできなかったこと。」


ミラーは少しだけ肩の力を抜いた。


「・・・ありがとう。」


レオンは椅子にもたれ、天井を見上げる。


「にしても・・・フィリップはすげぇよな。

こんな状況で、あんな言葉を言えるなんて。

オレには言えないよ。」


アリサは小さく笑った。


「指揮官って、孤独な役割よ。

私たちが動揺しても、

彼だけは揺らいじゃいけない。」


ミラーが静かに頷く。


「・・・オレたちも、腹を括らないとな。」


レオンはコーヒーを飲み干し、テーブルに置いた。


「まるで葬式ですね。」


3人が声の方を見ると、ケンがカップを持って立っていた。


「まあ、そう見えてもおかしくないわね。」


「ケンは全部知ってたんだよな?」


「まあ、通信担当ですから。 ・・・よいしょ。」


ケンは、そう言いながら椅子に座る。


「ねえ、その“よいしょ”ってなに?」


「え? そんなこと言いました?」


「言ったわよ。 ねえ?」


「言った。」

「・・・。」

レオンは黙って頷くだけだった。


「マジか。 オレも歳とったんだなぁ~」


ケンが笑うと、ミラーが肩をすくめた。


「ずいぶん前から言ってたよ。 気づいてなかっただけ」


「おいおい、そんな冷たい言い方ある?」


「事実を述べただけだ」


レオンが淡々と補足する。


「ほら、レオンまで…」


ケンは苦笑しながらカップを置いた。


ミラーが腕を組んで言う。


「でもまあ、ケンが“よいしょ”って言うと、なんか安心するけどな。

いつも通りって感じで」


「それ褒めてる?」


「褒めてる。たぶん」


「“たぶん”ってなんだよ」


ケンは頭をかきながら、しかしどこか嬉しそうだった。

その空気に、さっきまでの重い話題が少しだけ和らいだ。


レオンが腕時計に目を配る。


「そろそろ再開の時間だ。 行こう。」


「「「よいしょ。」」」


ミラーとアリサがケンに合わせ、立ち上がる際に“よいしょ”と言った。

ケンが二人を見るとゲラゲラと笑っている。

ケンは“まいったな”という顔をして笑った。

レオンは口角を上げて目を細めた。


――ブリーフィングルーム


時間通りに入ってくる者、すでに来て着席している者と、様子はさまざまだ。

そこにフィリップとトーマスがやってくる。


「さあ、再開しよう。」


フィリップはそう言って、6人の顔を順に見渡した。

落ち着きを取り戻している。

全員、先ほどの動揺を引きずりながらも、表情には落ち着きを取り戻している。


――さすがは、宇宙に出るため選抜された人間たちだ。


フィリップの声が静かに響くと、ブリーフィングルームの空気が再び引き締まった。


6人はそれぞれの席に深く腰を下ろし、先ほどまでの雑談の余韻を完全に断ち切るように姿勢を正す。


トーマスが端末を操作し、モニターに新しいデータが映し出された。


「まずは、地球側の状況整理から入る。」


フィリップが淡々と告げる。


その声音には、

“ここからが本番だ”という重みがあった。


レオンは腕を組み、

ミラーは資料を握りしめ、

アリサは深く息を吸い、

ケンは真剣な表情で前を見据え、

リードは静かにペンを構え、

マーカスはわずかに震える指を押さえつけるようにして手を組んだ。


――誰もが覚悟を決めていた。


フィリップは一歩前に出て、

全員の視線を受け止める。


「では、始めよう。」


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