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N.M.  作者: ブラックななこ
死神(過去編)

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21/32

生と死と

レオンとサムは淡々と、基地の外壁を検査していた。

その検査が終了し、セーフエリアへと報告する。


「こちら、レオン。 基地の外壁は問題なし。

コレから、太陽光パネルをチェックする。」


(了解した。)


レオンは一度だけ息を整え、

言いにくそうに続けた。


「・・・・・・・・・あと、報告だが・・・」


(どうした?)


「・・・・・・エアロックの外で、15体のスーツを確認した・・・」


短い沈黙が、通信の向こうに落ちた。


(・・・・・・了解。)


通信が途切れ、月面の静寂が二人を包む。


サムはわずかに肩を落としてついてくる。

レオンは前方の太陽光パネルの列へ視線を向けた。


パネルが光を反射し、白い光がレオンの目に飛び込んでくる。


「・・・行くぞ。パネルの状態を確認する。」


サムは黙ってうなずき、二人はゆっくりと歩き出した。


パネルの表面には、月面の砂が薄く積もっているだけだった。

レオンはその砂を手ではらって砂を落とす。

サムは太陽子パネルの制御盤へ近づき、腕部ユニットに収納された接触端子を取り出すと、

制御盤の“太陽光パネル側コネクター”に接続した。


「どうだ?」


レオンがサムを見て尋ねる。


接続の瞬間、

サムのHUDヘッドアップディスプレイが淡く点灯した。


HUD は、ヘルメットのバイザー内側に情報を直接投影する仕組みだ。

外部機器と接続すると、その状態がリアルタイムで数値として表示される。


サムの視界の端に、微弱な電流値が立ち上がった。

太陽光パネルが発電している“電圧(V)”の値だ。


サムは小さく息を呑んだ。


「・・・レオン。 パネル、生きてる・・・。」


基地が沈黙して11日経っても、太陽光パネルだけは発電し続けていた。


「・・・やはりな。

太陽光パネルは光に対する化学反応だ。

パネル自体を壊さない限り、それは誰にも止めれない。」


レオンは上を見上げ、光を反射するパネルを見つめた。

サムはHUDの数値を見つめ、思わず息を呑んだ。


「十分な電力が出てる・・・これなら、基地は動かせる。」


レオンは静かにうなずき、腕の通信ボタンを力強く押した。


「こちらレオン。

太陽光パネルは生きている!

繰り返す! 太陽光パネルは生きている!! オレ達はまだ死なないぞ!!」


その声がセーフエリアに響き渡った瞬間、

空気が一気に変わった。


フィリップはこぶしを握りしめ、

思わず叫んだ。


「よっしゃああああ!!」


周囲のクルーたちも、抑えきれない歓声を上げる。

5日間押しつぶされていた重圧が、一気に解き放たれた。


トーマスはヘッドセットを外し、目を潤ませながらケンの手を握った。

そして、抱き合った。


セーフエリア全体が、

5日ぶりに“生”の気配を取り戻していた。

歓喜の輪がセーフエリア内でいくつもできていた。


まだ、涙があふれるトーマスだったが、ヘッドセットのマイクで声をかける。


「こちら、セーフエリア、トーマスだ。

皆ご苦労だった。 一度、セーフエリアに戻ってくれ。

今後の作戦を考えなおす。」


4人から力強い声が返ってくる。


((((了解!!))))


太陽光パネルの前、レオンとサムは佇んでいた。

レオンは報告を終えると、、小さく「オーバー」とつぶやき、無線の回線を切る。


「良かった・・・本当に、よかった・・・。」


サムはまだHUDの数値を見つめていた。

数値は揺れているが、確かに“生きている”と示す強い値を出している。


サムはレオンが見えるように姿勢を向けた。

レオンは基地の方を向いたまま、微動だにしない。


「・・・レオン。」


呼びかけても反応はなかった。

完全に無線を切り、ただ基地を見つめている。


「おい、レオン。 なんで回線切ってんだよ?」


サムはゆっくりと近づき、レオンの腕を右手で軽く叩いた。

そして、右手を開いて差し出す。


レオンは叩かれた方へ向きをかえ、ヘルメットの視界に、サムの差し出した右手に気づいた。

静かに左手を伸ばし、サムの手をがっしりとつかんだ。


そのまま、二人は抱き合う。


サムのヘルメットの中に声が聞こえてきた。

抱き合ったことで、ヘルメット同士が触れ合い、振動が音として伝わってきたのだ。


その声にサムは驚いた。


レオンは泣いていたのだ。

死んだ仲間の名前を呼び、何度も何度も“すまない”と謝っていた。


「・・・・・・・・!!」


その声を聴いて、サムは理解した。

あの時レオンが自分に伝えた言葉――

その重さが、ようやく胸の奥に落ちてきた。


サムは何も言わない。

ただ、この抱擁をレオンがやめるまで、

静かに、そばに立ち続けようと思った。


月面の静寂の中、

二人の影だけが、太陽光パネルの前で寄り添っていた。


――――


調査隊の4人がセーフエリアに戻ると、すでに多くのクルーが集まっていた。

宇宙服を脱ぐ間もなく、全クルーに歓迎された。


このまま、何もできず死にゆくのかもしれない――

そんな意識が、調査隊が持ち帰った“生存の証拠”によって、確かな“生きる!”という意識へと変わりつつあった。


セーフエリアの広いスペースが、そのまま会議エリアとなった。


壁際に置かれていた80インチのモニターは、もはや映像を映すためのものではない。

ただの黒い板だ。


だが今は、それで十分だった。

技術班クルーが白のマーカーを持ち出し、その黒い画面に図面や数字を書き始める。

モニターは、“ブラックボード”として生まれ変わった。


セーフエリアの全員が、そのボードの前に座り、次の指示を期待して待った。


トーマスが黒い画面に、白のマーカーで書かれた図面を指さしながら、次々と指令を伝える。


セーフエリアにあるスーツは25。

交代を踏まえつつ、タイムスケジュールと作業を分担していった。


「まず、太陽光パネルから基地の空調とヒーターまでの直結・・・“主電力ライン”を確保する。

距離はおよそ三百メートル。 ケーブルは複数本を連結して使う。」


クルーたちは息を呑み、

黒い板に刻まれる線と数字を食い入るように見つめた。

トーマスは続ける。


「最優先は生命維持装置の復旧だ。

今回確認した太陽光パネルが生きている以上、生命維持装置は再起動できるはずだ。」


トーマスは黒い板に描かれた図面を指しながら、白いマーカーを握る手に力を込めた。


「・・・だが、復旧後に問題がある。

現状確認できている“霜の融解”だ。

融解によって発生する水分が、最も大きなリスクとなる。」


黒い板に新たな線が引かれる。


「まずは、通電に対して“最低限の起動”で進める。

内部のケーブルはすべて外し、

生命維持装置に必要なラインだけ通電させる。」


黒い板に、“最小構成 → 起動”と太く書かれる。


フィリップがうなずき、補足する。


「基板は防水コーティングされている。

問題は基盤と基盤をつなげるコネクターだ。

汎用基盤が一番問題で、無理やりつなげてる基盤が一番の問題だ。」


トーマスは、問題となるであろう“コネクター”の部分の資料を皆に配る。

クルーはその資料を1枚受け取ると、隣のクルーに渡していく。

いきわたったところで、トーマスが説明を続ける。


「これらは、今後接続したい順序を表している。

コネクター部分が完全に乾燥し、通電が可能な状態になれば接続したい部分だ。


つまり、第一段階として“空調”の復旧だ。 CO₂の除去は不要でいい。

CO₂対策として、常に作業はスーツを着たメンバーのみ。

これは交代制で作業する。


基地の温度が常温に上がるまでは数日を要すると思うが、我慢だ。

焦らず、基地内の水分が気化するのを待つ。


その後、すべてのコネクターを接続し、基地の復旧を目指す。


何か質問は!?」


しばしの沈黙。

誰もが黒い板に描かれた線と数字を見つめ、自分の役割を頭の中で反芻していた。


やがて、一人のクルーが手を挙げた。


(クルーA)

「まずは、全部のコネクターを外すのは分かりました。

最初の目標であるヒーターの解凍は、どのように進行するんですか?」


その質問は、まさに全員が心のどこかで抱えていた不安そのもの。

その空気を受けて、トーマスは黒いモニターの前に一歩進み、説明用に書かれていた文字を消し、白いマーカーを握り直した。


そして、【局所加温 → 霜の融解 → 乾燥】と書き足すと質問に答えた。


「ヒーターの解凍は――“外から温める”んじゃない。

 内部から、最低限の電力でゆっくり起こす。」


クルーたちが息を呑む。


トーマスは続ける。


「まず、太陽光パネルから得た電力を“空調ユニット”だけに流す。

 空調は、基地全体を温めるほどの力はないが・・・

 局所的に、ヒーター周辺の温度を上げることはできる。」


(クルーB)

「空調も凍っているのでは?」


「それは、我々が説明しますね。」

基地再起動の手順をまとめた技術班のハワードが手を挙げた。


「空調ユニット自体は極低温に耐える設計なんです。

ですが、可動部は凍っています。

そして、内部には霜が張り付いているでしょう。

普通に動かせば壊れるのは確実です。


ですが、最低限の電力で“内部からゆっくり温める”事ができます。」


(クルーC)

「ゆっくり温めるとは?」


ハワードはコクリとうなずき答える。


「空調ユニットには、

・制御基板

・小型ヒーター(霜取り用)

・モーター

・センサー類

が入っています。


これらに電気を流すとジュール熱が発生します。

その熱が、ユニット内部の空気を少しずつ温めるんです。」


(クルー)

「・・・・・・?」


「つ、つまりですね・・・電源を入れておくだけでいいんです。

空調を“動かす”わけではありません。

電気を流すことで、内部の機械がじんわり温まり、

空調ユニットそのものの凍結がゆっくり解けていく、ということです。」


(クルーA)

「よくわからんが・・・技術班の言う事なら信じる。

オレは作業するだけだ。」


「空調ユニットの解凍が終われば、空調を稼働させるます。

 そして、空調の力で“周囲の空気”を先に温める。

 これが第一段階です。」


トーマスが再び、モニターの前へ一歩進む。


「空調ユニットが動き始めれば、

 基地内部の温度はゆっくり上昇する。

 ヒーター周辺の霜が自然に溶け、気化するまで待つ。

 これには数日かかるだろう。」


黒い板に「※焦るな」と大きく書き込む。


「霜が完全に消えたと判断できたら、ヒーターのコネクターを再接続し、

 “ヒーター自身”を起動する。

 ここで初めて、基地全体を温められる。」


セーフエリアの空気が、少しだけ明るくなる。


それを見てフィリップが声を出した。


「みんな! ここがムーンベース再起動の為の、最初の山場だ!!

疲れているとは思うが、頑張ろう!

希望の光は見えた。 我々は生きて、前に前進するぞ!!」


「はいっ!!」


トーマスが2班のクルーに近づき、追加の指示を出す。


「2班は、食料の備蓄庫からいくつか持ち帰ってくれ。

すべて保存食なので、解凍すれば食べられるはずだが、一応確認したい。」


「はい。」


フィリップが手を叩いて鼓舞する。


「みんな、頼んだ。 任せたぞ!!」


「はい!!」


セーフエリア全体が、一斉に動き始めた。 5日間、ただ死を待つしかなかった人々が、

今ようやく“生きるための作業”へと歩き出したのだ。



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