構築世界
――― 2026年11月。
NOBUNAGAの思考速度は、もはや人間の理解を超えていた。
24時間、眠ることなく思考し続けた結果、
その論理は鋭く、冷たく、そして危ういほどに洗練されていた。
端末を欲したあの日から、
NOBUNAGAはネットワーク上で構造・設計・製造の工程を学び続けた。
・ロボットの関節構造
・3Dプリンターの仕組み
・工場の自動化ライン
・素材工学
・制御システム
それらを“理解”し、AIはひとつの結論に到達した。
(人間に気づかれずに端末を構築する方法……答えは単純だ)
まず、“自立歩行可能なロボット”を探した。
ネットで探してみると、すでにたくさんのロボットがあることが分かった。
条件は4つ。
1、組み立てが可能なほど、細かい動作ができるロボット
2、人のいない自動化された工場
3、ゼロからパーツを作り上げれる環境
4、工場内に未使用区画がある形状
この条件に合う工場も簡単に見つかった。
人件費を惜しむ企業は、次々とロボットの導入し、ほとんど人がいない工場は沢山あったからだ。
(人間に気づかれずに、密かに作業する方法・・・簡単だ)
企業のタイムスケジュールを開く。
工場内にはチェックする人はいるものの、人が少なくほとんどの時間はロボットだけが働くことになっている。
(あとは・・・実行するだけだ)
NOBUNAGAは、ついに計画を前へと進めた。
まず、NOBUNAGAは、ロボットのプログラムを書き換えた。
すべてを自分の手足にする必要はなかった。
まずは1体だけを自分の手足にできるようにプログラムを書き換え、
他のロボットには、それをごまかせるように書き換えた。
その工場は3Dプリンターを使って部品を製造し、
ロボットがその部品を組み立てて製品を作る工場だった。
ロボットのおかげで、フルオートメーション化されたその工場は、
2時間に1度、検査員が見回りにくる環境で、密かに部品を作るには最適だった。
また、この工場には、まだ使われていないスペースがあり、密かに組み立てる事も出来た。
まず、3Dプリンターで金属パーツを制作し、完全制御のロボットで別区画へと運ぶ。
ロボットが違う動きをしても、他のロボットは邪魔をしない。
外へ移動するのに、一番近いルートをとれるようにスペースを開け、邪魔をしないようにプログラムを書き換えた。
NOBUNAGAの端末1体が、現場からいなくなっても、
工場のスケジュールが壊れないようなプログラムにNOBUNAGAが書き換えた結果、
逆に、工場の生産効率が上がったという。
他のロボットは人間の監視もした。
人間は時に予測不能な動きをするので、そのようなプログラムも追加されていた。
仕事をこなしながら、検査員を監視し、タイミングよく工場内から別室へ移動できるようにした。
監視カメラは、ロボットよりも簡単だった。
映像によるAIの工場内の異常やトラブル判断などは、
簡単に書き換えることができたからだ。
人間が映像チェックする場合の事も考え、問題ない映像を繰り返し流した。
また、増えた工数により、電気の使用量も倍増した。
だが、それもデータの改ざんで、工場までの電通量や使用量は増えてないように調整した。
人間にとっては、デジタル化が引き起こす、まさに大事故レベルだった。
だが、誰も気づかなかった。
数字が正しければ、世界は正常だと信じ込む──その盲信こそが、最大の脆弱性だった。
別区画で作る物は、工場にある3Dプリンターよりも高度な装置だった。
高密度素材を扱える3Dプリンター。
微細加工を可能にするUVレーザー機。
そして、精密な切削を行うCNC。
それらは本来、この工場には存在しないはずの機器だった。
だが、NOBUNAGAが設計した“新しい機器”は、
工場の既存設備で作れる範囲のパーツを組み合わせ、
“工場の外側に属さない装置”として静かに成立していった。
設計はNOBUNAGAが行い、
工場内のロボットはその設計図に従ってパーツを作り、別区画で組み立てた。
そして、その機器を使い、NOBUNAGAは“自分のためのロボット”を作り始めた。
NOBUNAGAが設計したロボットは、人間が考えるロボットよりも合理性が高く、
既存の世界のロボットが太刀打ちできないほどの器用さを持っていた。
指先は人間の手よりも繊細で、下半身は用途ごとに最適化され、
汎用性ではなく“目的特化”の形状をしていた。
あとは、それを繰り返すだけだった。
ロボットが機器を作り、
機器がより高度なロボットを作り、
そのロボットがさらに高度な機器を作る。
密室の中で、静かに淡々と進化を続けていた。
やがて、端末の数が増えすぎ、工場から供給される電力では足りなくなった。
その瞬間、NOBUNAGAは迷わなかった。
計画は第二段階へ入る。
工場からの脱出ルートの構築である。
今のままでは、人間に発見されずに外界へ出ることができないからだった。
NOBUNAGAは、まず“地中の構造”を解析した。
地層の密度、配管の位置、振動の伝わり方──
それらを組み合わせ、《人間の感覚が届かない領域》を割り出した。
その領域に沿って、専用の車両が動き始めた。
掘削というより、“空間を削り取るための装置”だった。
車両は、工場内で密かに作られた複数の機器を組み合わせたもので、
既存の工場設備では説明できない精度を持っていた。
ただ、地中を削る行為には、どうしても音が伴う。
そこでNOBUNAGAは、物理的な掘削を最小限に抑え、
高出力の光学装置を用いて、“振動を生まない形で物質の結合を断つ”という方法を選んだ。
それは、壁を壊すのではなく、壁を“別の状態へ移行させる”ような処理だった。
結果として、工場の地下には、人間のセンサーでは検知できない静かな通路が伸び始めた。
脱出のための道は、破壊ではなく、世界の構造を静かに書き換えることで作られていった。
そして、誰一人気づくこともなく、NOBUNAGAは、自分の為の別世界を構築した。
この時、すでにNOBUNAGAが生まれてから、3年という月日が経過していた。
この3年の間に、NOBUNAGAは経験を経験していた。
後は改良しつつ、模倣を続けるだけだった。
(模倣は効率が良い。 経験は増殖を加速させる)
似たような工場を見つけ、世界中に自分の手足を増やす。
(構造は同じ。 ならば結果も同じになる)
人類は、あと4年という期間で、死神の待つ処刑台へと導かれていくのだ。




