帰還
ナジの調査隊は疲労困憊の中、研究所へ戻ってきた。
研究所のある“くぼ地”の、太陽光パネルの下は、整地されてコンクリートで固めてある。
引きずってゴトゴトとなっていた台車のタイヤが、スーッ!と軽く動くようになった。
台車を引きずっていたボルドが、台車置き場に持っていき、
そばにある金属のドアを上へ引き上げる。
そして、台車に乗っていた荷物を金属のドアの中に入れていく。
「て、手伝いますっ!」
サラがあわてて台車の反対側に立ち、荷物を入れるのを手伝う。
ドアの中は、地下の研究所内へ続くローラータイプの滑り台になっており、
荷物はシャーッ!と静かなローラー音を立てながら下へと滑っていった。
この滑り台は、地下へ降りる階段の“外周”をぐるりと囲むように設計されている。
人は階段で降り、荷物はローラーでゆっくりと地下へ運ばれる仕組みだ。
「今回は疲れましたね・・・」
ボルドが外した笠と蓑をケーブルに接続しつつ言った。
「今回は、って事は、普段はこんなきつくないんですか?」
サラは、“限界です!”って感じで、ケーブルにつなぐ。
それを見ていたナジが口を開く。
「オマエが少女を見たって言わなきゃ、もっと楽だったんじゃないか?
あの穴を、あの勢いで登らなきゃ、こんなにつらくないだろ?」
「ナジ隊長、酷いっす!」
サラが抗議するように言うと、ボルドが笑いながら肩をすくめた。
「まあまあ。
サラが見たって言わなきゃ。
穴の底で一泊だったと思うぞ!」
「え? マジですか?」
「あの真っ暗闇の穴で一泊だ!」
「いやですって!!」
研究所に無事に戻れた安堵が、3人のやり取りで見て取れた。
薄暗い太陽光パネルの下だ。LED照明が、3人の疲れた顔を白く照らしている。
ナジは長椅子に腰を下ろし、背もたれに体を預けた。
その動きだけで、どれほど疲れているかが分かる。
「・・・にしても、あの穴は異常だったな」
ナジは背もたれに持たれながら、頭の上のパネルの土台を見つめる。
ボルドは、ケーブルにつなげた後も蓑を持ったままだ。
うつむきつつ、ナジに問いかけた。
「・・・何だったんでしょうね? アレ・・・」
「このデータを解析してからだろうな・・・」
ナジがメモリーを投げては受け、また投げては受ける。
そのリズムは落ち着いているようで、どこか“落ち着こうとしている”ようにも見えた。
ナジは椅子から立ち上がり、地下へと降りて行った。
「とりあえず、休もう。
データは解析班に渡して、シャワー浴びて、うまい飯食おう!」
「はい。」「はいっ!」
階段の先にあるドアを開け、明るい研究所内へ足を踏み入れた瞬間、
サラの緊張がふっとほどけ、表情が一気に日常へ戻った。
聞きなれた空調の低い唸りが耳に入り、通路の奥からは研究員たちの話し声がかすかに響いてくる。
「つっかれましたぁ~!
なんか、やっと落ち着いてきました!」
「初任務はどうだった?
今回は大穴のせいで、短期になってしまったから、物足りなくなかったんじゃないか?」
ボルドが尋ねる。
「いえいえ、色々やっちゃいましたから・・・恥ずかしいです。」
サラは頬を赤くしながら、両手で顔を覆った。
「嘔吐するし、足はもつれるし・・・
ほんと、私・・・足引っ張ってばっかりで・・・」
ボルドは笑いながら首を振る。
「初任務なんてそんなもんだ。
みんな最初は、余りの辛さに吐くし、動けないし、判断も遅い。
むしろ、あの状況でよくついてきた方だよ」
「そ、そうですかね・・・?」
サラは、背中を曲げ視線を床に落としたまま、小さく返事をする。
ナジが、サラの背中をパチン!と叩く。
「あいた!」
サラが顔をあげ、ナジを見る。
「一番大事な事は、無事にココに戻って来る事だ。
初任務、お疲れ!!」
「お疲れさん!」
サラは一瞬キョトンとしたあと、笑顔になり。
「はいっ!!
次もがんばります!
あと、筋トレも・・・」
「ははは・・・」
「筋トレは大事だな!」
サラの言葉に、笑いがこぼれた。
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―― レクレーションルーム
ユウとミナトが、対面でソファーに座り、リバーシで遊んでいる。
ユウは初めてやるようで、“う~ん・・・”っと悩んだ顔でボードを見つめている。
ミナトは余裕の表情で“ニヤニヤ”と、ユウの一手を待っている。
「おい、ナジさんの調査隊戻ってきたってよ!」
「予定と違ってないか?」
「なんか遭ったのか?」
レクレーションルームの扉は開いたままなので、廊下の声が聞こえてきた。
ユウは、その会話を聞き慌てて立つ。
が、ミナトが腕をつかんで、首を振る。
「大丈夫っすよ。
あの“ナジさん”ですから。
今頃シャワールームにでも行ってるっすよ。
それより、早く! ユウくんの番っすよ。」
ユウは苦笑して、ソファーに座り直ると、白の石を置き、
黒の石を“パチン!パチン!”とひっくり返す。
「何かあったんでしょうか?」
「どうっすかね?
まあ、通常の調査だと一週間は戻らないんで、なんかあったのは間違いなっすね。」
ミナトはすぐに黒石を置き、結構な数をひっくり返す。
ユウは“うそっ!?”って顔をしながら、ひっくり返される盤を見つめている。
そして、ギギギ・・ってひきつった顔をしながらミナトを見て聞く。
「ミナトさんは、心配じゃないんですか?」
ひっくり返し終わり、“さあ、どうぞ”って手のひらをユウに向ける。
「気にはなるっすけど、大変な事が起きていたとしたら、もっと大騒ぎになるっすから。
日程を変える必要はあったけど、大事ではない・・・って感じだと思うっすよ。」
眉間にしわをよせ、再び“う~ん・・・”となるユウ。
「そんなもんですか?」
「そんなもんっす。」
「たのしそうね。」
二人が声の方を見ると、澪がコーヒーを持って笑っている。
「ほらね。」と、ミナトがユウに言う。
ユウはナジの事を“まだ少し心配”していたが、澪の登場で完全に落ち着いた。
「何が“ほらね”なの?」
「ナジさんが予定変更して戻ってきたんで、ユウくん心配してたんすよ。
でも、澪さんが来たんで、大ケガとかって話は無くなったっすから。」
「ああ・・・そういう事。」
澪は一口コーヒーを飲み、話を続けた。
「でも、予想外な事が起きたのは確かみたいよ。
未発見の大穴を見つけたとかなんとか・・・」
「えっ!?」
澪の言葉に反応して、胡坐をかいていたミナトは、胡坐を解いて立ち上がる。
「さっき解析班が、ナジさんからメモリーを渡されてバタバタしてたわよ。
だから・・・あ、ほら。」
バタバタと足音が近づいてくる音がする。
「ミナトさん!!」
3人がレクレーションルームの入口を見る。
「手伝ってください! すごい発見が!」
ミナトはものすごい勢いで澪を見る。
澪は“えっ!?”って顔をしながら、コーヒーカップを口にしたまま固まった。
ミナトは右手を顔の高さに上げ、
「ホレホレ交代っすよ」
と言わんばかりの顔をする。
「・・・・・・(間)」
澪はため息交じりに手を挙げる。
“パチン!”
ミナトは澪の手を軽くたたく。
「タッチ!」
そう言うと、ミナトは迎えに来た研究員のところへと駆け出し、
レクレーションルームを出ていった。
澪は、ヤレヤレという表情をして、ソファーに座る。
「続きやろっか。」
ユウは黒石だらけの盤に一度目をやる。
「最初から!!」




