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N.M.  作者: ブラックななこ


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13/16

調査隊の3人は大穴の底にたどり着いた。


風が渦を巻き、砂埃が舞い上がる。

サラは腕で顔を覆いながら、足元を慎重に確かめた。


「・・・死神の落下痕にしては、大きすぎますよね・・・?」


サラの震える声に、ナジは上ずらせつつ答えた。


「大きすぎるどころじゃねぇ。

死神が落ちたって、こんな“地形ごと抉れる”わけがない」


「見た感じ、直径200mぐらいでしょうか?」


「ボルド、もう数値なんてどうでもいいよ。

こんな事あり得るのかよ?」


大穴は直径250m以上、深さは50mほど。

死神の落下痕としては、あまりにも異常だった。


「ナジさん! これ見てください。」


サラがナジを呼ぶ。

ナジが駆け寄ると、サラの足元にはそこら中に黒く光る塊があった。

まるで雷が地面を焼き焦がしたような黒いガラス質。


「こりゃ・・・フルビオライトじゃないのか?」


「フルビオライトって?」


「地面が超高温で溶けて再結晶化した時にできる天然ガラスだ」


サラは理解が追いつかず、ボルドが代わりに反応する。


「・・・?」

「ここで、数万度の熱源が発生したって事ですか?」


「わからん! さっぱりわからん!

この空間にプラズマが?」


ナジの声は荒れていたが、震えてもいた。

“理解できない現象”を前にしたときの、あの独特の緊張が空気を締めつける。


風がまた渦を巻き、砂が舞い上がる。


「ナジさん・・・プラズマって、そんな簡単に発生するものなんですか?」


「するわけねぇだろ・・・!

だから言ってんだよ、“わからん”って!」


ナジは黒いガラス質の塊を手袋越しに拾い上げ、暗くなりつつある空にかざした。

表面は滑らかで、内部には細かい気泡が無数に閉じ込められている。


「・・・自然現象じゃねぇ。

死神でもねぇ。

隕石でもねぇ。

じゃあ何がこんなもん作ったんだよ・・・」


「雷じゃ、こんな穴できませんよね。」


「そうだ。

あり得るとしたら、超圧力によるプラズマだが・・・こんな場所で発生なんてしないだろ?」


「そうですね。

開かれた場所で圧縮なんてできませんし・・・」


「すいません!

全く分からないので、説明してほしいです!!」


サラが開き直って、二人に進言した。


サラの正直すぎるギブアップに、ナジとボルドは同時にため息をついたが、少し落ち着きを取り戻した。

ナジが説明を続ける。


「いいかサラ。

“プラズマ”ってのは、空気や物質がとんでもない高温になったときに起きる状態だ。」


「とんでもないって・・・どれくらいですか?」


「数千度から数万度だ。

で、そんな温度になると、自然界では地面の砂や岩が溶けて、こういうガラスみたいな塊――フルビオライトになる。」


サラは目を丸くした。


「えっ・・・じゃあ、ここで地面が溶けたってことですか?」


「そういうことだ。」


ボルドが続ける。


「ただし、問題はそこ。

こんな広範囲を一気に溶かすほどの熱源なんて自然界にはない。」


「雷でも無理ですよね?」


「無理だ。」


「じゃあ・・・何が?」


「それが分からないから困ってるんだよ。」


ナジが肩をすくめた。

サラは指を折りながら確認する。


「つまり・・・

① ここで数万度の熱が発生した

② 地面が溶けてガラスになった

③ でも自然現象じゃ説明できない

④ 死神でも無理

⑤ 隕石でもない

・・・ってことですか?」


「そういうことだ。

・・・いやまて、隕石ならありじゃないか?」


「隕石が原因だと、超高温を発生させるには、サイズが小さくないですか?」


「ふむ・・・そりゃ、そうだな。」


ナジとボルドが見解をいうと、サラは常識が通じない現象に青ざめる。


「・・・じゃあ、何がこんなことを・・・?」


ナジがつぶやく。


「核融合・・・?」


「「え? どういう・・・?」」


ボルドとサラがナジの言葉に反応する。

ナジに確信はなかった。


「わからないよ。

ここで核融合が発生したら・・・って、思っただけだ・・・」


風の音だけが、巨大な穴の底を吹き抜けていく。


サラはごくりと唾を飲み込む。


「・・・発生したら、どうなるんですか?」


ナジは黒いガラス塊を見つめたまま、低く答えた。


「ここに太陽ができるんだ。

“跡形もなく蒸発する”。

この穴どころじゃない。

街も、平原も、俺たちも・・・全部だ。」


サラの顔がさらに青ざめる。


「じゃ、じゃあ・・・ここは核融合じゃないんですよね・・・?」


「いや・・・制御された核融合なら・・・」


ナジは黒いガラス塊を見つめながら、低く言った。


「・・・制御された核融合なら・・・今は“移動式炉”まで小型化されてる。

だが――」


サラが息を呑む。


「じゃあ・・・ここも核融合が・・・?」


ナジは首を横に振った。


「違う。

核融合炉は強力な磁場封じ込め装置と電力があって初めて成立する。

あれがなきゃ、ただの“太陽の欠片”だ。」


ボルドが続ける。


「つまり・・・設備なしで核融合が起きたら・・・?」


ナジは短く答えた。


「地形ごと蒸発する。

こんな穴じゃ済まない。

街も、平原も、全部消える。」


サラは青ざめる。


「えっと・・・じゃあ、やっぱり・・・核融合じゃないんですよね・・・?」


ナジは静かに言った。


「違うが・・・“核融合に似た何か”だ。

・・・人間の技術じゃない。

死神でもない。

隕石でもない。」


風が止まり、砂が落ちる。

その静けさにサラは周りが気になってしょうがない。


「・・・ここで起きた事は、人類がまだ理解できていない現象だよ。」


ナジの説明に思考が追いつかない二人。

沈黙が3人を包んでいる。


「・・・・・・。」


小さな小石が穴の壁を転がり落ち、カツーン! カツーン! とかすかな音を出した。


「ヒッ!?」


サラはビクつき、目線をそっちへ動かした。


「あっ!?」


サラが何かを見つけた。


「どうした?」


「あれ?・・・あそこに女の子が立っていた気がしたんですけど・・・いないですね。」


サラは女の子を見たという方向を指さす。


「なんだと!?」


ナジとボルドは、サラが指さした方向へ一斉に視線を向けた。

だが、そこには――何もいない。


すでに時間は20時が近い。

空は暗い青色をしていて、東の空には星も瞬き始めた。


穴の中は真っ暗で、空の微妙な明るさが穴の縁を描いている。

風が砂を巻き上げ、白い渦がゆっくりと形を変えていく。


「・・・まったく見えない。

この暗さだ。 ただの見間違いじゃ?」


ボルドが低く言う。


「確かに“いた”ように見えたんです・・・。

白い服の・・・女の子が・・・」


サラは自分の目を疑うように、何度も瞬きをした。


ナジは理由は分からないが、何故かユウを思い出した。

それは、ユウが白い服を着ていたから、ただそれだけだった。


ナジの胸の奥で、ひやりとした感覚が広がった。


(・・・白い服が共通しているからって、なんだって言うんだ・・・)


ナジは自分に言い聞かせるように、ゆっくりと息を吐いた。


「サラ。

もう一度だけ確認する。本当にいたんだな?」


「私、割と夜目が効くんです。

あそこからこっちをジッと見てました。

髪が長かった気がします。」


ナジの胸の奥に、説明できない違和感が広がる。


「登るぞ!!」


ナジは大穴を全力で登り始めた。

だが、次第に速度は落ちていく。


はあっ・・・はあっ・・・


ナジが縁に手をかけ、最後の力で身体を引き上げた。

荒い呼吸が喉の奥で震え、胸が上下する。


それを耐えつつ、慎重に周囲を確認しつつ少女を探した。


風が吹き抜ける。

だが、さっきまで穴の底で感じていた“重い静寂”とは違う。

ここは、ただのモンゴルの風だ。


それなのに――ナジの背筋には、底よりも冷たいものが走っていた。


息も絶え絶えなサラが不安そうに周囲を見回す。


「・・・いませんね・・・誰も・・・」


ボルドが息を整えながら、低く言った。


「・・・・・・。」


ナジは何も言わない。

横目でサラを見る。

サラは唇を噛み、強く首を振った。


「見間違いかもしれません。

でも、白い服で・・・髪が長くて・・・こっちを見てました。」


サラの言葉を最後に、三人はしばらく黙り込んだ。


風が吹き抜け、砂が足元をさらっていく。

夜の冷気がじわりと肌に染みてきた。


ナジは真っ暗な大穴を見下ろしながら、低く言った。


「・・・今日はここまでだ。

見つからない物を探しても危険なだけだ、視界も悪い。

一度、穴から離れて野営する」


ボルドが頷く。


「賛成です。光の使えない夜の捜索は危険すぎます。」


サラが、まだ不安そうに穴の縁を見つめながら言った。


三人は穴の縁でも、少し高台になった場所へ移動した。

できるだけ穴の全景が見渡せる場所だと判断したからだ。

なにか異常が起きても、すぐに対処可能だからだ。


3人は各々、瓦礫の隙間に寝床を作り、その隙間に体を滑り込ませる。


ナジは最後にもう一度だけ穴を振り返った。


暗闇がゆっくりと穴の縁を飲み込み、底は完全に黒く沈んでいる。


風が吹き抜け、砂がさらさらと流れ落ちる音がした。

その音が、まるで“誰かが歩いている”ように聞こえたが――


ナジは深く息を吸い、意識的にその感覚を押し殺し、寝床に身を沈めた。


瓦礫の隙間から吹き込む夜風は冷たく、砂の匂いが微かに鼻を刺す。


サラは寝袋の中で丸くなりながら、何度も体勢を変えた。

目を閉じても、暗闇の底に広がる巨大な穴の輪郭が脳裏に浮かんでしまう。


(・・・あんな地形、自然にできるわけがない・・・

いったい何が・・・)


考えれば考えるほど眠気は遠のき、胸の奥がざわつく。


ボルドとナジはすでに深い眠りに落ちていた。

調査隊の経験値の差だった。


サラはそっと息を吐き、瓦礫の隙間から見える空を見上げた。

星が瞬き、風が瓦礫の小さな隙間を通る音だけが夜を満たしている。


――禁忌を破らない限り、死神は来ない。


そう自分に言い聞かせながら、サラはようやく目を閉じた。

夜は静かに、しかしどこか不穏な気配を残したまま、ゆっくりと更けていった。


――――――――――――――――


夜が明け、東の空が薄く白み始めた。

冷たい風が草を揺らし、瓦礫の影がゆっくりと形を変えていく。


ナジは寝床から身を起こし、すぐに穴の方へ視線を向けた。

昨夜の闇に沈んでいた巨大なクレーターは、輪郭を露わにしている。


「・・・よし」


ナジは短く呟き、視線を大穴へ向ける。


朝日が地平線から顔を出し、巨大なクレーターの縁を淡く照らしていた。

そして、日が高くなるにつれ、巨大なクレーターの穴を明るく照らし、少しずつ現実味を帯びていく。


ボルドも寝袋から這い出し、肩を回しながら言った。


「視界は十分ですね。

今日の調査、どう進めますか」


ナジは立ち上がり、装備を整えながら答えた。


「――この正体不明のクレーターのデータを詳細に集めろ。

調査は“大穴のみ”に限定する。

余計な探索はしない」


サラも寝袋から顔を出し、まだ眠気の残る目をこすりながら頷いた。


「了解です・・・。

地形の測定、フルビオライトの採取、熱痕の分布・・・全部ですね。」


3人は、大穴に関する多くのデータを集め、2日後、研究所へと出発した。



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