8. 聖女の沈黙
教室での騒動から数十分後。
俺は再び裏庭のフェンス前に戻っていた。
別に期待していたわけではないが、このまま放置すれば、本当に学園が腐海に沈む。そろそろ手打ちにしないと、俺の植物たちも可哀想だ。
しばらくすると、校舎の方から重い足音が聞こえた。
淡路だ。後ろには生徒会の役員たちも引き連れている。
だが、その顔色は土気色で、いつもの覇気はない。
「……堅」
「なんだ。まだ何か用か?」
俺が腕を組んで見下ろすと、淡路は唇を噛み締め、震える声で言った。
「……頼む。園芸部の活動を、再開してくれ」
「命令か?」
「ち、違う! お願いだ! この通りだ!」
淡路が頭を下げた。プライドの高いあいつにしては上出来だ。
だが、まだ足りない。
こいつは「問題を解決したい」だけで、「俺やゆりねにしたこと」を反省しているわけではないからだ。
「断る」
「なっ!? 頭を下げただろ!」
「お前が下げたのは頭だけだ。魂がこもってない」
俺が冷たく突き放そうとした、その時だ。
俺の隣にいたゆりねが、すっと前に出た。
「……ゆりね?」
彼女は俺を手で制し、淡路の前に立った。
その背筋はピンと伸び、顔には……あの「完璧な聖女」の微笑みを浮かべていた。
だが、その目は笑っていない。俺も見たことがないほど冷徹な光を宿していた。
「淡路委員長」
「し、白川さん……?」
「栗原くんにお願いするなら、誠意を見せていただけますか?」
美しい声だった。だが、そこに含まれる圧力は、イラクサの毒よりも強烈だった。
ゆりねは淡路をじっと見据え、静かに告げた。
「もし、これ以上彼を愚弄するなら……私が全校生徒に『真実』を話します。誰が私を追い詰め、誰がこの学園を悪臭で満たしたのかを」
淡路が息を呑む。
それは、学園のアイドルである彼女が持つ、最強のカードだった。




