5. 閉ざされた聖域
翌日。
俺は昼休み、あえて裏庭へは行かず、教室で寝たふりをして過ごした。
昨日、淡路の手駒を撃退したばかりだ。今日の昼間は、奴が目を光らせている可能性が高い。
行くなら、監視の目が緩む放課後だ。
そう判断して、チャイムと共に俺は席を立った。
だが、俺の読みは甘かったらしい。
聖域である裏庭の入り口は、無粋な黄色いテープで封鎖されていた。
フェンスには一枚の張り紙。
『活動停止命令』
『発令者:生徒会執行部』
『理由:園芸部による危険植物の栽培、および一般生徒への傷害行為が確認されたため』
……なるほどな。
俺は鼻で笑った。淡路の仕業だ。
あいつ自身は手を汚さず、生徒会に報告書を出して動かしたのだろう。昨日の今日で、正規の手続きを踏んで停止命令を出させる。相変わらず、組織を使うのが上手い「玉ねぎ」だ。
俺がフェンスの前で立ち尽くしていると、背後から遠慮がちな足音が近づいてきた。
「……栗原くん?」
振り返ると、そこには白川ゆりねがいた。
彼女も放課後の静けさを狙って、俺に会いに来たのだろう。
だが、俺の背後にある黄色いテープと張り紙を見た瞬間、彼女の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「ごめんなさい……私のせいだわ。あいつら、生徒会まで使って……」
「お前のせいじゃない。俺がイラクサを植えたのは事実だ」
「でも! これじゃあ、栗原くんの大事な場所が……」
彼女の目から涙が溢れる。
自分の居場所がなくなったことよりも、俺の部活が潰されたことを悲しんでくれているらしい。
泣き虫な百合根め。
「泣くな。枯れるぞ」
「だってぇ……」
「想定内だ。むしろ、これで良かった」
「え?」
俺はニヤリと笑った。
淡路も生徒会も、園芸に関しては素人だ。
彼らは知らないのだ。俺がこの裏庭で、単に野菜を作っていただけではないということを。
ここの植物たちは、俺が管理しているから大人しいのであって、管理者がいなくなればどうなるか……。
「立ち入り禁止、結構なことだ。誰も手入れをしなくなったこの庭がどう牙を剥くか……高みの見物といこうぜ」
俺はポケットからスマホを取り出し、天気予報を確認した。
明日から気温が上がる。植物たちの活性化には絶好の条件だ。
「園芸部(俺)を追い出したことを、後悔させてやる」




