10. エピローグ〜収穫祭〜
騒動から季節がひと巡りし、秋が深まっていた。
園芸部(裏庭)は、以前のような静けさを取り戻していた。
あの「肥料事件」以来、淡路はすっかり大人しくなった。
クラスでの地位は維持しているようだが、俺とゆりねを見ると、パブロフの犬のように顔を引きつらせて目を逸らす。
俺たちに関わると社会的地位が危ないと学習したらしい。賢明な判断だ。
「……栗原くん、これ」
隣で土いじりをしていたゆりねが、芋を差し出してきた。
サツマイモだ。
こいつ、最近は俺の作業着(予備)を勝手に着て、手慣れた様子で収穫を手伝うようになった。
泥だらけの頬。爪の間に入った土。
教室にいる時の「聖女・白川ゆりね」とは別人の姿だ。
「いい形だ。焼き芋にするか」
「賛成。あ、私、落ち葉集めてくるね」
彼女は嬉しそうに走り出した。
……あいつ、本当に変わったな。
いや、変わったんじゃない。これが「皮を剥いた中身」なんだろう。
最初は泣き虫な百合根だと思っていたが、最近は意外と図太いというか、逞しくなってきた。
「栗原くーん! 火、点けてー!」
遠くから呼ぶ声。
俺は苦笑して、腰を上げた。
クラスの連中は噂している。「あの二人は付き合っているのか?」と。
馬鹿なことを。
俺たちはそんな甘ったるい関係じゃない。
俺は、彼女という「規格外の野菜」が、害虫に食われずにのびのび育つ場所を守る管理者。
そして彼女は、俺が作った野菜を一番美味そうに食う消費者。
それだけの関係だ。
ただまあ……。
焚き火の煙の向こうで笑う彼女の顔を見るのは、悪くない。
「……よし、食うか」
「うん!」
俺たちの聖域は、今日も平和だ。




