第8話 どうやって不法侵入してるんですか?
謎の訪問者の正体とは!?
……分かりやす過ぎましたよね(笑)
でも、不穏は残していくの……?
「おかえりなさい。買い物は楽しかったですか?」
「えーっと……取り敢えず、また、お刺身冷蔵庫にしまってからで良いですか? あと、トイレ」
見覚えのある靴の主の糸目の男は、人の家のリビングで「どうぞどうぞ」と私をもてなした。
おかしな構図なのは分かっているが、ツッコむだけ無駄だ。
素性の知れない男が傍に居る状態でトイレを済ませるのは多少抵抗があったが、我慢して目の前で血まみれになる方がよろしくない。
準備を整えてコタツを挟んで男と向かい合って座ると、彼は端末を触りながら話し始めた。
「すみませんね、体調が悪そうな時に。さて、レポートにあった事を順番に答えていきますね。まずは『明細表やレシート』……最初に説明すれば良かったですね。これ、普通に対象です」
「マジか!? 早く知りたかった!」
思わず声が大きくなり、さっきのお蕎麦屋さんでの事を話すと、男は笑って言った。
「そうですね、外食は家に帰ってからレシートを、の方が良いですね。あと、明細書なんかは個人情報の箇所を破って手元に残しておいてからの方が良いかと」
それはそうだ、と何度も頷いた。
「次は『ペイ●ィ分割払いについて』。ペ●ディに限らず分割払いは、そうですね、支払った分しか返ってきません。あ、もちろん、2回目3回目はコンビニのレシートでいけますが」
「あ、なるほど」
レポートを送った時はこのシステムを知らなかったから湧いた疑問だったが、今なら分かる。
なんとなーく、まだ見落としがある気がするが、それよりも今は早く家中の明細書をかき集めたい気持ちでいっぱいだ。
すると、男は緑色の封筒を差し出してきた。
「ん? 何これ……げ、家賃のやつじゃん」
「もうとっくに完済したと思っていたんですが、意外とのんびり屋さんなんですね。ここを追い出されないよう、気を付けて下さいね」
相変わらず笑っているようで表情の読めない顔で目を益々細め、男は帰って行った。
――まさかと思うけど……勝手に部屋に上がれて、この通知を直で持って来たって、家賃の保証会社の人間だったりしないよね……?
そう考えると辻褄が合う事も多い。
ゴミとはいえ、やっている事は家財を換金するという、差し押さえの図式とほぼ同じだから。
そんな風に考えてしまうと、この封筒の中身も、いつもの督促に加えてとんでもない額のアプリ使用量が上乗せされているんじゃ……と思ったが、普通に先月分の7万が追加されていただけだった。
まぁ書面を交わしてはいないものの、口頭でハッキリと「無料です」「手数料も一切頂きません」とは言っていたから、そこに嘘はなかったという事か。
あと、知らされていないNG行為をしていたオチも無さそうだ。
というか家賃の4か月滞納と7万の上乗せを「普通に」と思えてしまう辺り、いよいよ私のクズ化も加速してきたな。
さてさて、そんなクズ化を払しょくするためにも、もりもり稼がないと!
まずは買ったばかりのタイツのタグと、古いタイツをまとめて撮って4,620円。
そして次からは新機能を試す意味で、取り敢えず纏めておいた支払い関連の書類を突っ込んでおいた紙袋を引っ繰り返す。
最初に手に取ったのは、先月赤い封筒が来てやっと支払った住民税。
延滞金も含めて15,100円分の納付書を横半分に割き、ご依頼人欄から下だけをパシャリ。
こんにちは渋沢栄一&津田梅子、コタツの上は温かいかい?
次は……こうして見ると、オタ活の軌跡みたいだな。
3年前に見た推しジャンルの映画の半券、ライビュも含めた舞台のチケット……合わせて5枚出て来たから、記念に取っておく精神を犠牲にして37,130円を場に召喚。
どちらも思いきりジャンル名が書いてあったし職場でもオタバレしていたから、私に結び付きやすい物のひとつだとは思うが、だからってこれを私の仕業とは言えまい。
あとは同人イベントの参加チケット……これ、結局自己破産の手続きと被って行けなかったけど、キャンセルしても料金が戻って来なかったから、今、4,885円バックしまーす。
それから、推しモチーフのインナーブルゾンの配達伝票……これが大きかった、15,510円!
これで今日の利用履歴だけで……ほーら、78,625円!
家賃1か月分を越えたぞ、やれば出来る子じゃん!
なんてやっているうちに晩御飯の時間になったので、お高い刺し盛りに舌鼓を打って、パックの大盛りご飯と合わせて3,213円をキャッシュバック。
あと、最後に約2週間分のレシートを一気に撮ってみたが、有料レジ袋分の70円にしかならなくて笑っちゃった。
けどこれって毎日ちゃんとその日出たゴミを片付けられている証拠だよね。
レポートは何て書こうかな……『チュートリアルでティッシュの次にレシートもやった方が良いです』ってとこかな。
明日、この額を入金したらもう家賃保証会社もうるさく言って来ないでしょ。
……完済するまでは言って来るよね。
→つづく
次回、ついに家賃完済なるか?




