第3話 塵も積もれば札束となる?
「ゴミをお金に換える」怪しいアプリの、最初の実験台は……キッチン?
鶏むね肉をまな板に移し、ドリップがたっぷりのトレーと、くしゃくしゃにはがされたラップと値札を見つめる。
100グラム118円で300グラム……税込み389円と書かれている。
これって30%オフは適用されるんだろうか。
ドキドキしながらアプリ内のカメラでその生臭さが漂い始めたトレーを慎重に捉え、シャッターを押す。
するとトレーは目の前から消え、まな板のすぐ横にチャリンチャリンと268円が現れた。
やっぱり30%オフは適用されているみたい。
という感じで、ご飯を作りながらこの「ゴミ活」も進めていく。
この時期は鍋の季節なので、毎年「30%オフ鍋」……要は割引シールの貼られた食材を買って寄せ鍋にしている。
今日は鶏むね肉、長ネギ、エノキダケ、使い切りパックレタス、豆腐、そしてカニカマといった所だ。
長ネギも斜めにカットして、青い所と袋を一緒に撮ると112円になった。
次はエノキの石づきで59円、レタスのカスが残った袋で127円……90円、150円……と、流し台に軽快な金属音を鳴り響かせていく。
「ふ……ふふ……!」
合計806円を数え終わって、笑いが止まらなかった。
額としてはまだまだショボい。
だが塵も積もればというやつだ。
それに、デブの部屋のゴミ箱に、普段入っている筈が無いであろう肉のトレーやキノコの石づきがあるかと思うと……!
――今、絶対デブの部屋臭いわ。
普段から体臭キツいけど、更に臭くなって母親に怒られろ子供部屋おばさん!
なんて笑いながら、集合住宅で……いや一軒家だろうと本当はやってはいけないが、鍋を極弱火に掛けたまま私は先にお風呂に入った。
お風呂の中で、手に着いた小銭の独特の錆臭さを嗅ぎながら、また笑いがこみあげて来る。
――こんなすごいお金の稼ぎ方と嫌がらせが同時に出来るなんて、夢みたい。
でもこの臭いは夢じゃないし。
洗ったら夢から覚めちゃいそうで、ちょっと勿体ないなぁ……。
お風呂からあがると丁度、鍋が出来上がっていた。
スーパーの自社ブランドの缶チューハイを開け、雑多な味に舌鼓を打つ。
食べながら、ふと、調理中に手に入れた806円と、ティッシュによるチュートリアル時の250円を見て、思った。
――金額としては千円を超えているけど、小銭ばっかりだな……。
郵便局の窓口に行けば小銭でも100枚までなら手数料無料で家賃の払い込みが出来ると思ったけど、毎日大量に小銭を持ち込んだら怪しまれるよなぁ……。
もちろん、小銭だろうと少額だろうと普通は貰えない物が貰えるだけで御の字なので、文句こそ出ないが、それでもなるべく目立った事は控えたい。
巡り巡ってデブにバレる心配は薄いけど、それより恐ろしい敵……税務署に目を付けられたら厄介だから。
さて何か良い手はないかと、シメの雑炊にしたパックの玄米粥129円と、空になったチューハイを撮って140円をゲットしながら、辺りを見回した。
デブ、お酒は飲まないって言っていたから、この空き缶を見付けたら肉のトレー以上に驚くかも知れない。
なんて思いながら、部屋の隅に積まれていた、文字通り箱買いしたアクキーを発見した。
1個税抜き680円の12個入りで、友達にあげたりして今、手元には4つしか残っていない。
アクキーを包んでいた袋だけ枚重ねて広げ、アプリでスキャンするように構える。
2つで1,496円になる計算だから……これだってルール通りの筈だし……と、まとめて撮ると……。
「やった!」
手元にはちゃんと、千円札が1枚と、100円玉が4枚、50円玉と10円玉がそれぞれ……といった感じで、2つが合算された金額が目の前に現れた。
なるほど、こうやってなるべく一気に撮るのがコツって事か。
ついでに残りの2つ分のアクキーの袋もまとめて撮り、今日の所はこれで終わり。
――そういえばレポートを書けって言われてたな。
今日の所はまだ凄すぎて「凄いです」しか出ないけど……。
そうだ、一応、本リリースされた時の使い方アドバイス的に、
『ゴミはこまめに撮るより、ある程度まとめて撮った方がお札になりやすいって仕様は神だし、公式F&Qに載せた方が良いと思いました』
……なんか日本語変な気がするけど、多分言いたい事は伝わってる筈。
あとはプロがどうにかするでしょ……と、これ以上考えるのは放棄して、私はベッドに倒れ込んで眠りに就いた。
→つづく
この妄想をしながら掃除をするようになってから、驚くほど部屋が綺麗になりました(笑)
多分、自分からゴミを探しに行くからですねー。
次回、借金返済も大事だけど……?




