第参幕 変節
「何か事情があるみたいね?とりあえずこっちへいらっしゃい。」
大学生の雪子に案内されるままに、高校生の雪子は二階の自習室に入った。
奥の座席に座ると、大学生の雪子が小声で話し始める。
「この時間の自習室はほとんど誰も来ないのよ。とりあえずアナタも座って…は無理かしらね?」
別の時間軸とはいえ、さすが未来の私だ。察しがいい。
そんなことを思いながら、高校生の雪子が話を切り出す。
「実はもともと持っていたタイムリープ能力を、装置の力を使って増幅して、別の並行宇宙の調査を始めたのです。」
「ああ、じゃあアナタは、時間軸上の斜め後ろの私ってことね?」
「理解が早くて助かります。」
相手が自分の同位体とはいえ、年上だからつい敬語になってしまう。
「まずは、ここがいつのどこで、貴女は何歳か、などを教えていただけますか?」
「お安い御用よ。」
ああ、素敵だ。話が早い。
「私は真田雪子。大学2年生。誕生日がまだだから19歳だけど。」
「それからここは愛知教育大学の図書館。」
「今は証和59年5月8日の火曜日。西暦の方が良ければ1984年ね。」
「時刻は朝10時を回ったところかしら。」
大学生の彼女が小声で一気に説明した。
高校生の雪子は少なからず驚いた。
「えっ、東大とか京大とか、せめて名古屋大学とかじゃないんですか?」
「まあ、そういうリアクションになるわよね?」
クスクス笑う大学生。
高校生の雪子は「ハトが豆鉄砲を食らった」ような表情をしていたに違いない。
「私は…いえ貴女も、物理学を極めるはずなのに…いったいどういう…?」
尋ねる高校生に答える大学生。
「実は私ね、ちょっと疲れてしまったの。」
「えっ。」
「私は自分の能力の許す限り、色々な過去や未来に行ってみたのよ。」
「でも、結局変えられないものがあるってことに、気づいてしまったのよ。」
「イチ個人のチカラには限界があるの。」
「そう…なんですか。」
「だからね。私はまず、人間について研究することにしたのよ。」
「それで教育大学に?」
「そう。ここで心理学や教育学などを学んで、卒業したら中学校の教壇に立つつもりよ。」
「…中学校の教師。」
「それは、思春期を迎えた人間が最も激しく変化をする時期。興味深いでしょ?」
雪子は、4年後の自分が「そうなる可能性もありうることだ」と思った。




