第弐幕 図書館
ゆっくりとまぶたを開くと、そこはどうやら昼間の図書館のようだった。
雪子の予想では、いきなりその場の自分の同位体に憑依してしまうのか、まずは精神体としてその場に漂うのか、そのどちらかであった。
恐る恐る自分の身体に視線を落として見る。
見慣れたセーラー服から伸びる手足がそこにあった。
この姿は、スタート時に実験室に居た時のままだ。
雪子は「戦闘服」として、自分の高校の制服を選んでいた。
その理由は、第一に精神体として自分がイメージしやすいモノであるから。
第二に、このセーラー服のデザインはスタンダードな物だから、多分いつどこに現れても、その場に馴染む汎用性があると思ったからである。
「冠婚葬祭もなんとかなるしね。」なんて思っていたのだ。
精神体として漂う場合は、注意が必要である。
相手から雪子が視認できるし、お互いの会話も成立する。
しかし、その場の物に触れられないし、相手も雪子に触れない。
そして、精神の集中力を維持しておかないと、姿が薄く透けてしまうのだ。
雪子は、試しにさりげなく近くの本棚に手を近づけてみる。
やはり手ごたえは無く、自分の手が空を切る。
つまり今は、「幽霊」状態なのである。
「急いで自分の同位体を探さなくっちゃ。」
雪子はつい小声で独り言を言ってしまう。
雪子の同位体はすぐに見つかった。
予想では近くに居るはずだったので、これは計算どおりである。
「彼女」は机に向かって洋書を開き、熱心に調べ物をしているようだった。
髪型はセミロングの無造作ヘア。
ブルーのワンピースに、薄手の白いカーディガンを羽織っている。
この時空の季節は春だろうか?
室内だからイマイチはっきりしなかった。
雪子は彼女にゆっくりと近づき、なるべく小さな声で話しかけた。
「こんにちは。」
彼女は、その声に反応して視線を上げた。
「はい。どなたかしら。あら、どうしてこんなところにいるの?」
意外な返答だった。
そう言われて何となく周りを見渡すと、あたりに居るのはみんな若者だったが、誰一人制服を着ている者は居なかった。
雪子は即座に事態を理解した。
ここは恐らくどこかの「大学の図書館内」だ。
セーラー服の自分は悪目立ちしている。
万能のはずの「戦闘服」が裏目に出てしまった。
雪子は心の中で小さく舌打ちした。




