第壱幕 実験開始
いよいよ新章開始です。
真田雪子の並行宇宙への挑戦を、どうか見守ってください。
物語はループしているので、どこから読んでも楽しめますが、「セーラー服と雪女」のⅠ~Ⅴの順番に読むのがお勧めです。
その研究所兼監察局は、名古屋市守山区の志段味地域にあった。
ちょうど森林公園の裏手に当たる立地は、色々と秘密を持った真田雪子にとって、実に好都合なロケーションだった。
建物の構造は、地上3階、地下2階。
双子ビルのような形状で、2階部分が渡り廊下でつながれていた。
所長も局長も雪子が兼任しているとはいえ、その役割をはっきりと区別するべく、こんな設計の建物になったのであった。
周りを囲む塀の形状や門構えは、できるだけ普通の住居然とした物とし、表札もただ「真田」とだけ出しておいた。
ここでの研究結果を、一般に公開する気はさらさら無いので、中身が何なのかは「知る人ぞ知る」で結構なのである。
因みに、この研究所完成と同時期に、家族とともに暮らす所謂「実家」の建物も、喜多山町に出来上がっていた。
こちらは父の真田英二のこだわりを採用して、重量鉄骨二階建ての、屋根裏部屋付き一戸建てとなった。
リビング・ダイニングと父母の部屋は一階に、二階には二人の妹である香子と由理子、屋根裏部分には雪子が暮らすこととなった。
そして高校1年生の春休みに原付免許を取得した雪子は、スクーターで実家から研究所へ通うようになったのだった。
そんな照和56年3月某日。
16才の雪子は、初めての並行宇宙への挑戦を開始することとなった。
スタート場所は研究所の地下2階の一室。
雪子は、リクライニングしたゴツいマッサージチェアのようなものに体を納め、頭には細かい装置が付いたヘッドギヤを装着した。
このヘッドギヤは、脳神経への刺激を与えることと、脳波の変化を記録することを兼ねている優れものである。
手元のリモコンスイッチを押すと、ヘッドギヤ内に微弱な電流が流れる。
雪子の理論が正しければ、これで元々持って生まれたタイムリープ能力に変化が加わり、別の時空の時間軸に意識を飛ばせるはずだった。
雪子は静かに目を閉じて念じる。
「この時間軸ではない、少し斜め前の未来へ。」
雪子の精神体は、今まさに肉体を離れて、旅立って行ったのだった。