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少女の目覚め

(一体どこなの、ここは……)


 白髪の少女・シオンは自身の置かれている奇妙で不可思議な状況に対し、戸惑い考え込んだ。

 

 未知の機械と怪しげな薬品。それに大量の書類が無数に置かれた、汚れの無い白い無機質な部屋。言葉で例えるとしたら、怪しげな研究室かあるいは実験室である。

 その上、そこには今自身が座っているのと同じ、蓋の付いた透明な機械が無数にある。どれも均等に、かついくつも並べられている。その上、蓋の閉まった機械の中にはちらほら他の人の影も見える。

 シオンは、すぐに自分自身が「ここに連れてこられた」のだと理解した。

 別に彼女の勘が鋭いとか、霊からのお告げだとか、そのようなことではない。ただ今の彼女自身が置かれた状況から推測したに過ぎなかった。

 ――何故なら、彼女が「先程までいた」部屋とはあまりにもかけ離れていたからだった。

 

 シオンのすぐ側には一人の人物が無言で立っている。自身との位置の関係で見下ろされる形になっている。だが、今そのことはどうだっていい。

 それに、微かに見えたモニターの画面にはシオン自身の写真と思わしきものが写っている。そちらの方が、今の彼女にとってはよっぽど不可解だった。

 

(この人は誰?一体、何が目的なんだ?)

 

 少女の頭の中では数々の疑問と、それと同じくらいの興味がぐるぐると渦巻いていた。




 そのきっかけは現在から少し前の事であった。

 

 白い無機質な部屋に規則正しく置かれた、いくつもの機械。人が一人入れるくらいの大きさで、シンプルな棺桶のようなデザインと上部に取り付けられた2色のライトが特徴的であった。

 その内の一つ、一番手前の機械の中では、白髪の小柄な少女が目を瞑り横たわっていた。精巧に作られた人形のような顔立ちの少女・シオンは、寝息一つ立てることなく深い眠りについていた。

 

 部屋にはもう一人いた。その人物はブカブカながらシミ一つ無い白衣を着ており、小柄な体躯と一対のお団子ヘアの黒髪が特徴的であった。その人物は最初こそ無数のモニターの前にいて作業をしていたが、突如思い立ったように機械の方へと足を向けた。そして、シオンが眠る機械の蓋にそっと手を置くと、ニヤリと笑みを浮かべた。その笑みは妖怪か、あるいは悪魔のような不気味なものであった。

 

「そろそろじゃろうな。……しかし、こやつを見つけるとは、アイツも中々やりおるのう。さて、そろそろ目覚めの時のようじゃな」

 

 その声に呼応するように、機械に備え付けられたライトは赤から緑に変わり、機械の上部の蓋部分が大きく開いた。お団子ヘアの人物は「いよいよか!」と言わんばかりにカッと目を開き、口元を緩めていた。次いですんと表情を変えると、今度はこほんと一つ咳払いをした。そして、打って変わって堂々とした態度で、目の前で眠りについているシオンに告げた。

 

「白き髪の者、シオンよ。我の元に今、目覚めよ」


 しかし、機械の中で眠るシオンは何も反応を示さない。お団子ヘアの人物はしばらく悩むような動作をとった後、再びこほんと咳払いをした。そして仁王立ちになり、両腕を胸の前の方で組んだ。


「もう一度言うぞ。起きろ、シオン」

「……?」

 

 ようやくその声に応じるように、シオンはゆっくりと目を開いた。アクアマリンのような澄んだ水色の瞳で、彼女は何度か辺りをチラチラと見た。その後、彼女はゆっくりと上半身を起こし、そして首を傾げた。

 




 以上が、先程までに起こった出来事である。

 

 しばらくの間沈黙が続いた。シオンはただ、じっとお団子ヘアの人物の方を見つめた。彼女の表情には恐怖とか畏怖とか、そういった類のものは無かった。あったのはただニ点、興味と疑問であった。そして、突如思いきったかのように、シオンは口を開いた。しかし、その話し方は聞き取りづらい、ぼそぼそとしたものであった。


「キミは誰?ここはどこ?それに、ボクは……、一体……」


 シオンは目の前の人物に問いかけた。彼女の瞳は、ただ目の前の人物をまっすぐ見つめていた。

 

「我はここの王だ。それに、ここはお主がいた世界とは異なる世界、といった所だろうかのう。それに関しては後ほど話す。お主に関する事もな」


 それだけ語ると、お団子ヘアの人物――「王」はくるりと向きを変え、シオンから視線を逸らした。当然、シオンの方からその表情を伺い知ることは不可能であった。

 

(王?異なる世界?一体どういうことなんだ……?)

 

 シオンは右手を口元に持ってくると、そのまま難しいことを考えるような顔をして黙り込んだ。その頭の中ではいくつもの思考が飛び交っていたが、「王」がそれを知ることは無かった。そして、しばらくの間その場には静寂が流れていた。


 そんな中で、シオンの脳裏には彼女自身が「先ほどまでいた」部屋の光景が浮かんでいた。

 8畳1Kの普通のアパート。部屋にあったのは最低限の家具と生活用品、机の上に置いてたお気に入りの本。それから、最近栽培に挑戦したスノードロップの鉢植え。

 シオンは、まだ花を咲かせていなかったスノードロップがどうも気がかりであった。


 


 シオンは、すぐに元いた所に帰れるだろう、と根拠もなく楽観的に考えた。しかし、何が起こるか分からないのが人生というもの。

 この後の展開も、これからの人生の流れも、一介の少女・シオンは知る由もなかった。

 しかし、それらのことは彼女にとっては興味と好奇心をそそる物になり得るのであった。

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