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ソフィア 後編

題材楽曲:ティアクライス ~希望のトビラ~(幻想水滸伝ティアクライス ED)/高杉さと美


お部屋が始まる「ガチ」1時間前の出来事です。

ソフィアだけは焦ってめちゃくちゃ庇ってた理由の全て


〜プロローグ〜



Humpty Dumpty had a great fall.

All the king's horses and all the king's men

Couldn't put Humpty together again.


一度割れた卵も同じで、割れてしまった物はもう


—————2度と元には戻れない




〜定期会議当日〜1時間前〜



ジェシカは山羊座神殿で1人で静かにお茶を飲んでいた

茶菓子はない。もう片付けてしまったからだ


でもお茶だけは飲みたくてこうして静かに飲んでいた


「あっ」


ガシャーン!!!


うわ、マジですか


「ああ、やってしまいました……」


頭を抱える


ああ、本当に最悪です。よりによっていつも使っていた1番お気に入りのティーカップを落としてしまった


片付けようとしてふと見たティーカップは綺麗に真っ二つに割れていた。


ジェシカが破片を触るとあっけなく砂のように粉々になってしまった


ああ、最悪です。泣きたいです。


仕方なく新しいティーカップを持ってきて、またお茶を飲み始める



しばらくしてふと人の気配を感じた


どなた…?


「あら、ソフィア先生」


やってきたのは蟹座の星見ソフィアだった


1人でお茶を飲んでいたジェシカにとってはまさかの嬉しい訪問者だ。


椅子に座るように促し、お茶を用意する



「敬語とため口逆やった…まぁ、ジェシカさんに対しては普段敬語って事にしたら大丈夫ですかね…これは…」


座るなりソフィアは頭を抱えていた。10年ごとに別人として切り替えて生きているソフィアならではの苦労とも言えよう。ボロが出ないように物凄く頑張っている、と思う


うふふ、嬉しいわ、またソフィア先生に会えるなんて!内心ジェシカはるんるん気分でいた。だって純粋に自分を訪ねてきたのが嬉しかったのだ


「ため口と敬語のバランスどうしようかって考えています」


つまり相談しにきてくれたのですね。

ジェシカは考え込んで


「バランス、ですか。ソフィアの年齢や性格を考えたら半々が丁度良い気もしますが」

「普段はため口にして、314歳の部分を出す時だけ敬語だけど口調強めで行きますかね… 12歳らしくあどけなさを出すイメージで行きます。」


そうですね。それが良いかと

貴方の秘密をバレないようにするには上手くやらないと。

あ、とジェシカは言う


「うっかり先輩呼びしましたらどうしよう」

「その時は踊りの先輩ってことで!」


そう、そうだ。私達は表向きは踊りの「師弟関係」

うっかりしてました。

まあ、ジェシカの踊りは上達はしませんでしたが。



「あ、ソフィア先生の秘密は死ぬまで明かしません、貴方がそれを望まないでしょうし」

「そうですね」

「厳かなのはあまり好きじゃないからさっさと終わらせようよ~。早く進めてくれないかな、ニックさん。こんな感じですかね…?」


まあその方が年相応の少女らしい、と思う


「そうですね12歳のフリをするならそれくらいが良いかもです」


あれ?


「昨夜書類仕事一日中コースをニックにさせたんですが?チッ思ったよりもピンピンしてるのかしら」


私はゲッソリするニックが見たかったんですが。


「それってどんな感じの資料でしたの?」


お茶を啜りながらソフィアが訊ねる


「ああ、ニックが日頃サボってて溜まってる仕事をね。ゲッソリするニックみたかったのにチッ」

「そういえば…昨日、踊りの休憩時間に私の所に来て、これをやってほしいってなんか渡されてたわね…」


ん?先生、今なんと言った?

え?


「は〜?仕事を押し付けていたのですか?」


ジェシカの顔がみるみる険しくなる

ソフィアは続けて


「確か、ニックから書類を20枚ほど。まぁ、苦でもなかったからさっさと終わらせて本人に渡したんだけどね」


はァ?なんだって?


「はァ?何人に押し付けてんじゃニック、あ?」


普段の穏やかなジェシカからは信じられないくらい口調が豹変し始める

当然、他の星見にもこのような口調は見せた事はない

このように目の前で激情を露わにしたのは後にも先にもソフィアだけだろう


「10分で終わらせたけど、あまり見慣れない書類だったわね。少なくとも、星見関係の書類ではなかったから問題はないと思うけどね。同期ですので、押し付けられるのは慣れてますよ。」



はぁぁぁぁあ?仕事をしないなんて言語道断ですが

誰かに仕事押し付けるなんて


最早論外です


ジェシカは発狂する


「あーあのバカはぁぁぁあ娯楽2週間禁止って脅したら泣いて止められたから譲歩して書類1日中コースにしてやったのに!はぁぁぁぁあ?」


怒りのあまり荒れてるジェシカにソフィアは冷静に訊ねる


「ちなみに、書類何枚分送りつけたのでしょうか。」

「え?一日中なので200枚くらい?やっぱり娯楽2週間禁止にすりゃ良かったですねぇ?」


ジェシカは昨日ニックに書類仕事1日中コースを課したのは物凄く後悔する


「なら10分の1か…問題ないわこれくらい。」


ソフィアはなんて事ないように言うが、ジェシカは怒り心頭だった


「あーマジ絶対許しません。後ほど定期会議の場で他の星見の皆の前で吊し上げてやりましょうか」


これは本気でそうしようと思ってました。 ジェシカの顔色を見たソフィアはやっちまったかなと言った顔だ


「これは不味い事言っちゃったかしらね…。まぁ、いつもの事を話しただけだから問題ないか。」


は?いつもの事?

はい、もう絶対許しません


「公開処刑にします、許しません。クリスさんも差し入れがてら話をしたらサボろうとしやがりましたからね」

「あらま」

「あ、もちろん依頼の報酬で吊るしましたので問題ありません」


が、この後連絡事項で100万減らすと本人に報告する予定ですけどね☆


「まぁ、ニックさんには投資増やして貰うって条件で手を打ちましょうかね。」


ジェシカはすかさず


「ダメです。罰は与えます。」

「まぁ恐ろしい事」


当然です、例え幼馴染だろうが友人関係だろうが、秩序のために私は容赦なく罰は与えます。


そもそも普段から真面目にやってくれたら罰を与えたりしません。


「あ、クリスさんの依頼で報酬は1000万+ボーナス200万の予定でしたが、サボろうとした罰でボーナス100万報酬を減らします」

「あーらま」


ソフィアはうわーと言う顔をする


「あ、まだクリス本人には言いません。22時に言います。今言ったらサボる可能性高いんで。」


逃げる隙なんて与えません。


「書類サボりまくってたんだ…」

「ニックにも罰を与えたのにクリスには与えない、なんて不公平ですのでニックには罰追加で2週間娯楽禁止。クリスはサボろうとした事には変わりないんで、罰として報酬を減らします。彼には1番この罰が効くので。あえてそうします」


ふん、とジェシカが答える

私は最年長ですし強かにやります。これでも伊達に星見歴15年やってるわけじゃないのよ


ふいにソフィアが


「あ、待って」

「なんでしょう」

「その書類、調べてみたら貴方がニックにやらせようとした書類じゃなかったかも」


はい?


「え?ソフィア先生?まさか同期だからといってニックを庇ってるんじゃないでしょうね?じゃないと貴方にも罰を与えなきゃいけなくなるんですが」


サボりを黙認するのならば共犯です。仲良く罰を受けてもらわなくてはなりません。言わば連帯責任、です


怒れるジェシカの前にソフィアの方は冷静に資料を渡す。

「見てみます?こちらなのですが」


ジェシカは怪訝そうに資料に目を通す


「……… へー…」

「つまり、ニックさんが他の人に書類依頼をしてなければ… ニックさんは1人でやった事になりますね!」

「ふーんそうですかぁー。他の星見の前で恥をかかせて面子を潰そうかしらと考えていましたが。」



確かにニックが1人でやった事になりますね。

ソフィア先生のおかげで首がつながりましたねぇ?良かったですね、ニック?


ふと神殿の時計を見る

話し込んでいたら定期会議が始まるまであと1時間もなかった。


「ああ、もうじきお茶会が終わりますね」


ジェシカはとても寂しそうに言う。


「そうですね」


ソフィアも神妙な面持ちで答える。


「寂しいわね もう、お茶会はお開き。片付けなくては」


はーと溜息を吐く


「なるべく早く集まりが終わってほしいものですけどね…」


ソフィアが憂鬱そうに言った。


「あら、定期会議は苦手ですか?エマも嫌がってましたが。貴方も苦手なのかしら。私はみんなの顔をいっぺんに見られるから好きなんですが」



これは本当だ。みんなは普段神殿にいてそれぞれの職務をこなしたり、個々で活動しているからそんなに頻繁に顔を見るわけではない


でも時折神官長によって集められるからお互いの顔は把握してるのだ。



「厳かな空気は何年経っても好きになれないんですよ。最も、私も少し体に精神が引っ張られている部分があるのかもしれませんね」

「ああ、つまりめんどくさいと」

「そうなりますね」

「まあ仕事はめんどくさいですよ?そりゃ」


まあ業務自体は確かにめんどくさいです。

私もそうなので。


「私は楽しい事が好きなので、仕事が好きってわけではありません。あくまで仕事、義務だと思っています。」

「あらま」



意外だっただろうか?でも本当の事なのだ

私は業務自体別に好きなわけではない

ただ責任を持ってやらなきゃいけない、といった義務感だけだ



「義務の中に楽しいことを見いだしたい人なのでしょうか、貴方は。」

「あら、気付きました?楽しい事が1番ですよ。楽しさを見出さないとやってられませんよ。例えばニックを働かせてゲッソリする姿を見るとか。クリスの露骨に嫌そうな顔をしてるのを見るとか。優しいローラやマリアンヌ、可愛いアンナやロディに癒されたりとか」

「それはつまり、愉悦ですか?愉悦、癒し、どれもこれも感情ですね」

「それがないと精神を磨耗していたかもしれませんよ」


私も貴方みたいに不老長寿でしょうし。


「確かにですね」

「まあ、差し入れがてら昨日話したマイクさんには加虐嗜好か言われましたが。んもう、ひどいですねぇ

これじゃ私がまるで楽しくいじめてるみたいじゃないですか」

「実際の所は?」



「え。いえ、そんなあくまで業務を円滑にするために心を鬼にしているだけです…!」

「禁忌に強引に触れた貴方ですから、わりとそれはあってるのではないのでしょうか?」


うっ…。


「本当です!!私は特に不真面目なお二方を監督する必要があるのです…!だから涙を飲んで厳しくしています…!決して楽しんでいるわけではありませんから!」

「まぁ、そういうことにしときますかね」


ソフィアはやれやれと言った顔だ


「ちょっとぉぉ〜!?先生!本当ですよ!!」

「本当なのは分かりましたよ。」

「良かった!」



そうだ、ソフィアはエマと親しいと聞く。

業務上の会話には応じてくれるが、エマ個人はあまり私とは話したがらない。

私はともかく、エマもソフィアも他の星見と比較すると周囲や同僚とは深く繋がりを持たないタイプだ。

そんな2人がなぜ仲良く出来ているのかすごく気になっていた



「そも疑問なんですが、エマはどうにも私が苦手なようですが、なぜかしら?彼女に嫌われるような事をした覚えはないのですが」


ソフィアは考え込んで


「うーん、難しいですねそこら辺は。私は基本あまり人と関わらないようにしてますからね。何せ、10年ごとに別人に切り替えるのは難しいのですから」



んー心当たりというか、エマが私と話したがらない理由はどうやらソフィアにもわからないようですね

いや、わかっていても多分きっと言わないだろう


だって、貴方は他人の秘密をバラすタイプではないから。最初からこの質問は聞くだけ無意味でしたね。



「うふふ、お茶会をしてみんなが帰った後は、本当に寂しいものですね…がらーんとしてて」


ジェシカはそう静かに呟いた後、何かを決意したように改めてソフィアを真っ直ぐ見る


「ああ、ソフィアせん…いえ、ソフィア『さん』。

もうお茶会はお終いです。身支度を整えて定期会議の準備をしてください」


ソフィアもその言葉を聞いて真っ直ぐこちらを見つめ返してくれた。

ジェシカはニコッと笑って


「会議前にまた貴方と話せて嬉しかった、これだけは嘘偽りのない気持ちです。ロディとアンナは兄弟、ローラは甘えられる相手でしたが」


他の星見が見てきた「星見のジェシカ」ではなくただの「ジェシカ」として、心を許せてこんなになんでも気楽に話せた相手は———-………


私にとっては目の前にいる貴方だけでしたよ。

これは本心です。


ジェシカは寂しそうに笑って


「貴方だけは一緒にいて落ち着く相手でした。多分この「感情」に名前を付けるとしたら「親友」ってやつでしょうねきっと。」



貴方の重大な秘密を知って、お互いに思ってる事や誰にも言わないであろう心の内を話したりして楽しい時間を過ごした時から


貴方と私は既に「親友」だったのかもしれない


ああ、だからこそ


名残惜しい、と。


今更気付くなんて。もっと早くこの素敵な感情に気付けば良かった


「『貴方様』とこうやって話す時間が過ぎていくのは、幸福でとても名残惜しいです。」


ソフィアも穏やかに笑って


「お茶会お疲れ様です先輩。皆様の事を見守っていて、どこか子供っぽい所が私に似ていて一緒にいるのが楽しかったです。親友ですか…悪くないですね。」


普段明るい少女を演じているソフィアだが、この時は貴方も本当に寂しそうに見えた


「楽しい日々ほど時が経つのは早い物…でも、名残惜しいですね…」


神殿内の時間を見るともう21:45になっていた


定期会議が始まるまであと15分しかない

名残惜しいが、ソフィアを返さなくては。彼女の準備が遅れてしまいますから。


「うふふ、では、また後で会いましょうソフィア『さん』。皆さんもそろそろ準備しているでしょうから」


ソフィアは椅子から立ち上がり「年長者」のジェシカに頭を下げる


「そうですね、では、またお会いしましょう、ジェシカ「先輩」。」


ソフィアは静かに山羊座神殿を立ち去って行く。


帰って行くソフィアの背中を見守りながら、それにしてもさっきのソフィアはどこか子供っぽい所が私に似ていて一緒にいるのが「楽しかった」と言っていたが。


なんかその言葉が。



————なんだか、まるで。



—————————-お別れの言葉みたいですね



ふとそう思ったが、もう時間がない年長者たる自分が定期会議に遅れてはいけない


周りの星見にも示しが付かない。


ただ神官長から指定された場所が「旧神殿」で、このガーネットの鍵を持ってこい、と言う。


意味がわからない。でも仕事だから準備して行かないと。


そうしてジェシカは手紙通りに1人で旧神殿へと歩いて行ったのだった





————それが親友として『絆』を深めた貴方と私の終わりへの、カウントダウンとも知る由もなく。




天球の叛逆者_tragedy ~前日譚~


END


その後の運命を思えば中々辛いものでした。けどこんなに素敵な関係性を築けて幸せでした。

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