目覚め
目を覚ました瞬間、僕は自分がどこにいるのか分からなかった。天井は見たこともない木材でできていて、窓から差し込む光はやけに柔らかい。身体を起こそうとすると、ベッドの軋む音が静かな部屋に響いた。
「……ここは?」
思わず呟いた声も、どこか自分のものではないように感じる。記憶を辿る。たしか、昨日まで僕は普通の大学生だったはずだ。夜遅くまでレポートを書いて、眠気に負けてベッドに倒れ込んだ――それが最後の記憶。
だが、目の前の光景はあまりにも現実離れしている。壁には見慣れぬ紋章が描かれ、窓の外には広大な森が広がっている。まるでファンタジー小説の世界だ。
混乱する頭を抱えながら、ふと自分の手を見る。そこには、見慣れたはずの自分の手ではなく、どこか華奢で小さな手があった。
「……え?」
慌てて鏡を探し、部屋の隅に置かれた姿見の前に立つ。そこに映っていたのは、見知らぬ少年の姿だった。黒髪に青い瞳、どこか幼さの残る顔立ち。だが、確かに僕の意識はここにある。
――もしかして、これが噂の異世界転生?
混乱しながらも、どこかワクワクする自分がいる。現実では味わえない冒険が、これから始まるのかもしれない。そう思った瞬間、ドアがノックされた。
「お目覚めですか、リオ様?」
優しい声とともに、メイド服姿の少女が入ってくる。その姿に、僕の新しい人生が本当に始まったのだと実感した。
これは、僕――いや、リオとして始まる新しい物語の第一歩だった。