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卵の道。

作者: 雪野鈴竜

可能性はいくらでもある。

「これはプリンです。」

 そう女性が言い、指をさしたのは小皿の上に入ったただの生卵だ。何の変哲もない、丸い殻の中に入っているであろう生卵、あのぷるんとした黄色と茶色の甘いスイーツではない。

 目の前の男性がそれを見て首を傾げていると、女性も同じく首を傾げる。「どうしましたか?」と女性に聞かれれば男性は「いいや、これは生卵です。」と答えるのだ。しかし女性は不思議そうにまた首を傾げた。

 男性は「何故、これがプリンなのですか?」聞いてみることにした。

「これは今から調理をすれば確実にプリンなんですよ」

「でも、今この時点ではプリンではありません。」

「でも、調理をすればプリンになります。」

 女性の考えでは今この時点では生卵だが、調理をすれば確かにプリンになるかもしれない。

 けれど考えてみよう。女性の考えではこの生卵がプリンじゃないかもしれない。もしかすると気分が変わってフワッとしたオムレツになるかもしれないし、ガッツリお腹を満たしたいのなら、ケチャップライスを付け足してオムライスになるかもしれない。

 なら、これはもしかしたらプリンではなくオムライス、またはオムレツか、人の気分次第で、この生卵がそのどちらかになるかもしれないのだ。いや、そのどちらかとも限らない。チャーハンにもなるかもしれないし、食パンがあればフレンチトーストという手もある。何もプリンだけだとは限らない。

「じゃあ、生卵じゃないと僕も考えます。」

 男性も考えを変えた。これは生卵ではなく、別の物なのだと。

「これは生卵ではありません。勿論、プリンでもありません。」

「では、これはいったいなんですか?」

 女性の問いに男性は確信を持って答える。

「これは目玉焼きです。」

「何故そう言い切れますか?」

「簡単なことです。この部屋には“砂糖も牛乳も無い”のです。砂糖も牛乳も無ければ甘くて美味しいあのスイーツは出来上がらない。それどころか、この部屋にはフライパンしかなかった。それで作れるとしたらたった一つ、目玉焼きなのです。」

 しかしその生卵は目玉焼きにはならなかった。その生卵を男性は割ろうとテーブルに叩くと、二人は「あ、」と声を漏らした。

 そもそもその生卵は既に調理をされていたので、生卵ではなくなっていた。

 ゆで卵だったのだ。

だいぶ前に書いた短編の一つです。

お楽しみ頂けたら幸いです。

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