閑話その三
2031年 11月12日
「全く、共産党の連中が仕事を増やしてくれたなぁ」
「まだ決まったわけじゃない。あまり大きな声で言うことではないと思うぞ」
修復の進む建物の警備をする軍の兵士が雑談をしていた。
「でももう決まったようなものじゃねえか。おれ聞いたぞ、最初に発砲した奴が共産党員なのは判明してるって」
「まあそうだが、我々軍には共産党のシンパが多いだろう?だから黙っておくに越したことはないぞ」
「そういうやつらは昔から革命のための闘争ってのをしてきてたから即戦力になったんだよな。でもこれからどうるんだろうな、軍にいる共産党系の連中は。全員辞めさせたら結構な人手不足になりそうじゃねーか?」
「だな。だから最近はリヒテンシュテインやシュヴェイツから人材を派遣してもらっているんだ」
「え?シュヴェイツはともかく、リヒテンシュテインに軍人はいねーだろ?」
「ああ。リヒテンシュテインからは国家警察の人間が数十人派遣されるらしい」
「へー。しっかし、そいつらも大変だよなー、隣国ではあるけどここヴィーンまでは結構遠いだろ?ここはエスターレイヒの東のほうで、リヒテンシュテインとシュヴェイツは西にあるんだから」
「まあな。ただそいつらに支払われる給料はリヒテンシュテインの収入にもなるからな。つまり派遣を受け入れることはエスターレイヒからリヒテンシュテインへの援助でもあるわけだ。あそこも戦勝国からの経済制裁を受けているから、稼げる金は稼ぎたいんだろう」
「あんな小さな国に?容赦ねーなー列強ってのは」
「われらの国も昔はそうだったのだがな」
「なんで戦争なんかしちまったのかねーあの『皇帝』サマはよぉ」
「おいおい、王党派に聞いたら殺されるぞ?」
「そんな頭おかしい奴のことまで気にしてたら生きづらくてしょうがねーよ」
「はっはっはっ、まったくその通りだな」