第七話 凱旋
巨大兵器の破壊と同時期に、エスターレイヒ軍の反撃が全面的に成功し、ウンガルン軍は元の国境まで押し戻されていった。数多くのウンガルンの兵士が混乱の中で戦死し、あるいは捕虜となり、残った人間も撤退していった。ひとまずエスターレイヒに対する脅威は去ったのだ。
ノーラはカルリーノとともに再び地下駐車場へと戻っていった。
トラックから降りるや否や、ノーラは普段以上で高いテンションで、アグネスに話しかけた。
「あの、どうでしたか!!」
すると予想外なことに、アグネスは言葉を発生する前にハグをしてきた。と言っても鎖骨から上のみを接触させる儀礼的なものだったが、美女の抱擁など経験したことのないノーラには一瞬何が何だか分からなくなった。
「えっ、あ、あの——」
「素晴らしいです。ほんとに、予想以上でした」
アグネスは心から安堵し、目には涙すら浮かべていた。ノーラの思考は依然としてうまく回っていなかったが、とりあえず喜んでよさそうだとは思った。
「そ、そうですか?そんなに?」
「はい。だって、戦果もそうですけれど、すごく目立つ動きだったでしょう?これであなたの強さを皆さんに印象付けることに成功したと思います。芝居がかった演出は好きではありませんけど、提案者としては、安心したというのが正直なところです」
アグネスは胸をなでおろしていた。その笑顔はなんだか一段とあたたかな光をまとっているように、ノーラには見えた。今まで目にした中で一番心からの笑顔だったのだろう。
「......ところで、話は変わるんですが、聞いていただきたいことがあるんです」
「いただただだ?」
『いただきたい』を繰り返したつもりが、さっきのハグのときからぼんやりしている思考を反映するように舌が空回りしてしまった。
「はい。いただきたいのです」
慈悲に溢れたつくり笑顔を向けられ、ノーラは赤面する。
「今日は本来、ノーラさんの住居についての確認があるとお伝えしていましたが......」
「あー。そうでしたね。確か宿舎に住むんですよね、議員の人たちと同じ」
「その予定だったのですが......」
アグネスは目を不安げに伏せてつづけた。
「実は、以前の内乱と、今回の侵攻に呼応したテロリストの工作で、議員宿舎もダメージを受けてしまい、空きがなくなってしまい......」
「えっ、じゃあしばらくはまだカールさんの別荘に?」
「もちろん、それでも一向にかまわないのですが......」
アグネスは、何やらばつが悪そうに沈黙してしまった。
「あの、何かあるんですか?」
「......今からお話しするのは、あなたの話を聞いたヨーセフさんの発案です。あなたが本当にそれほどの力を持つ存在なら、私の近くにおいて目をつけておくのはどうか、と」
「えっ、わたし信用されてないんですか?」
「強い力というのは、どうしても丁寧に扱わなければならないんです。もちろん私個人としては、あなたみたいな人が私たちに不利益をおよぼすなんて思っていませんよ。ともかく、そのヨーセフさんの提案で......その......驚かないで聞いてほしいんですけど」
「はい、何ですか?」
アグネスは一呼吸置き、目を泳がせながら答えた。
「あなたを、私の家に住まわせてはどうか、と」
「えええええっ!?」
一瞬というには長すぎる間をおいて、ノーラは叫び声をあげた。
これにて第一章が終了です 次回は1人称視点になったりします
今後ともごひいきに




