七 其の廿弐
柿村は腕を組んでうーんと唸った。
「その、千夏っていう女子が、土生知輔明貞なんだな」
「ええ」
「そして、首斬り」
「おそらく」
「……なあ、蘇芳どの」
「はい」
「おれァ剣のことは疎くて全然わからんのだがね……」
柿村はがりがりと頭を掻いて、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「いくら才能があるからって、女の細腕ひとつで、百何人もの首を斬りおとせるもんなのかね? しかも世間に正体を知られずに、だよ」
「不可能ではありません」
水野は、湯呑にさめたを注ぎ、ひとくち飲んだ。
「土生匡房の剣の技は、もともとが一太刀で確実に相手を殺すための、殺人剣ですから」
柿村は絶句した。水野は、かまわずに続けた。
「その剣の特徴は、非常に迅速かつ精密な事で、確実に相手の急所をとらえます。迅速さを生むのに、膂力に頼る必要はありません。全身の筋肉を柔らかく使い、特殊な体の動きをすることによって、意識より無意識の反応を俊敏にし、体にある種の動作を徹底的におぼえさせ――」
「ああ、もういいよ」
苛々した柿村は、茶菓子を素手で掴んで口に抛りこんだ。それをくちゃくちゃと音をたてて噛んだあと、片手で抹茶茶碗をとって一気に飲み下した。水野は呆気にとられて、一部始終を見守った。
「もうね、剣のなんたるかなんざ、おれにはさっぱりわからんし、茶の湯の作法もまるでわからん。そんなことはどうでもいいんだ」
柿村は口元に緑色の泡をいっぱいつけたまま、唾を飛ばして早口に言った。
「簡単に言いや、おれが役人でそいつが罪人だってこった。首斬りをやったのが一人だろうが百人だろうが、どうだっていい。おれの仕事は、そいつを捕まえること。そんだけだ。片っ端からひっとらえて晒し首にしてやるわい」
「落ち着いてください」
「ああ、ああ、落ち着いてるとも。おれはいつだって平常心だよ」
柿村は立ち上がり、啖呵を切るような喧嘩口調でたたみかけた。
「そんであんたはどうなんだ、その女をどうしたい。助けたいのか、捕まえてほしいのか。どっちなんだよ」
水野は茶碗と菓子皿を盆に片付けながら、ぼそぼそと口ごもった。
「千夏が首斬りの犯人だというなら……悪党に味方してよからぬことを企てているのなら……」
「はっきり言いねえ」
仁王立ちになって、柿村は怒鳴った。だが水野が静かに立ち上がると、気圧されて一歩退いた。水野は、しばし遠くを見るような目でぼんやりしていたが、ふと我に返り、まっすぐに柿村のほうを見た。
「私は、柿村殿にお供して『首斬鬼』を捕らえるお手伝いをいたします」
それを聞いた柿村は、
「うん」
と力なく頷いた。威勢良く格好つけてみたものの、捕らえる自信などまったくなかったのである。




