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不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
五章
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五 其の玖

 屋敷の軒下では、燕が朝日を浴びながら、せっせと巣作りをしていた。もうひと月も経てば、小さな雛が餌を求めてぴいぴい鳴くようになるだろう。


 大広間で、錦が煙草をみながら待ちかまえていた。


「まあ、すわれ」


 桜木と不知火が並んで座ると、錦は煙管に紫煙を燻らせながら、渋い表情で話しはじめた。


「事情はだいたい、わかっている。藤木の弟を斬ったのは、よい」

「いいんですか」


 桜木は目をまるくした。


「いいんだ。初めから不知火には、斬りたい奴は斬っていいと言ってある」

「は……」


 拍子抜けした顔で、桜木は首をかしげた。その様子が可笑しいらしく、錦は鼻を鳴らして笑った。


「おしずにも聞いた。おれにな、おまえの命乞いをしたんだよ。罰なら私が受けますから、とさ。健気な娘じゃねぇか」


 こう言って、錦は高らかに哄笑した。おしずというのは、どうやら不知火が助けた飯炊き女の名前らしい。

 桜木は、なんとも情けない表情をして黙っていた。不知火は二人の顔をかわるがわる眺めたあと、小さく欠伸をした。


「うん? なんだ、眠いのか」


 不知火は首を横に振り、刀を持って立ち上がった。


「こら待て」


と、錦は面白そうな顔をして制止した。


「帰るなよ。まだ話は終わっちゃいねんだ」


 不知火は眉根を寄せて、厭そうな表情を見せた。


「桜木、おまえは部屋に戻れ」


 錦は桜木のほうを見ずに言った。その態度に、不知火は何か引っかかるものを感じた。


「はい」


 桜木が廊下に出ると、臙脂和尚が彼を出迎え、襖を閉めた。

 しんと静まり返った大広間で、錦と不知火は二人きりで向き合った。錦は、穴のあくほど不知火の顔を凝視している。その遠慮の無い視線を浴びて、不知火は気恥ずかしい思いをし、居心地が悪くなった。


「不知火」

「なんだ」


 目を逸らしたまま、彼女は小さな声で答えた。


「おまえ、今日はなんだかっぽいぞ」

「ばっ」


 馬鹿、と言いそうになって不知火は口を閉じ、掌で額を押さえた。顔が熱い。錦は顔を近づけて、不知火の顔を眺めまわした。錦が目を合わせようとするのを、なぜか外してしまう。


「何をそんなに恥ずかしがってんだ」

「知らぬ!」

「愛い奴だな」

「うるさい」

「おれがいなくて淋しかったのだろ?」


 揶揄われて腹を立てた不知火は、錦を無視して自室に戻った。


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