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五 其の肆
藤木と名乗る男が訪ねてきたとき、錦は留守であった。
臙脂和尚は、錦のかわりに栗田を呼んで応対させた。居合わせた不知火は、栗田の護衛としてそこに座った。
「気が向いたら来いと言われたので来た」
と、藤木伊衛門は言った。その後ろで、彼の弟である藤木佐久治が、
「錦殿が戻られるまで待たせていただく」
と付け加えた。栗田はそれに答えて、
「ようこそ参られた。御館様は、あいにく三日ほど帰られぬ予定であるが、客人の部屋は空きがある。休まれるがよろしかろう」
と言った。藤木伊衛門は、続けて申し出た。
「弟と二人で借りたい」
彼らが臙脂和尚に案内されて歩く姿を見送りつつ、栗田はぽつりと告げた。
「あの二人には気をつけたほうがよい」
不知火は、思わず栗田の横顔をみつめた。とげのある表情で振り向いた栗田は、不知火と目が合うと、少し和らいだ目つきになって微笑んだ。
「身なりをいくら整えても、下賎な臭いは消せぬものだ」
その一言で、最初に栗田が言ったことの意味が、不知火にもわかった。それは、あの強引な錦が、藤木兄弟には「気が向いたら」と言う程度で、強く誘わなかった理由でもあるだろう。おそらく藤木兄弟は、誇りをもった武士ではないのだ。




