五 其の弐
ふと顔を上げると、一段高い場所に黒い柱が立っているのが、目に入った。屋敷の焼け跡である。近づいてみると、大量の瓦が落ちている。振り返ると村全体が一望できた。どうやら、この村の主である土生家があった場所のようだ。炭化した柱の位置からみても、かなり大きな屋敷だったことがわかる。柿村は、幾つかの瓦を注意深くのけてみた。すると、瓦の下から、重なり合ったしゃれこうべが次々に露出した。彼は思わず顔を顰めた。
「……こりゃあ、ひでえ」
柿村はいそいで瓦を戻し、両手を合わせて念仏を唱えた。斬った首は、すべてこの屋敷に集められたのだ。そして、誰かが火をつけた。何のために……?
人間が建物に火をつける理由は、主に三つ。一つ目は、人を殺すため。二つ目は、建物を破壊するため。三つ目は、証拠を隠滅するためである。もしも自分が首斬鬼だとしたら、どんな理由で火をつけるだろうか? 答えはおのずと出た。何かが隠されているのなら、掘り出さねばなるまい。
柿村はごくりと唾を飲みこんで、空を仰いだ。太陽の位置を確認するためである。まだ正午には至らない。
「よし」
袖を捲って襷を取り出し、素早く結んだ。そして瓦を次々に退かし、脇に積み重ね始めた。落ちた屋根瓦の下から、夥しい数の髑髏が顔を出す。黙々と作業を続けながら、柿村は自分を嘲笑った。
――まったくおれは、こんなところで一人ぼっちで、何をしているのだろうな。
時折、手の甲で汗を拭いつつ、柿村はひたすら瓦を片付けることに専念した。こういう場合は、恐怖を黙殺せねばならない。
川でぶよぶよに膨れ上がった土左衛門が見つかったとき、それを始末するのは同心の仕事である。遺体を引き上げ、べっとりと皮膚組織の張り付いた衣服を丹念に調べ、身元を探して家族のもとへ返す。人の死体というのは何度見ても嫌なもので、決して慣れることはできない。だが、仕事は仕事だ。頭を切り替え、感情を追い出してしまえば、別段どうということもない。
――案外、おれも「首斬鬼」と似たようなものかもしれんな。
柿村は自分を嘲笑った。いつも、そうやって勇気を絞り出すのだ。
壊れた屋根の残骸をおおかた取り払ってみると、骸骨の山のうしろに、首の無い白骨死体が出てきた。そのすぐ下に、何か光るものが埋もれかかっているのが見えた。
刀である。柿村は、注意深くそれを取り出した。半ば錆びかかっているが、おそらく、火災のあと放置されていたためであろう。柄を持つと、焦げた鮫皮がぼろりと崩れ落ちた。しかし、素人目に見てもすぐわかるほど、相当な銘刀である。
「こりゃあ……当主の刀だろうなあ」
思わず、口に出して呟いた。ならば、この屍は当主の土生知輔明貞だろうか。白石の遺した手帳によると、生きていれば明貞は二十六、七歳のはずである。かなり若い。
「やれやれ」
柿村は刀を携え、屋敷跡を離れて石段に腰をおろした。瓦礫の下にあったしゃれこうべは、ざっと数えただけでも五十近くあった。
斬った首が一箇所に集められているという特徴から見て、これが首斬鬼の所業であることは、ほぼ間違いないだろう。それにしても、これまでで最も酷い事件である。村人が何人いたかは判らないが、これでは全滅といって差し支えないのではないか。死体の状態と草の伸び具合からみた限りでは、このままの状態で一年ほど経っているものと思われる。
「ふむ。村の生き残りでも探すとするか」
柿村は、刀のあった辺をまさぐってぼろぼろの鞘をみつけ、それに刀を収めると、腰に差した。そして襷を外し、刀をなくさないよう帯に縛り付けた。大事な証拠品である。
「さて」
ぱっぱと土を払った。急いで帰らねば日が暮れてしまう。自分さえ生きて戻れば、あと二、三人は連れてくることができるだろう。本格的な調査には、もっと人数が必要だ。




