表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
二章
13/134

ニ 其の捌

 不知火にとっては、自分が首斬鬼であることを錦に知られている以上、屋敷にいる他の人間にそれが知られても、気にすることは何もない。というのは、錦同様に「斬れない」と感じるような相手は、誰一人見つからないからである。もし誰かが同心に垂れこんだとして、そのときは役人ともども全員斬ればよいと思っている。単に、「声を出すな」と言われているから無視しただけなのだ。まあ、ここにいる男たちは誰もがに傷持つ身であろうが。


「それはほんとうか、不知火殿」


 隣の席についた梅田という男が、大きな眼をぎょろつかせて嬉しそうに声をかけてきた。


「いかんぜ梅田殿、不知火殿は口がきけぬ」

「そうであった」


 月代を茫々と伸ばした小男の黒須が、くっと笑いを漏らした。それを見咎めたのは桜木である。


「黒須殿、何か」

「いや」

「もしかしたら貴殿はご存知なのかな」

「何を?」

「不知火殿が……腕のほど」


 全員の視線が、一気に不知火へと集中した。

 注目を浴びた不知火は、箸を置いて桜木を見た。桜木も不知火を見た。みるみるうちに彼の顔色が変わり、額に汗の玉が浮くのが見てとれた。なるほど、と不知火は思った。錦と対峙したときのわたしの顔は、きっとあんな様子だったのだ、と。


「許されよ、不知火殿」


 突如、栗田が口を開いた。

 栗田は、年の頃は四十ほどであろうか、顔に大きな古傷を持つ、隻眼の男である。彼は酒を呑まない。たったいま食事を終え、茶を飲んでいたところだ。


「桜木殿に害意はない。錦様は、ここで我らが真剣を用い、腕試しの試合を行うことを禁じておられる。ただ、噂にきく『首斬鬼』の腕がほどのものかは、剣の道を修める者ならば、誰しも興味の湧くことであろう。横槍を入れて申し訳ないが、我らは皆一様に、錦様の好意に甘え、この屋敷でこうして寝飯をともにする仲間であると心得る。それぞれが、大なり小なり、錦様のお人柄に惹かれて集まった者だ。殺しあうにはしのびない」


 男たちは、互いの顔をちらちらと見合わせた。各々、思うところがあるようだ。


「悪いな、栗田」


 ようやく、錦が声を出した。


「おれはどうも嘘が吐けぬでな。隠し事をすると、こうやってすぐに知られてしまう。そこにおる不知火は、確かに首斬鬼と呼ばれた奴だ。おれが言うのだから間違いない」

「御館様のお墨付きなら、将軍様の御筆より確かでございますな」


 上座方の誰かが冗談を言い、男たちは再びどよめいた。今度は、いくらか安堵の気を含んでいる。桜木は黙って俯き、掌で額の汗を拭き取った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ