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不知火血風抄  作者: 高倉麻耶
十一章
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十一 其の玖

「お、憶えてない、のか……」


 柿村は水野と千夏の顔をかわるがわる眺めながら、ひどく落胆した。せっかく千夏が首斬鬼ではないということがわかったのに、彼女は元の許婚の顔を、まったく憶えていないと言うのだ。当時八歳かそこらで、その後二十年近い歳月が流れているのだから、記憶になくても無理はない。

 落ち込んだものの、柿村は自分の仕事を思い出して、はっと顔を上げた。


「首斬鬼! そうだ、おれは首斬鬼を探しているんだよ。赤城という男が、その鍵を握っているはずなんだ。お嬢さん、あんた首斬鬼を見たのかい?」

「いえ、わたくしは見ておりませぬ」


 千夏はきっぱりと言った。


「……」


 急に柿村は冷静になった。


――おかしいな。そういえば千夏と明貞は、同一人物だったはずでは。


 だが、目の前にいるこの美女が「首斬鬼」だとは、どうしても思えない。やはり水野の早とちりなのではないか? しかし、今この場ですべてを聞き出すというのは、無理があるような気がする。何か口封じをされている可能性もある。どうにか千夏だけをこの屋敷から連れ出して、彼女の話を詳しく聞きたい。

 そのとき、柿村の腹が盛大な音を立てた。

 柿村は血の気が失せる思いだったが、千夏がにっこりと笑顔を向けてくれたので、心底ほっとした。千夏は栗田のほうへ振り向いて、声を掛けた。


「栗田さま。わたくし、お二人と……どこかでお食事をご一緒したく存じます」


 柿村は驚いて、水野と顔を見合わせた。


「いかがですか?」


 千夏の澄んだ瞳にみつめられて、柿村は思わず笑顔を返しながら、肯いた。


「いいねぇ」


 その返事を聞いた千夏は、再び栗田に声を掛けた。


「栗田さま、お屋敷の外へ出ても構いませぬか?」


 栗田は目を細め、不思議そうな顔をして千夏を見た。そしてすぐに、


「構わぬ。だが、桜木殿を護衛に」


と言って桜木を呼んだ。桜木は、現在栗田か井原に仕えているらしく、


「はい」


とはっきり返事をした。そして、身支度をすると言う千夏と一緒に、廊下の奥へと消えていった。


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