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カレアの双眸  作者: 琥珀
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酒の場の提案

 街に戻って戦果を報告したのち、僕らは冒険者ギルドに併設された酒場で夕食をとることになった。


 ホウボウドリの冷製サラダ、ジャカボのスープ、香辛料をまぶしたチキタの照り焼き、そしてシュワシュワと泡を立てるエール。

 美味しい夕食は冒険者にとってダンジョンから生還した褒美だ。


「それじゃ、まずは一杯いくぜ!」


 すっかり機嫌の直ったモニカがジョッキを掲げる。

 となりで指を組んで地母神に食前の祈りを捧げている無精ひげのタイタス。

 どこかゆるい印象の男だが信仰心は厚いらしい。

 僕はモニカに合わせてジョッキを打ち鳴らし、カレアは静かに水を口に含んだ。


「で、お前たちの戦果は?」


 エールをひと口あおって肉を掴んだモニカがたずねた。

 二人から見れば僕の慣らしのために潜っていたように見えるであろうから、素直に伝えた戦果が多すぎたら不審に思われるかもしれない。

 僕はカレアに視線を向けた。


「ぼちぼちよ」


 カレアは興味なさそうに答えた。

 なるほど、そう誤魔化せばいいのか。

 祈祷を終え、スープに口をつけた白髪まじりが、


「アランの兄ちゃんの実地訓練をしてたんだろう? 俺から見てもだいぶ乱暴なやり方だと思ったが……。まだパーティを組んだばかりなのか?」


「そうだな。まだひと月も経ってないよ」


「つーかアラン、お前まだズブの素人だろ。あんな戦い方でダンジョンに潜ろうなんざ自殺行為だぜ」


 肉を頬張りながらモニカが忌々しげな目でカレアを見る。

 そんな視線など意にも介さず、カレアは自分のサラダを取り分けた。


「実戦に勝る訓練はないわ」


「死んじまったら元も子もねえ」


 ごもっとも。

 ただし、それは命にかぎりがある場合の常識だ。

 残念ながら僕には当てはまらない。


「そんなんじゃ階層主にたどり着くこともできねえ」


「階層主?」


 キョトンとした僕にモニカは半目で大きなため息をついた。


「お前、ホントに何も知らねえんだな……」


「階層主ってのは言葉どおり、その階層で一番強いモンスターのことだ。奴らにとっちゃ、その階層が自分たちの棲み家だから群れのリーダーみたいなもんだな」


 タイタスが丁寧に説明してくれた。

 ダンジョンに階層があり、モンスターがいることは知っていたがリーダー、あるいはボスと呼べるような存在がいることは初めて知った。


「俺たちは第一層の階層主の手前までは行ってるんだ。だがなぁ……」


 何かを思い出しているかのようにアゴの無精ひげをさすった。


「あんたたちはそれなりの手練れじゃないのか?」


「倒せないわけじゃねえ」


「数が多すぎるんだ。俺らのような少人数のパーティじゃ多勢に無勢なんだよ」


 ダンジョンに慣れているであろうモニカたちでも、さすがに数で押されては対処できないということか。

 一対一の強さだけでは乗り越えられない、パーティの練度を測る試練みたいなものとも考えられる。


「ブラックハウンドだったかしら?」


「お、嬢ちゃんは見たことあるみたいだな」


「二層までは到達済みよ」


 カレアの言葉にタイタスは口笛を吹いてみせた。

 ダンジョンの二層に行ったことがあるということは一層のボスも倒したことがあるということだ。

 僕よりも腕が立つのは分かっていたが、それほどの実力があるなら先に教えてくれればよかったのに。


 僕が口を開こうとした矢先、


「おいお前! あたしたちとパーティを組め!」


 先んじたモニカにカレアは冷たく言い放った。


「私たちにメリットがないわ」


 にべもないとはこのことだ。

 だが、モニカは得意げな笑みを浮かべた。


「あたしがアランにナイフの使い方を教えてやる。モンスターとの戦い方はもちろん、対人戦での使い方もだ」


 モニカは懐から質素なナイフを取り出した。

 魔力が切れたときのための武器なのだろう。

 術士や神官など魔法を使うものは想定外の事態で魔力が損耗したときに身を守る手段を用意していると聞いたことがある。


 チラリと見るとカレアは少し考えている様子で、しかしすぐに結論を出した。


「わかったわ。第一層のボスを攻略するまでの仮契約ということなら引き受けましょう」


 モニカは快哉をあげ、タイタスが手を差し出してきた。


「よろしくな、アラン」


 僕は快くそれに応えた。

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