カレアの祝福
「君が、僕の持ち主……?」
聞き間違いだろうか。
そうでなければこの少女は頭がおかしい。
そうとしか考えられない。
「主人、マスター、支配者。呼び方は何でもいいわ。あなたがわたしの下僕であることに変わりはないのだから」
理解ができない。
死にかけた僕を助けてくれたことには感謝するけど、君の所有物になった覚えはない。
「気を失っていたのだから覚えていないでしょうね」
カレアは腕を組み、面倒そうにため息をついた。
「簡単に説明するとあなたは一度、たしかに死んだわ。それをわたしの祝福でかりそめの命を与えた。それがわたしの祝福。あなたにしか使えない祝福よ」
僕は、死んだ?
命を与えられて生き返った?
そんな強力な祝福があるのか?
不可解な情報で頭がいっぱいになった。
「わたしの祝福はね、あらかじめ定められた一人とのあいだに絶対主従の関係を結ぶものなのよ。その決められた一人がアラン、あなただったということ」
カレアは銀髪をかきあげ、左目を閉じて僕を見つめた。
綺麗な蒼い瞳がみるみる真紅に染まったかと思うと、僕の額に燃えるような熱を感じた。
「その額の紋様が下僕の証」
額をさわっても手は熱くない。
同時に目の前のカレアに強烈な親近感のようなものが湧いた。
家族に抱くようなものではない。
ましてや恋人や伴侶に抱く類でもない。
この気持ちはどうしようもなく手放せない、自分への愛着に似ている。
「わたしのことが他人と思えなく感じるでしょう? それは忠誠心でもあり反発心でもある。でも決して逃れることができない。わたしとあなたはもはや一蓮托生なのだから」
気付けばカレアは僕のナイフを手にしていた。
「わたしが死ねばあなたの命も終わる。けれどわたしが生きているかぎり……」
言葉の代わりにナイフが僕の胸に深々と突き刺さった。
「ぐ、あ……!?」
激痛が走り、嗚咽が漏れる。
目の前のカレアの顔は笑っているような悲しんでいるような表情をしている。
そっと身を離したカレアはナイフに付着した血を眺めた。
「ごめんなさい。でもこうしたほうが理解が速いと思ってね」
錯乱する頭で刺された胸元に手を当てた。
流れる血が生暖かい。
僕を生き返らせたと言ったのになぜこんなマネをするのか。
生きている実感を得られたのも束の間、またしても僕は命を失い――
「え……血が、止まった?」
指のあいだを流れていた血はいつの間にか止まり、さわれば傷もふさがっている。
「わたしが死なないかぎり、あなたは死なない。何度でも生き返る。これがわたしの祝福。あなたにとっての呪いよ」
カレアは真っ赤な瞳と冷めた蒼い瞳で僕を見つめた。