宴の隅
三題噺もどき―さんびゃくろくじゅう。
数時間前の曇り空が嘘のように―とはいかないのが現実である。
「……」
どんよりとした曇り空。
時間的には夕方少し手前というあたり。
今の時期はこの時間あたりから一気に暗くなるから油断できない。
……別に何もないから油断も何もないんだけど。ただの言葉の綾というやつだ。
「……」
その曇り空の下。
近くにある大通りが封鎖され、屋台が軒を連ね、やんやと騒いでいる。
夏祭りではなくて、豊穣祭といったあたりか。
少し前に夏祭りをした気がするが……まぁ、祭りが好きな地域なのだろう。
「……」
もう少しすればハロウィンもあったりするが……それよりはこっちの方がいいのかもしれない。気持ち的に。祭りの時期が近くなれば、町は騒がしくなる。
そう、ハロウィンといえば、今年はどうなるのだろう……。
昨年まではほら、色々と規制がかかっていて大混雑とまではならなかっただろう。しかし今年はそれがない。出してもいいかもしれないが、従うことにそこまでの緊張感が生まれない。
「……」
まぁ、田舎の町なので、元より混雑はしないが。
それでも人が集まるには集まる。果たしてどうなる事やら……。どこかの都市ではすでに対策を売っているようだが、ここはそういうのないからなぁ。
宴ならば楽しみ、はしゃぎ、それを共有すべし、みたいな。
個人的には面倒でならない。
「……」
そもそも、大勢が集まるようなところが苦手だったりもして。
こういう祭り辞退積極的には参加しない。
その時則夕の熱というか、浮足立つ感じは少なからず感じてはいる。
だから、誘われれば素直に行く。今日もそのせいで祭りにきただけだし。
「……」
しかし寒いなぁ。
だんだんと夜に近づいていき、空はさらに暗くなる。
雲の隙間から群青の空が垣間見え、空ってやっぱり青何だなぁとか、訳の分からないことをぼんやりと思う。
陽が沈み始めた方角は赤く染まりつつある。
「……」
さして寒くないだろうと思い、上にパーカーを着てくるのを忘れたのがよくなかったなぁ。
おかげで冷えすぎて動く気にならない。
私を誘った本人は、他の人とのおしゃべりに夢中でこちらに気づいていない。
忘れてないか、私の事。
「……」
手持ち無沙汰に空を見上げてみる。
見えていたはずの群青の空は、完全に雲に閉ざされていた。
祭りの時間には晴れるといいねぇなんて言っていたのに、これとは。
まぁ、現実なんてそんなものだ。当日に晴れるとか、時間に晴れるとか、そんな奇跡はおきない。
「……」
あー帰りたくなってきた。
時間も遅くなり始めたから、寒さが本格的に襲ってくる。
真っ暗な空には星一つ見えない。雲が全部隠してしまっているから。
……いや、どちらにせよ見えないかもな。この祭りの光は強すぎる。
「……」
空も見飽きたので、ちらりと隣とみる。まだ歓談中だ。
んー。もうほんとに、一声かけて帰ろうか。
祭り自体は、今からが本番で宴の最高潮という時間なんだけど。
心なし雨が降りそうな気もしてきている。
「……」
ここにおいて1人で帰るのもなぁ……。
でもきっと、隣のその子と来たかったんだろうな……とか思い始めたのでさっさと帰ることに使用。
これ以上ここに居ると、ぼうとしすぎて思考が偏る。それをするなら家で、だ。
なにより寒すぎてこれ以上ここに居られない。
「……」
隣の会話を聞きつつ、タイミングを図る。
その間にも祭りの賑わいはさらに激しくなり、観衆は蠢く。
気持ち悪くなってきた……ほんとにさっさと帰ろう。
ついでにどこか自販機で温かいモノでも飲もう。
「……、」
一旦途切れた会話の好きに、隣の裾をひく。
……ホントに忘れていたみたいな顔と反応が返ってきた。
帰ることにして正解だったな。
「体調悪いからさきかえる…」
隣の隣に聞こえないよう、口を寄せて伝える。
申し訳程度の心配のセリフと表情をもらったが、残念。
つい数秒前のあからさまな態度のせいで、全部遅い。
「…帰り気を付けてね」
それだけを告げ、離れる。
隣の隣に軽く会釈をして、背を向ける。
この後は若い二人で、みたいな気分だ。
同級生だけど。
「……」
たしかあのあたりに自販機があったはずだ。
その前にこの人混みを抜けないと。
本格的に体調崩す前に帰らなくては。
お題:群青・宴・曇り空