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天狼の国  作者: よしだよしお
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守るべき人を守れず、全てを失い国を捨てた犬

この国の皇帝は犬である。



国の高官になるために私は本日、幹部候補生学校の試験を受ける。ここレイド国の高官になれば生涯安泰であり、それは国民の悲願である。役人の中でも幹部クラスの公職を指し、高官の中でもさらに出世すれば仙の位になれるとの噂もある。高官はどんな人間でも試験さえ通ればなれるので、民は皆高官を目指すのがこの国の主流となっている。


そのため、高官になるために必要な幹部候補生学校の倍率は医師以上に高倍率高難易度であり、高官になるために自分の生涯のほとんどを捧げる人間がいるほどだ。



この国はとても豊かな国であり、国が傾いたこともここ数百年起こっていない大国である。


これはとてもめずらしく、周辺国ではほとんど見られないまさに現皇帝の偉業の中の偉業といえる。


その皇帝なのだが、犬なのである。

単なる犬ではない。人の言葉、人の頭脳を持った犬とのことだ。



しかしそんなことはどうでもいい。この国で豊かに、そして家族を養えればそれで良いのだ。私だけでなく、この国で生きる国民は皆そう思っているだろう。


私の名はマクナル。


私は必ずこの国の高官になるために、幹部候補生学校の試験に挑むべく役所へ向かった。




-----------------------------------------------------



レイド国王国歴60年。二代目皇帝が統治するこの国は新生の王国であり、周辺国に比べて少し恵まれない貧しい国であった。




吾輩は犬である。




犬の作り方は簡単である。




国に選ばれた人が城に連れられ、各々の役割に基づいた力を上の人に与えられる。


上の人というのは皇帝よりも偉く、生命に位を授ける概念のようなものらしい。




私は皇帝の護衛を任される位を授かったため、屈強な強面の強者を想像していたのだが、なぜか犬にされてしまった。


もちろんオオカミや物怪の類の犬ではない。


可愛らしい立ち耳のワンちゃんである。




吾輩は犬である。肉球しか無い。


これには国も困り果てた様子で、高官の者からグローブを授かった。


肉球のパンチを強化してくれるのだろうか。




私は人としての知能はあるが一つそこに大きな問題点があった。


喋ることができないのである。


自分の考えや思いを口にできない。私にできることは吠えることだけである。


一部の高官や、上族は言語や種族間の壁なく意思疎通がとれるというが、ほとんどの者がそんな芸当はできないので、私との意思疎通は難しくなる。


一体全体これで何を護衛すれば良いのか甚だ疑問である。






結局私に与えられた仕事は姫の護衛であった。


護衛というか、単なる愛玩動物である。


常に姫君の元に駐在できるので、護衛としてピッタリな役職なのであろう。何を守れるのかはわからぬが。








数年後、国は傾いた。




日頃の圧政と流行りの疫病によって民は苦しみ、民だけでなく皇帝までもが倒れた。


国はこの病に対し最善の対応が取れず、足りぬ年貢を国は圧政によって無理矢理補おうとした結果、残った民も国を見捨て、謀反を起こした。


皇帝は病によって病死し、王妃も民によって誅殺された。




それでも民の怒りは治らず、血族を滅ぼすべく、若き姫にも武具を向けた。




私は姫の護衛である。喋ることもできず、装備もなく、手には肉球とグローブしか持たず。


しかし嘆いていても仕方がない、上の方に与えられた身で皇帝から賜った役職である。姫を守らねばならない。




姫を殺さんとやってきた者が異様であった。




「よう、ワンちゃん!手袋なんかつけて可愛いなぁ!


そこ、どいてくれない?」




男にはたしかに殺意と凶行を実行する狂気さを持っているはずなのに、言葉と表情からは一切それを感じさせないのである。




男は私に武具を押し付け、




「これ、ワンちゃんでも痛いよねぇ。つつくだけいい?つつくだけ!


...あぁ、ごめん、だめだよね。あはは。」




困惑する私の気持ちなんぞわかるはずもなく、男は冗談を言って破顔した。




そして私をみたまんまノールックかつノーモーションでそのまま武具で姫君を亡き者にした。




この男がやってきてからわずか数秒の出来事である。




私は盾になることすらも出来ずに国は滅んだ。




やがて王政を失った国は荒れ、姫を護る責務を果たせなかった私を処分する身分のものもおらず、疫病の被害すら犬の身故に受けずにいたため、私は荒廃したこの国を去った。





皮肉にも犬であるが故に全ての災難から免れ、私は辛くも生き残ってしまった。




その頃の私は目の前で姫を失い、何も出来なかった自分に情けなさすら感じず、途方に暮れていた。



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