story2-2【酒が人をダメにするんじゃない、元々人がダメなのだ】
くたびれたサラリーマン並に生気の無い美恋。これでもかという程背を丸めたひかる。
電話一本で飲み会の準備を全て押し付けた2人は、その代償を支払うように汗だくになりながら坂道を登る。汗に負けて喫煙所から逃げたというのに結局は汗だくだ。
「こんな事なら多少狭くて遠くてもお前ん家にすりゃ良かった…」
「汚れるから絶対嫌。ひかるが引っ越せばいいのよ…」
グチグチと。息を荒くしながらも登る事5分。アスファルトを突き破る青々とした雑草の間を抜けてオンボロアパートの前に立つ。
いつも感じるが、坂道の後のこの階段はどの季節でも最低で最悪だ。
「たでーまー」「おじゃまします」
激坂に階段という試練を乗り越えて辿り着いたひかるの家は、扉を開けた瞬間から天国だった。
環境も電気代も無視しした涼しい空間。
「おかえりなさい、買い物ついでに拾い物でござるよ」
「物みたいにゆーな!」
希望の出迎えと一緒に顔を覗かせたのは七星。苦労知らずそうな白く細い腕に、オンボロアパートには不釣り合いな可愛らしいフレアスカートのワンピース。崩れていない化粧を見るに歩いてきた訳では無いようだ。
「ひっさびさに見たなぁ、元気してたか?」
「元気元気!来週から少しだけバイトも出るよー!」
どうせ送って貰ったのだろうと察しがつくので無駄な事は聞かない。
「これから宅飲みでしょ?私が花を添えてあげる」
語尾にハートマークが付いていそうな。色気(笑)な声色と絵に描いたお手本のようなポーズの七星。
ツッコミを入れるか拒否するか、悩んでいるうちにチャイムがなる。
「たかいー三万ー」
最早貸してくれとも言わないわかばが合流し。
なし崩し的に飲み会が始まる。
・▽・
開始から僅か1時間。既にひかるの部屋は地獄絵図と化していた。
「もぅ就活なんてぃやあぁ。終活してやるぅだ」
度重なるお祈りの言葉を受けて、やけ酒に泣き上戸の美恋に。
「ぜってーあの馬イケたんだってマジで」
有り金全てを無くし、こちらもやけ酒のわかば。
「わかるでごじゃる、吾輩もあのネタなら連らいにたどりちゅたのにでごしゃる」
誤字なのか呂律が回っていないのか、書いてもいない小説の話をし出す希望。
「無理だぁもう呑めねぇ…」
空いたテキーラの酒瓶を抱えてへたり込むひかると。
「ちょっとみんな飲む量たりてないんじゃなーい?」
この状況を作り出した張本人である七星。
床に転がるのは何もテキーラの空き瓶とひかるだけではない。数多くのクライナーにイェーガー、ストゼロ缶にビール缶、と。1時間にしては量がおかしい。
「ジャンジャン開けてジャンジャン飲もー!」
最早祝賀とは程遠く。希望が急性アルコール中毒手前で嘔吐するまで、飲み会は続いた。