story2-1【祝賀と言えば酒とタバコだろ】
「この裏切り者!!サッと新しい職場決めて!」
例の件から1週間。5月も終わりを迎えようとしている、梅雨が待ち遠しいと感じてしまう程熱射の酷いこの時期。駅前の喫煙所は屋根もなく、プラ板の仕切りのせいで通気性も無いから余計そう感じるのだろう。
「そりゃバイトだからだよ、正社員狙いじゃねぇし」
ひかるは早々に大手ショッピングモールの面接を受け、その場で採用が決まった。
丁度似たようなタイミングで面接を終えた美恋から連絡があり、お茶でもと合流したところだ。
「しっかし、どこもかしこも禁煙だな」
行きつけのコーヒー屋は気付いたら電子タバコ専用の喫煙所しかなくなり、駅前の喫煙所に逃走。お茶はなくなり、タバコだけになった。美恋が不機嫌になったのは言わずもがな。
「紙タバコが敵なだけで電子タバコは吸えるもん」
まだ不機嫌だった。
「ごめんて」
「いいけど。とりあえず祝賀会と残念会しよ」
「酒飲みたいだけやん!いいけどさ」
こうして軽い気持ちで酒を飲む場がセッティングされ。2本吸ったところで汗に負けて帰路に着いた。
・▽・
「全く、人遣いが荒いでござるな」
この夏は引きこもって生活するんだ。
そんな決意も虚しく。電話1本で買い出しに駆り出された希望は、汗だくになりながら自宅までの道のりを歩く。両手には大量の酒と少しのツマミが入った袋をぶら下げ、ついでに両腕もぶら下げ。そう、ゾンビのように歩いていた。
大通りをスムーズに進んでいく車が恨めしい。道行く明るい表情の通行人が腹立たしい。
「あっれー!?希望じゃん!」
如何にも高級車です、と言ったフォルムの黒光した1台の車が急に路肩に寄り、窓からよく見知った顔が覗いてくる。
「七星ではないか、久しいな」
一服七星。他の3人や希望とはまた違った風合いだが、れっきとしたヤニカスもといプリキュア仲間だ。1ヶ月ほど顔を見ていなかったが、どうやら元気そうで何より。
久々の再会を楽しむよりも希望としては暑いので早く帰りたいが。
「パパが長期休暇だったからねー。明日からはいつも通りだよー」
パパ、と言っても血縁関係のある実父ではない。お察しのパパだ。
「今帰り?送っていこうか?というか飲みなら私も参加する!」
「助かるでござる。はやり持つべき物は友でござるな」
参加する、という言葉は希望の耳には全く入っておらず。送っていく、という都合の良い申し出だけを聞き取り歓喜する。
この後、後悔することになるとは知らず。炎天下の坂道は先払いの幸福で快適なものとなった。