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Story1-5【漫画と違って現実はつらいよ】

誤字を修正しました。

先日の火災報知器騒ぎによる影響は計り知れず。いや会社全体としてはよくある酔っぱらいのイタズラとして処理されたものの、所々に残る明らかな放火の痕跡に会社は黙っていなかった。

そりゃそうだ。

炎の剣(ジッポー・ソード)は貯蓄していた(綿に染み込ませた)全てのオイルを使い、触れたものを焼き払い灰にする大技だ。インモラルを灰にするのもお手の物。その代わり、オイル補充までの間タバコが吸えなくなるという欠点があるが。

「いやぁ会社としてもね?タバコの火の不始末でっていうのは株価的にも困るのよ。ましてや勤務中なんてねぇ」

現場から退いて以降体重が急激に増加し、パツパツのスーツに脂ぎった額を持つマネージャーがなんとも言えない表情でひかるに言った。

インモラルは原型さえ留めておけば人として戻ってくるのだが、灰にしてしまっては存在そのものが消える。インモラルの吸殻だけが痕跡として残り、まるでひかるが喫煙していたかのようになったという訳だ。

「何度も言いますけど、私じゃないです。そもそも銘柄が違います。お客様の不始末で、」

「銘柄なんて分からないでしょぉ」

説明しようとするひかるの言葉に被せてくるマネージャー。

事態発生から僅か一日で面談日程が組まれ、早々に問題を終わらせたい事だけは伝わる。

「そういうのはもういいかさ、ね?そういう事する子って皆同じこと言うからねぇ」

社会という枠組みは基本的に理不尽で構成されている。勝手な思い込みやイメージ、勘違いは当然。民主主義というのは特に大多数の意見こそが正義であり、少数の意見は時として悪になるものだ。

ストレートに言うなら喫煙者と言うだけで肩身が狭い。

「これまで頑張ってくれてたからね?こちらとしてもやっぱりこう、君の経歴に傷は付けたくないからさぁ?自主退職、でどうかな。有給も使えるし、ね?」


・▽・


ようやく終わりを迎えた週末の勤務。朝イチの仕事終わりに空いてる店は近辺では一店舗のみで、海鮮を多く取り扱う水槽の置かれた居酒屋で仕事終わりの酒を満喫する。

「今日も一日、」

「「「「お疲れ様でした!」」」」

乾杯もそぞろに一口。アルコールの入った炭酸が体に染み渡る。最高だ。

「付き合わせちゃってるけど美恋(みんと)はいいの?今日面接ねぇの?」

「ない、というより書類選考で落ちた…ニートになりたい…」

メールで届いていた見送りの連絡を思い出し気落ちする。面接まで行って祈られる方がまだマシだ。

「んで、高井の面談はどーだったん?」

わかばの切り出しでひかるは今日の面談での出来事を話す。話し切る頃にはグラスは空になり、お通しは腹の中へと消え去っていた。

「はぁ!?ざけんなよ、話ぐらい聞けや!」

「全く、絵に書いたようなクソ企業でござるな」

「まあ会社ってそんなもんだよね…」

各々憤りを感じるもきっとひかる程ではないだろう。追加の酒を頼み、ついでに小腹も空いたのでつまみも追加する。

「でもよー、これで高井は職無しなわけっしょ?どーすんだー?」

「いや普通に次探すんだよ」

「ようそこ、就活の世界へ…ふっ…」

死んだ魚の目、というのは正しく今の美恋の目の事を言うのだろう。虚空を見つめ、ジョッキを片手に手招きする姿は軽くホラーだった。

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