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ジーナ隊長の様子がおかしい

 休憩時間を過ぎたらこちらに人を寄越すようにとブリアンは他の隊員たちに告げ三人はすすきの中を歩いていく。


 ジーナが先頭であるがその口からは何も語られない。行先も目的も、二人に対する言葉もなにもなく、枯草を踏み進んでいく。


 アルとブリアンはかつてないその様子に視線で会話をする。何もかもがおかしいと。休憩時間中に隊から離れ、一人で行きたがる異常さに挙句の果てには不審な建物がある?


 頭が変になったのかと口にこそ出さないが二人はそう思わざるを得なかった。背の高いブリアンが腰を伸ばし背伸びして四方を見渡してもどこまでも風に靡く枯れたすすき野原が広がっている。


 ブリアンは思う。隊長はこの景色のことを承知しているはずなのに、まだ進んでいる。アルを見ると緊張した面持ちで歩数を口の中で数え太陽の位置を確認し続けていた。


 距離と時間を図り、半分になったら強制的に帰るための準備をはじめから行っている。


 ブリアンはジーナの背中をずっと見ている。


 これが逢引であったら、笑って勘弁しようと。いきなり可愛らしい美少女がジーナ! 叫んで飛び込んできたむしろその方がどれほどよいか、と歩けば歩くほどにその念が強まっていた。


 この人はいったいどこに俺達を連れて行くんだ? それともこれは違うのか? 俺達はいったいどこまでこの人について行くんだ?


 あのソグ山での戦いもその前の戦いもずっとそうだった。この人は最前線をいつも志願し誰よりも前に出て戦い、先頭を走る。


 だがそれは武勲のためとは思えずもっと違うものに向かって走っているようにしか見えない。そう、あの眼は、とブリアンは金色の瞳を思い出し身震いする。


 なんらかの狂気や信仰の証なのではないか? 龍へのとは違う、その何かの為の。するとこれもその為の行動であり、だから一人で行きたがった?


 すると俺達はどうする? 俺達はそれに付き合う義理は、あるのだろうか?


「隊長そろそろ時間です。引き返す準備をお願いいたします」


 有無を言わさぬ口調で以ってアルが告げるとジーナの足が止まる。


 ゆっくりと二人の方へ振り返ろうとするその少しの間、隊長であってくれとアルとブリアンは心の底から祈りそしてそれは叶えられた。


「もうそんなに経ったのか。分かった、もうそろそろ戻ろうとしようか」


 意外な言葉に二人は安堵の息を吐き、共に思った。なにも無かったことを指摘しない、どこに行こうとしたことなども聞かない、早く帰ろう、これだけだと。この人がこの人であるうちに。


「だけどすまないがもう少しだけ歩かせてもらえないか、あそこまで」


 ジーナが指差した方向には、なにかがあった。いや、なにかが生まれたような気が二人にはした。


 さっきまでは無かったものが、そこにありそれは黒いものであり、建物であり、家であり、小屋であった。ソグにはないその小屋の形。


「この世のものじゃない」


 震えるアルが呟くようにそう言い、一歩足が退き代わりにブリアンが前に出た。


「おいあれはなんだ?」


 ブリアンは我ながら間抜けなことを言っているなと自覚しながらももう一度繰り返した、あれはなんだと?


「隊長は知っているのか? おい言ってくれよ!」


 恐怖から大声を出すがジーナはその黒い家を見つめるだけで反応はしなかった。数秒の沈黙ののちに二人の方を見ずにジーナは告げる。


「私一人で行く。ここで待っていてくれ」


「駄目です隊長、僕も行きます」


 アルは袖を強く握り引いた。どちらかというとそれは、行くなという動きでしかなかった。


「すぐに済むことだ。着いてくる必要はない」


 その声は穏やかであるのにアルにはどこか遠くから聞こえた声であった。なんだか隊長はここにはいない、と。


「ついて行く必要も行く必要もないぜ、隊を呼んでくる。全員でこの建物を捜索するんだ、いいな隊長!」


 遅れながらも勢い込んで主張するブリアンに全く動じることなくジーナは言下に拒絶する。


「駄目だ。これから私は中に入り二人は外からの様子を伺いまた近づいてくるものへの警戒を頼む」


 違うそうじゃない、とブリアンの反発心が首を振るがジーナは応じない。あんたはそんなおかしなことを指示する男じゃない。


「外はブリアンに任せて僕も行きます」


 なおもアルは袖を引く手を離さない。命令に反してのそのアルの姿をブリアンは今まで見たことが無かった。


「離せアル」


 ジーナがその手を取ろうとした時、ブリアンが遮り代わりにアルの手を離した。


「俺が代わりになるなら隊長だって安心だろ?なんたってアルはいまので勇気の大半を使い切っちまったからな」


 ブリアンはジーナと対峙しながらあの予感があった。あれが来るという胸騒ぎ。


 無表情であるのに瞳の色だけが微かに変わっていく。緑から黄緑へ、この先黄金へと変わるのだろうか?


 するとこの先にこそ敵が、危機が待ち受けているのか? ブリアンは途中で視線を外し前に出た。これ以上見ては駄目であり、もはや問答は無用だろうとばかりに、跳ぶ。


「勝手な行動はやめろ」


 ブリアンは聞き入れずに走り、門に手をかけ開く。


「俺だけ入るか一緒に入るかのどちらかだ。アル! 中に入る俺達を外からサポートするんだぜ。こっちは何かあったら声を掛けるし可能な限りすぐに出てくるようにする、これに文句はあるか隊長。いつもあんたが俺達に指示していることだぜ」


 そう言うとジーナは何も反論せずに門に手をかけ中に足を入れてから口を開いた。


「それで許可をするが、ここから先は私の指示に従うように、いいな」

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