表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/486

なんでこの男は女二人の指輪を買おうとしているんだ?

 これは審査なのか? と男は考えながら女の方を見た。女は背を向けこちらを見ていない、いやそうではなく見ないようにしているといった意識が伝わってくるようであった。


「そういう設定であると、伝えておく」


「ありがとうございます。ではどうしてそこまで? 赤光も中々に高級品でこれでも十分お喜びになられると私は信じられますが。こちらならお預かりしたお財布でおつりも出ますし後々の面倒も起こりません。あなたさまのお気持ちではこれでは不十分だといわれるのですか?」


 自分の気持ちが? と男の勢いづいていた衝動はいったん止まる。私がそこまでする必要とはなんだろう? 私にとってあの人はむしろ、そのようなことをする対象ではなく、それどころか、それ以上に私は……そうじゃない、と男の心はまた動き出す。


 今は違うと、今はそうじゃないと、今だけは、とこの時だけはそうではないその証明としてそれが必要だと。


「妻はとある事情でこういった形での外出が今回で最後かもしれない、らしい。それに買い物の仕方もこの背嚢や鞄が証拠のように量だけを重視にしたものだったが、ここにきて初めて真から欲しいものに出会うも、それを遠慮しているようだとは私の想像力を超えていた。それを知らなければ赤光で良かったが知ったのなら白光を買う他ない。私は知ってしまったんだ、その心を。ならもう可能な限り買う手段を模索するのが今の私の義務ではないのか?」


「義務というよりかは、あなたさまがあの御方にそうしたいという、そのお心なのでは」


 では、その心につける名とは……だが男の思考も言葉もそこにたどり着かずに立ち上がる。立っても分かるはずもなく近づくこともなく、どこにも行けないというのに、座ることもなく立っていた。


「いま、アルに手紙を書きます。どうぞお座りください」


 見下すと主の微笑みが目に入った。


「喜んでお売りいたします。条件付きの分割払いとなりますがよろしいでしょうか」


 男は座り承諾の言葉と共に感謝の言葉を掛けようとするもさえぎられた。


「勘違いなさらないでください。売るのはこちらであり感謝を述べるのもこちらなのです。お支払方法もアルの身近な方であるのですからその点を信頼してのことで。詳細はここではなくどうかあちらからお聞きください。なに無理のない設定となりますが、なにか問題がございましたらアルからこちらにお伝えください」


 そう言われたために男は白光に目を向ける。購入が決まった途端に宝石の光りを放ちこの成り行きを歓迎しているように男には見えた。それから指輪にするために奥の工房に石が運ばれていった。


「良いお買い物を致しましたよ。文句なしに奥様はお喜びになられるでしょう。奥様は自分の手を特に大切にしているでしょうし」


「……そうだな。妻は身体に障害があってああして半身を隠している。だからか右手を大事にしている」


「ご婦人という方はそういうものでございますからね。お身体がそうであるのなら是非ともおつけになってください。するとこの場合は右手で薬指ですね」


 ほぉっと男は感心をし思い出す。西では右手の薬指につける指輪は義務と約束を意味している、と。もとより男は女の左手は意識の外にあるために、それなら全く問題ないと了承した。


 そういえば、と男は思い返す。ハイネへの指輪もここで買おうかと。というかあちらのほうが実際の目的であったのだが、忘れていた。


「ついでにもう一つ指輪を欲しいのだけど。できるだけ安いもので」


「これはまた落差の激しい御注文でございますね。それは奥様のではございませんよね?」


「いやいやまさか。知り合いの女の人のためのもので。代わりに買ってくることになったのだけど、よく分からないから一番安いのではなくて、そこそこ安いのがあったらそれを」


気軽にそう伝えると主の表情が曇りむこうで店員と話している女の方を見、また顔を戻した。そこには明るさは消えていた。また私は失言をしたというのか?


「あの、再三に渡りこのようなことをお聞きするのはお客様のことを深く詮索するつもりはございませんけれども、アルの親戚として一応お聞きした方が良いと思いまして、失礼ながらお尋ねいたします。そのご婦人は御友人なのでしょうか?」


「友人というよりかは同僚だな。私よりも妻との方が付き合いが古い」


 明らかに主は身を固まらせ眼だけを動かしている。なんだろう?


 いったいどうしてそんな反応をするのか。なにか変なことを言ったのであろうか?


「あの、奥様はそのことはご存じでしょうか?」


 緊張し慎重に言葉を選び言葉を呑み込みながらゆっくりと主が尋ねて来るが男は簡単に答えるだけであった。


「いや知らないな。これは私と同僚だけの話だからな」


 主は瞼を閉じ少し黙考したのちに瞼を開いた。なんだその決意を込めた顔つきは。


「アルの手紙には諸事情があって指輪を購入と書いてありました。失礼ながら隊長はろくでもない女にとりつかれている、とも余計な一言も書かれておりましたが、それはあの奥方ではなく同僚の方で相違ありませんよね。そしてその方はアルと仲が悪かったりは?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ