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ハイネさんにプレゼントする指輪を買わなきゃいけない

 もしも女が指輪をいっぱい買いたいと言い出しても、あんなものは小さくて軽いから鞄にはいくらでも入るし、また高価でそこで資金が尽きても問題は無く、だいたいシオンの軍資金はまだ無傷であるのだから全く心配はいらないだろうと男にはなんの憂いも杞憂もない。これで多くの問題は解決だとも。


「でっどの店に行くのだ?」


 随分大人しくなったなと男は女の言葉を聞きながら答える。


「隊員の親戚がこのバザーで店を開いているようですからそこへ行こうと思いますが、ナギは知っている店とかありますか?」


「妾のことはいいから、そこでいい、そこにしろ。そこの方がそなたにとっては絶対にいいはずだ」


 それはもう私はとってはいいものでしょうと、口数が少なくなった女の妙な態度を男は敢えては気にせずにアルの親戚の店へと向かった。


 地図を頼りに歩き中央道から少し外れた馬車に辿り着くがその店は外見は良くは無かった。大きめなテントが張ってあり看板が外にあるのみの簡素さ。風が吹き揺れる様は不安すら感じさせてくれる。


 店名を知っていなかったらまず入らないだろうその店の前に立ち様子を伺っていると、女が先に歩きだした。


「良い面構えの店だな。こういうところにな、良いものがあるのだぞ」


 やる気に溢れている女に引っ張られながら中に入っていくと、そこは薄暗さなどなくむしろ光に溢れる空間であった。


 表からは伺いしれないほどの立派な内装であり、その光源たる装飾品や宝石が並べられ眩しさを放ち男はそのまんま眩惑させられた。


 ここは私のいる場所でなさそうなため生まれる引き返したくなる意識の中で奥から大きめな丸い物体がこちらに向かってきた。(ぬし)であろうか?


 鍛えに鍛えぬいた笑顔を引っさげ、ようこそと挨拶をしてきた。女はなにか返事をするものの男は聞こえぬまま懐からアルの紹介状を差出し主に見せると、目を丸くして大げさに驚いて見せているような感じで答えた。


「ほほぉあいつが、ねぇ。行方不明になって死んだと思っていましたが生きているとは……了解しました。喜んでサービスさせていただきますが、本日はなにをお買い求めで?」


「指輪ですかね」


「そういうことだ」


 男が答え女も応じると主は二人の顔を見ながらまたにこやかに笑い言った


「奥様のお指のサイズは……これですね」


 両手の指を使って数字を現すと女は驚きの声をあげた。


「正解で幸いでした。そう奥様はいまお指を見せていませんでしたが、この商売が長いと遠目からでもだいたい分かるというものです。左右どちらであってもです。今のはほんの軽いご挨拶でして、ささこちらへどうぞ」


 奥に案内され箱詰めにされた宝石たちは不思議な色の光りを放ち儚げに輝き、見る角度で変わり美しさを主張していた。


 主は石の説明をしだしたがどれもあきらかに高価そうなため男は綺麗ですねとしか答えられずに沢山の事を話す女のほうに専ら相手をしだし男は助けられた。一通り見終わったのか間が生まれ男は何気なく女に尋ねた。


「私はどれを見ても綺麗すぎるとしか言えないが、ナギはどの石が気に入ったのですか?」


 男がとりあえず聞くと女は緊張しているからか息を止めながら指をゆっくりと動かし、まるで綺麗な虫を捕える時の動きに似た動きで「白光」というものに指を向かわせていたが、途中で動きは変わり隣の「赤光」の上を示した。


「これになるかな」


「へぇそうかそれなのか」


 そう男が独り言ちるとまた間が生まれ女が何かに気付いたのか立ち上がり言った。


「ちょっと妾は他のものを眺めることにする。あっ来なくていいからな、あそこに店員がいるから彼女と話すことにする、じゃあまた」


 そそくさと不審げに席を去りその後姿を見ると男は首を捻った。さっきからどこかおかしいなと。いつもおかしいわけだが。


「それで旦那様。いかがなさりましょうか?」


 如何とは? いったいなにをと男はまだ気づかない。


「あぁ、妻はどうも買う気は無かったのでそれはもう仕舞っても構いませんよ」


 と言うや主は演技ではなく本気で驚いた顔をして男の顔と遠くにいる女の方を見比べた。


 何だその反応は。


「それよりも違うのを見たいのでそちらをちょっと」


「あのもしかしてですが、お間違いであったらお許しください……ひょっとしてお二人はご夫婦ではなさらないでしょうか?」


 うん? と冷やりとした汗が背中を走るが、そうでないなどと言えるはずもなく男は誤魔化しのため微笑む。自分でも歪んでいると分かる頬の強ばり。


「フッ主よ面白いことを聞いてくるな。私達は夫婦だ。どうしてそのようなことを言うのだ」


「奥様が欲しがっていたものをどけようとしていたからですよ。いったいどなたのために買われるのでしょうか?」


「それは、その……知り合いの、だな」


「知り合い、ですか。本当に差し出がましくて恐縮ですが、わたくしはアルの伯父にあたりまして紹介状をいただいた身でございます。ですので一応は無関係なものではなく、ここでなにかございましたらアルにも怒られてしまいましょうから、こうして御再考を願っております。紹介状にもあなた様がちょっとした事情で指輪が必要になったと書かれておりましたからつい奥様に対してだとばかり」


 ハンカチで額の汗を拭っている主を見ながら男は頷く。その通りだ設定上、変だ。私はおかしい。隣にいた妻役に指輪を買わずによその女のために探そうとするだなんて。



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