安物をプレゼントして侮辱すればよろし
その不可解で不快感のある単語は? なんだ?
「いま恋人とかいったがこれはそういう意味不明な言葉による関係ではない。キルシュとブリアンと全縁違う」
「それはそうですよ。好き同士がくっつき長い年月が流れすぎて自他の関係が不明になったバカップルです。あれを参考にしたらいけませんよ」
「よく分からないがあの二人とは明らかに違うな」
「勿論違いますよ。隊長は言うまでもなくあれに気が無くて、あちらはああやって気があるんですよというポーズをとって男をからかって遊んでいるいつもの手口だと僕は思っていますよ。不潔だ」
吐き捨てながらアルの言葉を聞きながらジーナの心はどうしてか暗いものとなっていった。
「隊長もああしてはぐらかしてよく分からないを連発したのはさすがだと思いましたよ。お前の言っていることは分からん、これです。それでもって意味不明な脅迫で物品を要求されましたが、無視しましょう。買う必要なんてありませんよ」
無言を強要されて捲し立てるアルの言葉にジーナは抵抗感があり良い言葉を探した。普段ならそんなことする必要もないはずなのに。
「いや、そのな、言ったからにはなにかしらを買わないといけないだろう。それだと私が約束を守らない口ばかりな男になってしまう」
既に壮大に約束を破っているのは、やはり悪いことなのだろうとジーナはため息を吐く。
「うーむ。そうか、たとえ相手がどれほどに外道だとしても約束したからには守ることの尊さ。そうですね、そうしてこそ隊長というものです。うん、やはりエライ。男だ」
「っでなにを買ったらいいのだろうな?」
「あの口ぶりはおそらく指輪です。だから指輪でも買ったらいいんじゃないですか? それも思いっきり安物をです。つまりはお前のこんな程度の指輪をはめるぐらいの価値しかないだと間接的かつ直接的に伝えるのもいいですよ」
そうか、一理あるが、でも、これに相談したのは間違いだったなと後悔しながらジーナは首を振る。
「それはちょっと」
「えっ駄目ですって隊長。きちんとメッセージを発しないとあっちは痛々しく勘違いしたままですよ」
なんだかハイネが危ない女扱いされ出していたが、ジーナはアルは露骨な女性嫌悪者であるからよく知っているからそこを差し引いて考えた。
「けど安物かどうかの区別なんかつくのか?」
「つきますよ。女ってそういうところに目ざといというかそればっかり考えていますから。中級品と高級品の差はすぐには分かりませんが、下級品はすぐにわかりますよ。あれは安物をつけて自分は軽く見られたくないという虚栄心の塊ですからね。贈り物ってのはそういう意味で武器にもなります。そうです、隊長はこれからあの女を攻撃する武器を買うということですよ。精神攻撃です」
女性嫌悪者の癖にやけに詳しいなとジーナはアルの頭頂部を眺めながら思いその案を検討するもさっきの声が聞こえた。バザーが楽しみだと、あれがもしも指輪の件だったら、自分の代わりに買い物をしてくれることだったらと予想すると無下にはできなかった。
「そこそこのを買うよ。まぁ私の財布じゃもともと自動的に安物だけどな」
自虐をするとアルは遠慮なく笑いだした。
「それもそうでしたね。隊長は貧乏人ですから奮発してもせいぜい中の下が限界でしょうから説諭してもしなくてもあまり変わりはないですね」
「おいちょっとそれは酷いぞ」
「まぁまぁそこはともかく隊長の任務はバザーに行くことですよね? あっいいです否定しなくて。僕はそっち方面の出身ですし今の時期に買い物といったらあそこしかないですから」
狼狽しながらもそういえばアルはソグ南の出身であることを思い出し昨日教わったシオンの言葉が再生される。
そこは少数民族の自治によって運営されており、そして一代交易イベントがバザーである。
加えてその自治方針を決めたのが、シオンの先祖である龍の騎士であり、そのことでアルはシオンのことを女性としては唯一敬意を示していることも。
「別に任務のことなどは聞きません。むしろこちらからお教えいたします。装飾品の店といいましたら、そうですね。一店いいところがございますよ。それは私の親類が商っている店でして、帰ったら紹介状をお書きいたしますから、ちょっとはおまけしてくれるかもしれません。
まっこれはいつもお世話になっている隊長へのちょっとした恩返しということで……」
そのバザー当日である蛇の日が、きた。




