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悪いのはあなたなのですから、少しは私の機嫌をとったらどうです?

いきなりこうか、いや、当然かとジーナは妙な感心をした。隣にアルという他人がいるというのに真っ向勝負で挑んで来るとは。


 そう思いながら表情を見るとこちらを見ずに前を向く険しい顔つきが武人を思わせ、だからもとより苦手な小細工は抜きにした。


「勢いでそうなってしまった。すまない」


「すっすまないってあなた、それでは済みませんよ」


 あまりにも芸のない言い訳に意表を突かれた形となったハイネにジーナは斬り込む。


「そうしないといけない状況に陥ってしまったのだ。自分の義務というか役目というものの関係上、そうせざるを得なくなってしまってな」


「それは本当にあなたでなければならないことだったのでしょうか?」


 攻め込まれ一気に土俵際まで持っていかれたハイネが俵に乗りながら最後の抵抗の試みをするもジーナは持ち上げた。


「どうしても私でなければならない場面だった」


「……師でなければならなかった場面で無かったのですか?」


「上司が難色を示してね。もちろん私に命令したわけでは決してない」


 暗号じみた会話のやり取りだがハイネには通じそれから納得というか諦めであろう嘆息を吐いた。


「姉様はですね、理由は聞けませんがどこか師を嫌がっている節があるのです。当然表にはそのようなものは滅多に出しませんし会話も交わしますし冗談だって言い合います。仕事の上では互いに頼り合う仲で普段の接し方も全く以て関係は良好ですけれど、深いところで師に対して警戒しているところがあると感じるのです。今回も二人が歩いているのを見た時の眼は、怖い時の姉様のものでしたし。ああいう時は本当に分からなくなって」


 かぶりを振るハイネを見てジーナはどこか悲しい気持ちとなった。この人はこの人で人間関係で苦労しているのだと。だから私をいじめるのだなと。


「そう、あの人は我が上司に師を勧めるも頑なに拒否し続けその後に私以外にやるものがいなくなった感じとなって、で」


「そこが何かおかしいですよ。一番近くにいたからといってあなたが任命されるだなんて。護衛につける戦士は他にいくらでもいます。というかそういった近衛兵を嫌がったから師にしようとしたのが姉様とあの方なのに」


「しかし事態は急転して、と……昨日のことを思うとだけど、これはあの人の描いた筋書通りになったのではないか?」


 芝生での二人の散策からの流れを思い出しながら伝えるとハイネの顔は恐怖にも怯えにも似たものとなり、ジーナの右腕を掴んだ。


「やめてくださいそんな妄想は。ありえないことです」


「そうは言うが可能性を考えたら」


「考えないで、いいからそんなことは考えなくていいから」


 その手にはかなりの力が入っていると思うもののジーナには痛みが無かった。それはハイネの表情の苦しさを見ていたからだろうか? 


「偶然だとしたら私は、あなたの罪を今回は許します。不可抗力による過失だとして破ったことを大目に見ます、そう思い今回は私は諦めます」


 そうじゃないと思う、と言えるだろうかとジーナは考える。こんなに苦しんでいる人に対して自分はそんなことを、突き放してしまうようなことをハイネに……なんで彼女にそんな気を使わないといけないのか? と少し思うもののジーナは従った。


「分かった。今回は偶然だとして、以後またこうならないように意識する」


 あまり心にもないことを言ったもののハイネは安堵の笑みを浮かべ、力を流し腕の掴みから手の握りへと移らせた。


「それはそれでよいのですが、実を言いますと私がここであなたに望んでいたのはちょっと違いましてね。もっとこう、下手な言い訳や誤魔化しを聞いたせいで私が怒ってあなたはこっちの機嫌をとって私はわがままを言いそれでストレスを発散させる、といった事態を予想し期待も少しはしていたのに、そんなに堂々と自信満々に開き直られては困りますよ。そんな態度をとられたら私はどうしたら良いのですか? つまりはあの話を聞いてからあなたに会うまでの間に発生したイライラ分をどうしてくれるのですか? お答えください」

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